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夏以降、ことあるごとに「良いアルバムになりそうな気がします」と言っていた3人が、秋の終わりになって、「いやー、すごいのができちゃいました。てへ☆」と自信たっぷりに差し出したのが、ア・フラッド・オブ・サークルのセカンド・フル・アルバム、『Paradox Parade(パラドックス・パレード)』だ。ギタリスト不在の状態で行われた作業は、物理的にも心理的にも負荷が大きかったはずだが、彼らは持ち前の明るさでやり遂げ、とても瑞々しい1枚を届けてくれた。
レコーディングにあたり、3人は先輩ギタリストにサポートを依頼するために、毛筆で手紙をしたためたという。毛筆て(笑)。あの切羽詰まった状況でこういう茶目っ気のあることができてしまうところが(しかも天然で)、フラッドがみんなから愛される由縁である。もちろん、先輩諸氏は快諾。奥村大(wash? - ウォッシュ)、安高拓郎(椿屋四重奏)、竹尾典明(FoZZtone - フォズトーン)、菅波栄純(The Back Horn - ザ・バックホーン)という粋な兄者たちが、アルバムに彩りを添えている。
これまで、フラッドの楽曲はほぼ佐々木(Vocal & Guitar)の手によるものだった。しかし、前作『Buffalo Soul(バッファロー・ソウル)』リリース後、他のメンバーも積極的に曲作りをするようになり、今作には渡邊(Drums)作曲の"Ghost(ゴースト)"が収録されている。佐々木は、言葉選びの新しい手法に挑戦。石井(Bass)のベースもずいぶん主張するようになった。物作りに対して欲が出るのは良いことだ。『Paradox Parade』には、音楽を奏でる喜びがあふれている。
そんな、時折やけくそに感じられるほどハイテンションなアルバムの中に、寂寥感の漂うブルースがひとつ。"月に吠える"。萩原朔太郎の詩集と同じタイトルを持つこの曲は、唯一3人だけで演奏している曲でもある。哀切な歌詞とメロディーに、「やめることは一度も考えなかった」という愛すべき若侍たちの胸の内を思う。青い感情がにじむ "月に吠える"は、いかにもフラッドらしいブルースであり、3人にとっての血判状みたいなものだな。
思いがけない形で生まれたアルバムかもしれない。個人的な感情として、まったくわだかまりがないとは言えない。しかし、3人が足を止めなかった証として、このアルバムが存在することを心から嬉しく思う。喜んで迎え入れたい。ア・フラッド・オブ・サークルは、これからもブルースを鳴らし続ける。彼らの音が本当に解き放たれた時、その光は間違いなく世界を包むはずだ。『Paradox Parade』は、前を、未来を、見据えたアルバムになっている。
reviewed by satori
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