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昨年の7月7日、東京都渋谷区にあるライブハウスで、「音楽は耳で聴くのではなく、身体で感じるもの」、また、「聴覚障害はあっても音楽を楽しむことが出来る」というのをモットーに聴覚障害者ロックバンド、及び、手話パフォーマーのイベント、「サインソニック '07」が開催され、フィンランドから手話で表現するラッパー、「Signmark(サインマーク)」が初めて来日した。彼は昨年のエアーギター・ワールドチャンピオンのショーに出演したり、フィンランド独立記念日の式典に大統領から招待されるほど世界から注目されている。彼はもちろん、耳が悪い。元々デフリンピック(聴覚障害者のオリンピック)のアイスホッケー選手だったが、聴覚障害者の人権を守るためにアイスホッケーを引退し、音楽を選んだそうだ。2年前に聴覚障害者として初めてアルバムを制作し、発表することが出来た。今回のアルバムは実際に起きた出来事や彼の体験をもとにした作品であるが、もちろん聴覚障害者のために映像用DVDが付いている。残念ながら日本に売っていないが、オンラインで購入が出来る。
全体的なサウンドはジャス系ヒップホップな感じで、聴覚障害者が分かるようなリズムだった。サインマークがラッパーを選んだ理由は、手話でコミュニケーションをすると早く表現出来るから。たまたまテレビでラッパーが流れていて、それを見て「これなら出来る!」と思い、手話でラッパーすれば、自分の気持ちをそのまま伝えることが出来ると思ったからと言われている。一般的に手話コーラスは、歌詞をそのまま表現するのではなく、歌詞のイメージを掴んでから手話表現をするもので、それはまるでミュージカルみたいなイメージ。でも、サインマークは違う。伝えたいことをそのまま表現しているから、音楽と手話のリズムがピッタリでスッキリしている。こんなにカッコいいパフォーマンスは初めてだ。
ここに収録されている"Kahleet"は過去の法律のことを歌った曲。原則として聴覚障害者同士で結婚は認められないが、結婚する場合、聴覚障害を持つ女性が子供を作らないように卵巣を取らなければいけない。卵巣を取った証拠書類を提出すれば結婚が出来るというのだ。しかし、実際に妊娠をしてしまった夫婦がいたが、幸いに隠れながら無事に産まれる事が出来たらしい。もし、法律が変わっていなかったら、サインマークはいなかったと思う。なぜならば、彼の親も聴覚障害者だからだ。
"Our Life"は、彼が実際に体験したことがもとである。親が聴覚障害者と手話のせいでいじめがあった。また、健聴者と同じように聞こえるようになるために人工内耳(頭の中に機械を埋め込むこと)を受けようと考えたことがあったらしい。しかし、医者に高い金額で支払って自分の頭の中に機械を埋めるのは人間らしくないと気づいた。自然に生きるためには手話があるからだ。
彼は人権差別を無くそうと積極的に各国のフェスティバルに出演し、ASL(アメリカ手話)及び国際手話でメッセージを伝えている。国際手話は、世界ろう連盟から作られたもので国際交流の時に利用する共通手話だ。しかし、手話に関する問題が出ている。例えば、島国が多いアジアには多くの言語が存在し、手話がまとまらない。また、手話通訳者が一人しかいない国もある。手話は言語であるということをまだ認めていない国がたくさんある。その他に手話禁止、手話通訳者不足など様々な問題が山ほどあるのだ。それに対して、サインマークは音楽を通して手話は言語であることを認めてもらえるように全世界に訴えている。現在、2枚目アルバムに向けて製作中だが、どんな歌が生まれてくのかすごく楽しみだ。
reviewed by hara
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