|
|
連載リレー・コラム - 第6回
これを聞かずに、死ねるか!
誰にだってあるだろう、宝物のような歌やアルバム。 そんな歌やアルバムのことを話してみよう。
|
一番やさしくしてくれた人
今日はつらいことがあった。
自分はもう、いい齢した大人だ。12才のガキとは違う。つらくてもその場で泣き喚くわけにはいかない。だけど12の時と違うのは、今の自分には音楽があるということだ。家に帰るとすぐにカーティス・メイフィールドの音源を引っ張り出し、誰もいない部屋で膝に顔を埋め、"She Don't Let Nobody"を聴く。前半のスキャットに身を委ね、コーラスの部分をふと一緒に口ずさむ頃、少しラクになっている自分に気づく。なんだ、さっきまでのつらさなんて、大したことないじゃないか。この曲を聴くだけでこんなに幸せな気持ちになれるじゃないか。実際、魔法だと思う。今まで何回音楽に、カーティス・メイフィールドに救われてきたことだろう。
カーティスの歌声の魅力が最大限に引き出されるのは、スロー〜ミディアムにかけてのテンポの曲ではないかと、ひそかに思う。もちろん"Move On Up"のファンキーなホーン・サウンドも、確かに震えがくるくらいカッコいい。時々酒が飲める店でこの曲がかかると、珍しく「もうちょっと強いの頼んでもいいかな」という気にもなる。だけど、ほとんど神がかったまでの、身を包むほどの優しさ。カーティスのそんな一面に触れるためにはBPMは少し抑え目のほうがいい。代表的な例はもちろん、説明不要の大名曲"People Get Ready"だ。
「こんなに誰かに優しくしてもらったことなんてない」
この曲を聴いた時、そんな気がしてボロボロに泣いた。歌詞は当然英語だから、当時はいくつか理解できない箇所もあったけど、そんな些細な部分はどうでもよかった。美しい夜明けを告げるような、神秘的なイントロのギターとピアノの絡み。そしてカーティスがゆっくりと語りかけてくる。「用意はいいかい、もう列車が来てるよ。荷物? チケット? ノー、ノー。そんなもの要らない。ただ飛び乗ればいい。必要なのは信念、そして感謝の心。それだけ……」ゆっくりと曲が進み、疲れきった心にやっと少し活力が戻ってきた頃、それを辛抱強く待ってくれていたかのように、キーが静かに半音上がる。肩をぽんと叩かれ、「もう行けるだろ、大丈夫だよな」と励まされているみたいに。 ひとりぼっちの部屋でヘッドフォンを被ったまま、涙が止まらなくなった。
カーティスは晩年照明の落下事故により下半身不随となり、1996年奇跡の復活を遂げるも、その3年後惜しくもこの世を去った。今でも彼のアルバムを聴くと泣けてくる。それは(大袈裟にいうなら)恩人ともいうべきこの人を偲んでのものなのか、それとも彼の曲が相変わらず優しすぎるからなのか、自分でもわからない。ただ、いずれにせよ、彼の歌声はいまだにあまりに素晴らしい。遺されたレコードは、自己が滅してもなお人を癒し続ける、世界に残された至宝である。その事実だけは揺らぐことなく永遠に続く。
written by joe
|
|
|