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03年のフジロック、ベン・ハーパーが「マイケル・フランティ&スピアヘッドを必ず見てくれよ」と言っていた。日付けも月曜日に変わった深夜のレッドマーキーの赤い屋根を、情熱と興奮を伝播させる音の波で、ビリビリと揺らしていた彼らのライブは、陽気でポジティヴな旋風を巻き起こしたエル・グラン・シレンシオにも勝るとも劣らない、03年のフジロックのベストアクトの一つだった。
フジロックの前の6月に出演していたボナルー・ミュージック・フェスティヴァルの公式サイトから、彼らのライヴ音源がすべてダウンロードできたので(さすがは『ジャム系』を標榜するフェス)、その年の夏はフジロックでの熱い、そして胸の奥の琴線に触れるようなステージに思いを馳せながら、ボブ・マーリーからスライ&ザ・ファミリー・ストーン、カーティス・メイフィールドまで、ロック、レゲエ、ソウル、ヒップホップが実にオーガニックに構成された彼らの音楽に、どっぷりと浸かって過ごしたものだ。
「父の日おめでとう…二週間前に、親父が亡くなったんだ。俺の親父は素晴らしい人物だった…この曲を、子供をもつすべての父親ために歌いたい」 イントロで言葉に詰まりながらそう語って奏でられた"Never Too Late"など、未だに耳にする度に、胸の奥を、目頭を熱くする。
その"Never Too Late"を収録した佳作『Everyone Deserves Music』の日本盤のライナーで、はっきりと自身の『政治的姿勢』の自覚と決意を語るマイケル。翌04年には「マスメディアは戦争の『経済的損失』ばかり報道するけど、『人的損失』は伝えない」状況にフラストレーションを感じて、戦時下のイラクに飛び、『I Know I'm Not Alone』と題した1本のドキュメンタリー映画を撮影してしまう。
冒頭でイラク人のガイド兼ドライバーが「私の家族や親戚や友人、私のよく知る人たちの元には案内できる。でもそれ以外は危険だ。襲撃されたり、誘拐されたりするから…これがアメリカがもたらした『自由』なのさ」と忠告する。だが最後には「将来、いつの日か、過去の事はすべて水に流して、イラク人とアメリカ人が仲良くなれることを願ってるよ」と語る。
イラク人の人の良さ、人懐っこさにハマってしまう外国人は多いと聞くが、爆撃や停電、襲撃について押さえ切れない不満を訴えながらも、マイケルの掻き鳴らすギターに集う、文字どおり老若男女の日常的な笑顔は、希望を感じさせられるし、それこそマスメディアが伝えなかったものだったのかもしれない。
そのイラク(そしてイスラエルとパレスチナ)への旅の過程で生まれたのが、3年ぶりの新作『YELL FIRE』(日本盤は9/20発売予定)。曲の半数近くはジャマイカ録音、そしてスライ&ロビーの参加と、レゲエ色がより濃密になっているのが特徴的だ。
「ぼくらの息子を、娘を、奪い去るな」と歌うヘヴィなダブ"Time To Go Home"、「ぼくは1人じゃないことを知っている、こんなに遠く離れた場所にいても」と歌う真直ぐなロック・ナンバー"I Know I'm Not Alone"、「真実に耐えられそうにないとき、ちょっとした嘘をついてくれないかな、今日は雨は降らないって、税務署の役人が道に迷って来れないって…だれかが戦争を止めてくれるって」と歌う優しいバラード"Sweet Little Lies"。
希求力に富んだ歌詞に、アフガン、イラク戦争から4年、倦怠感の漂いはじめた今のアメリカの姿をまざまざと見るのは当然なのだが、『I Know I'm Not Alone』を見てからは、また違った視点を持ちはじめる。それはアメリカからの視点であるのと同時に、爆撃で家族を失い、戦争前の生活を取り戻せないイラクの人々の視点、イスラエル軍の襲撃に怯え家を出て通りで寝起きしたり、難民キャンプで暮らすパレスチナの人々の視点、そして「なにもパレスチナ人が憎いわけじゃない、パレスチナ人がぼくらを憎んでいるとも思っていない、でもゲートから一歩パレスチナ側に出ると、殺されてしまうことはわかってる」と語る入植地に駐屯するイスラエル兵の視点とも、等しく共通するのだ。
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなきあとのアメリカの音楽シーンで、政治的姿勢をもっとも明確に示しているのがマイケル・フランティ&スピアヘッドだと思う。だがレイジのように「怒り」だけではない、ポジティヴさ、寛容さがあるからこそ、様々な角度から浮き彫りにされた「普遍性」を携えることができるのだろう。そしてだからこそ、こんなにも心の琴線を揺さぶられるのだ。
*こちらでビデオを見られるようです。また、こちらでは、マイケル・フランティとスピアヘッドが主催者に加わっているフェスティヴァルのサイト。面白い情報がいっぱいあります。さらにこちらでは今回紹介されたDVDや英語のことを詳しくチェックすることができます。
reviewed by ken
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