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何だかコンクリートに囲まれたビル群に迷い込んだような気持ちになる。無関心、無機質、無感動。そんな硬質な言葉が並べられているような街の中を一人歩いている感じだ。だけど、決して無味でも、無臭でもない。そんな街の一画で3人のブルースマンが鳴らす音を聞いたから。その音に耳を傾ける者は少ないかもしれない。でも、彼等は懸命だ。その姿は無関心とか、無機質とか、そんな言葉に立ち向かおうとしているかのよう。汗を流し、声を枯らしだ。そんな3人のブルースマンがマンホールというバンドだ。そして彼等の最新式のレコードが"ブギー・アウト"。
その佇まいは決して新しいものじゃない。最新式と書いたが、その表現は一般的な意味では決して正しくはない。このバンド、ベースレスのトリオで、2本のギターのうち1本はアコギという変則的な編成なのだが、特別それを売りにはしていない。かといって、音質が飛び切りってクリアだというわけではないし、楽曲に目新しさがあるわけでもない。言葉使いだって巧いのかと聞かれると言葉に詰まる。それでも、彼等のサウンドにはこちらの気持ちを躍動させるような熱がこもっている。それは出来ることをやるという一生懸命さにあるのではないかと思ったりもした。だけど、それだけではない。そう、それは彼等の音に対するスタンスそのものにあるのだと。
例えば、必要なものと不必要なものとに全てを分けてしまえばどれだけ楽になれるのか。だけど、彼等はそんなわかり易い分割に決して足を向けようとしていない。彼等はあくまでも正直だ。鳴らす音に、自分自身に、全てに正直だ。例え、自分の乗っているロケットが偽物だったとしても、それに乗ってやるという覚悟がある。そこに乗ってしまえばただのピエロになる可能性だってあるのだ。でも、それだけが理由で足を引っ込めるなんて気持ちはは彼等には微塵もないのだ。彼等の音には必要も不必要もない。あるのは、音を鳴らす、歌を歌うという意思だけだ。生きれば生きるほど切り取られていきそうになるそんな気持ちをこの作品は見事に音でパッキングしている。
ゴロゴロと転がって、何かにぶつかって、穴に落ちそうになって、それでも朝をむかえなきゃならない。それって一つの真理ではある。マンホールを聞いていると、やっぱりこんなバンドがいなきゃと強く思うのだ。僕の乗っているロケットは偽物かどうかなんてのは二の次だって気になる。とにかく飛ばなきゃと思う。そう、こんなバンドがいてくれなきゃ残酷なぐらいの真理の中で飛び続ける理由がわからなくなりそうだ。羅針盤にさえなりそうな素晴しい一枚。それが、"ブギー・アウト"なんだ。
『"ブギー・アウト"レコ発』 @新大久保 EARTHDOM
2007/6/21(木) 新大久保 EARTHDOM
with 行方知レズ、オム、ライトニン・スタックス
OPEN 18:30 START 19:00
前売 1500円 当日 1800円(別途ドリンク代 500円)
reviewed by sakamoto
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