パオロ・マッツァリーノ(著)

反社会学講座

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笑いながら考えよう
 

 面白くて、読みやすくて、ためになる本。この3拍子が揃っている本というのは、実はなかなか少ない。この本はネットで連載されたものが加筆修正されたので、手っ取り早くこのサイトを見てくれれば簡単だ。このサイトを見て面白いと思った人はこの本を買ったほうがいい。

 著者はイタリア生まれの30代としているけど、どこをどう読んでも日本人でしかなく、おそらくどこかの社会学者の変名なんだろう。このパオロ・マッツァリーノ氏のトボけた語り口、小ネタ満載の文章が笑いに笑わせる。そして、取り上げられるのは「少年の凶悪犯罪は増えているのか?」「日本人は勤勉か?」「外国人は立派で、日本人はダメなのか?」「フリーターは社会の害悪なのか?」「少子化は本当に問題なのか?」というような現在のいわゆる社会問題である。テレビや新聞・雑誌に出てきて偉そうに「問題」を語る学者(マッツァリーノ氏のターゲットは主に社会学者なんだが)の胡散くささを、どんどん暴いていく。

 例えば、皆さんは「少年の犯罪は凶悪化している」と漠然と思っているかもしれない。しかし、連載の第2回「キレやすいのは誰だ」を読むと、戦後で言えば、昭和35年の少年凶悪犯罪の件数が何と平成2年の6.9倍もあったという事実に驚かされる。つまり「今の子供はダメだ、昔は良かった」「少年がキレやすいのは○○(←食品とかゲームとか)のせいだ」というのも嘘だということが分かるし、今のマスコミが年に1〜2件の殺人事件を大げさに報道することによって、凶悪犯罪が増えているかのような印象を与えているという問題まで明らかになるのだ(昔は多すぎていちいち報道してられなかったのだろう)。

 それから、よく海外で生活していたオバサンが日本人に説教をかます本を出しているけど連載12回「本当にイギリス人は立派で日本人はふにゃふにゃなのか」では、

 イギリス映画の『トレインスポッティング』では薬物中毒の若者の生態や、無関心で無気力な親の姿が描かれていましたが、どうやらあの状況は絵空事ではなかったようです。イギリス人は腑抜けです。短編オムニバス映画『チューブテイルズ』では、地下鉄の車内で平気で化粧をしたり騒いだりする若者が出てきます。イギリス人は恥知らずです。イギリスびいきの日本人ハイソのみなさんは、こういった優れたイギリス映画をご覧になっていないようです。

 と毒に満ちた揶揄をして痛快だ。しかも、その直後にマークス寿子の著作から引用するというイヤミが爆発する展開に笑ってしまった。そして、

 (前略)「外国の若者はむちゃくちゃ優遇された社会でふにゃふにゃのくせして、自分の力で自立していると勘違いしている、日本の若者はきびしい社会環境の中でそれなりにがんばっているぞ」という事実をお伝えしてきました。結果的に、ヨーロッパの若者は失業中かフリーターだし、イヤだと思えばすぐ転職する根性なしだし、大学の学費はタダだったり、アメリカ人だってやっぱり親に出してもらってたり、もう、どうしようもない甘ちゃん連中であることが判明しました。日本の若者のほうがよっぽどマシです。でも、ちっともうれしくないのはなぜでしょうか?
 知れば知るほど、日本社会の狭量さばかりを思い知らされるのです。そりゃあ、ヨーロッパの若者はこれだけ優遇されていれば愛国心も持てますって。日本の国家や社会システムは、若者になにもしてやらないくせに、おまえらは国を愛していないと難癖をつけ、社会が悪くなったのは若者のせいとなじります。タチが悪いったらありゃしない。


 と本質に鋭く切り込んでくる。その切れ味も素晴らしい。身近なネタによって取っ付きやすさを、毒のあるユーモア溢れる文体で面白さを、切れ味鋭い分析・論評で物事を考えるきっかけを作ってくれるのである。こういう本は珍しい。自分にとっては斎藤美奈子の『紅一点論』以来である。

 つまりは、人が物を語るときの動機、そして、それが何をもたらすのかを考えながら新聞や雑誌やテレビに接しなさいということなんである。そして、学者や官僚や民間研究者やマスコミは「問題」で商売するために、本来「問題」でないものを「社会問題」としてデッチ上げてしまう、そんなやり口が、この本でよーく分かる。まずは、サイトを見てもらって、それから本書を読んで、楽観的に、いい加減な人間として生きていきましょう。


review by nob
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