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先日紹介したジ・エイリアンズとキング・ビスケット・タイムは音楽的なベクトルだけではなく、音楽に対する考え方は間逆へ進みつつあるのだが、両者を聴いてみると明らかに違っているのにどちらもザ・ベータ・バンドであり、ザ・ベータ・バンドではないという不思議な感覚に陥ってしまう。
ジ・エイリアンズと時をほぼ同じにして、元ザ・ベータ・バンドのヴォーカル、スティーヴ・メイソンはキング・ビスケット・タイムとしてソロでの活動を再開し、1stアルバムとなる『Black Gold』をリリースした。先行でシングルカットされていた『C I a M 15』や『Kwangchow』のような自身の比重として大きくあるヒップ・ホップやブラック・ミュージックからの影響が具現化されているだけではなく、確実にザ・ベータ・バンドから通ずるフォーキーで、リヴァーヴのかかった独特のヴォーカル・ラインが、誰のモノでもないメイソン節を構築していて、これまでの『No Style Ep』の頃のような閉塞感のあった自己満足の域を一歩抜け出したようにも感じる。"C I a M 15"でのトップキャットとの競演や、"Rising Son"の長年の友達という女性の起用は、アクの強いスティーヴの音楽性に消されることなく、このアルバムの幅を広げている。
音楽にそして自分達に正直でありすぎたザ・ベータ・バンドは、その正直さ故に金銭的な成功を掴み損ね、結果的に2004年に8年目の解散を招くこととなった。またバンドを取り巻く環境だけではなく、スティーヴ自身にも大きな環境の変化があったということだ。それらを象徴するかのように、このアルバムでは感情を表す比較的ネガディヴな言葉が端々に歌われているのがとても印象的である。ザ・ベータ・バンドの解散後、バンドという形態ではなく、ソロという最大に自分を表現できる方法を選び、自分の作品に対する正当な評価を下される前に、作品を制作するために多額のお金を使うこと(=メジャー・レーベルとの契約)への決別をし、本当に納得のいく形でここまで来ていたと思っていた。ところが先日の音楽シーンからの引退宣言、そしてキッド・カーペットをサポートに迎えるはずだったツアーのキャンセルである。ひどい鬱に悩まされているというのも事実だが、どこまで全てにおいて完璧でなければならない人なのだろうか……それが私の率直な感想である。そして同時にこれがスティーヴ・メイソンという人の最大の魅力なのだ。
reviewed by kuniko
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