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ずっと、ずっと、最初から最後まで、徹頭徹尾、とにかく続く微熱感。バリバリのギターソロも、ノイジーな爆音もない。テンションは一度も振り切れる事なくレコードは止まってしまう。キラキラとした音とポップさ高めのメロディーはゆらゆら帝国史上最も「ゆらゆら」とした印象を残す。小学生の頃、自転車に乗って逃げ水を必死で追いかけたのを思い出した。あの掴めそうで掴めない感じ。聞き終えた後、なんでか浮かぶ「?」。だからなのか何度も何度も再生ボタンを押さずにいられない。ゆらゆら帝国の2年振りの新作"空洞です"。
とにかく、フィジカルな感触がほんとんどない。ギターリフの印象なんて曲が変わってもほとんど変化を感じないぐらいだ。アルバムをどこから聞き始めても、1曲目みたいな印象がある。つまり、アルバム全体にもメリハリがない。坂本慎太郎のボーカルもあの朴訥な顔そのままに、一本調子で歌われている。まるで、音楽が持っている力を削ぎ落としていっているかのようだ。とはいえ、それが内側に閉じこもっているだけのものではないから質が悪い。メロディーだけを取り出してみると、かなりキャッチーな出来上がりだ。80年代の歌謡曲みたいなサックスの音をフィーチャーしていたりと、決して聞き手を無視したものではない。そこにつられて、聞き込んでいくと止まらなくなってしまうのだ。この感じ、ミニマルなロックという言葉で片付けてしまえそうだけど…。浮かんでくるのは、妙な居心地の悪さ。最高とも断言出来ないし、聞く事を止めたいとも思えない。どんどんと自分の立ち位置がどこかわからなくなっていく。狂ったコンパス持たされて、深い森の中に放り込まれたよう感じ。方向感覚がどんどん狂っていく。
そんなことしているうちに気付くのだ。この作品、どんなに聞き続けても、どこにも着地点が見つからない、つまり、迷いっぱなしなのだ。例えば、アクション映画をみて主人公に憧れるような、ドラマに登場する悲劇のヒロインに深い悲しみを抱くような。はたまた、ロックンロールヒーローに興奮するような。そんな聞く側が抱くエモーションを完全に排除している。チープに抱かせる感情や、方程式にはめられたような感動に全く流れる事なく作品を造り上げているのである。人間って感動したり、興奮したり、常にそんな感情を求めている生き物だと思う。だからこそ、このアルバムは"空洞です"なのだ。
歴史は繰り返すとか、金は天下の廻りものとかいって循環している世間の仕組みの中で、生きているとだんだんと虚しさを感じてくる。どうせ廻るんだったら、何もしなくても同じなのではないかと。感動さえもこの虚しい循環の中の産物なのである。ゆらゆら帝国の空洞にはそんな不穏な空気、諦めにも似たムードをしっかりとパッキングしてある。そこに決してアンチテーゼな意味を求めてはいけない。この空洞にあるのは一つの虚無感だけ。たったそれだけしか鳴らしていないという他に類を見ない素晴しい傑作。しばらく、この微熱に悩まされそうだ。
reviewed by sakamoto
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