パラボリカ・ジャム (Parabolica Jam ‘ 09 ) @ 名古屋クラブクアトロ 2009.10.27  

乱れ打たれる音符になぶり殺されかけた秋の夜長
テキスト・レポート「乱れ打たれる音符になぶり殺されかけた秋の夜長」 @ 名古屋クラブクアトロ 2009.10.27

 発表されたときから待ち遠しく思っていたのがこのParabolica Jam ‘ 09(パラボリカ・ジャム)というイベントだ。これはLITE(ライト)のベーシストである井澤淳らが主催しているParabolica Records(パラボリカ・レコーズ)に由来しており、そのレーベル企画。出演アーティストはそこに所属するテラ・メロスやアドビシ・シャンクの海外勢を筆頭に、主催であるライト、その他は東名阪によって別のキャストが組まれている。ドン・キャバレロやヘラに代表されるプログレシッヴな骨組みとハードコア譲りの激昂感を有した、”マスロック”と呼ばれるメンツが揃いも揃う宴であり、一度はこの眼で確かめておかねばいけないという衝動に駆られて、自分は会場にまで足を運んでしまった。動員の方はまずまずで、今時のロック好きな若者からトーを見に来たと思しき落ち着いた年齢の方まで会場は結構な賑わいを見せていた。

 まず登場したのはアドビシ・シャンク。『パラボリカ・ジャム』というイベントが一体どんなものなのか? を知らしめるのにこれほどうってつけのトップバッターはいないだろう。ライトの盟友であるアイルランドの奇天烈マスロックトリオである。

 ギター、ベース、ドラムというオーソドックスなトリオ編成ながら、エフェクターやタッピングを駆使して多彩な音色をフロアに叩きつけるギター、バンドの顔である覆面ベーシストの屈強に波打つベースライン、変拍子をものともせず突っ切るドラム、と各パーツはこれでもかというぐらい個性的。しかも各楽器が猛スピードで衝突し、鼓膜が擦り切れてしまいそうなほどのノイジーな爆音となってフロアに撒き散らされていく。息をもつかせぬその怒涛の展開による緊迫感、刹那を音で埋め尽くすその荒業は見ていても圧巻で興奮もの。終始ハラハラドキドキさせられっぱなしであった。そして、ショウが進むに連れて焦燥感を増していく爆音の乱舞は想像以上の昂揚をもたらしていたのも体に余韻として残っている。僕は去年7月にライトのツアーに同行したときに一度ライブを見ていて(実は今年の夏に2回目の来日ツアーも実施している)、弱冠の耐性はあったのだけど、その時以上にトリオの一体感や音のけたたましさを肌で感じ取れたこともよかった。おそらくこの日初めて見た人にとっては規格外の爆音が耳を襲うそのパフォーマンスに唖然としたことだろうと思う。

 そして2番手には、おそらく今日の出演者の中では一番の知名度を誇るtoe(トー)が出陣。今日集まったお客さんの中には彼等が目当てという方も多かったことだろうと思う。個人的に、トーを見るのはレポートをお届けしたエネミーズとの共演以来。いつも通りに美しさと熱情が入り乱れる独特のインストゥルメンタルで会場を魅了していたのが印象的だった。アコースティックギターが静かに叙情の漣を立てる前半、肉体的なバンドサウンドで胸を焦がした後半に分かれた全8曲約45分のステージ。そこにはまるで揺らぐ事の無い雄弁なトーの世界が打ち立てられていた。

 毎回毎回どうしてこうも琴線を鷲づかみにしてくれるのか、そして熱いものを体の奥底から沸きあがらせてくれるのか。やはりそれは、温もりと詩情に溢れた彼等のサウンドスケープが何よりも心に響くからに他ならない。さすがの安定感でイベントの中盤戦を引き締め、トーは静かにステージを去っていた。なお、 12月9日には4年ぶりとなる2ndフルアルバム『For Long Tomorrow(フォー・ロング・トゥモロウ)』を発売予定。おそらく本日披露した新曲はここに収録されている曲であると思うのだが、それを聴く限り、期待通りの内容になっているはず。

 3番手には主催であるLITE(ライト)がいよいよ登場。今月には3曲入りのEP『Turns Red EP(ターンズ・レッド・イーピー)』を発表し、シンセサイザーという新たな武器を手にしてバンドとして第二章に突入したことが記憶に新しい。それでも本日は、ギターリフが鮮やかに空間を切り裂き、爆発的な昂揚感へとつなげていく「Ef(イーエフ)」でいつも通りに激昂のスタートを切った。そのまま序盤はお馴染みの曲を固めてグイグイと引きずり込んでは解放し、何度も爆発する瞬間を引き起こしていく。その激タイトなアンサンブル、これこそライトの真骨頂だろう。会場に一際大きな熱をもたらしていた。

 昨日完成したばかりというできたてほやほやの新曲からは、新たに獲得したシンセサイザーのキラメキを余すことなく披露。この新曲がまた、エレクトロな空間装飾とスラッジメタルばりの重厚なサウンドの噛み合わせで畳み掛けてくる印象深い曲であった。ただ、いつも寡黙な感じでギター弾いている楠本がシンセを操っている姿は、かなり新鮮であったのは事実。それでも、これからこの新たな武器を大々的に活用していくと思うので見慣れるのもすぐのことだろう。その後は「ザ・サン・シャンク」、「ヒューマン・ギフト」と続けて会場を炎上させ、控えめに30分ほどで終了。これはおそらく次のテラ・メロスに花をもたせるためだろう。彼等を見るのはマグの取材で訪れたRaidWorld Festival(レイド・ワールド・フェステイヴァル)以来で約5ヶ月ぶりであったが、イメージを覆す変化をしながら、バンドとして着実に前へ進んでいるのがよくわかるライブであった。12月には前述したEPのリリースパーティーですぐ名古屋に戻ってくるそうなので、本日のライブで気になった方は足を運んでみてはいかがだろうか。

 ラストはサクラメント出身のポストハードコア・マスロックの奇形児3人組テラ・メロス。こちらもアドビシ・シャンク同様にオーソドックスな3人編成であったが、彼等よりもさらに複雑に転調を繰り返す先読みできない展開とメタル・プログレを超越したかのようなテクニックが凄かった。緻密に構成されながらも奇天烈に乱舞する旋律とリズムは激流となって心身を飲み込んでいく。これは、ジェットコースターのような音楽といわれるのも納得の混沌具合。だが、その火花が散るような楽器陣のスリリングな連携にとどまることなく、艶やかな歌をパーツのひとつとして楽曲に組み込んでいて、柔らかいニュアンスを音に与えているのも彼等の特徴のひとつである。とはいえポップな引きの部分はあれど、CD以上に尖った鋭角性と炸裂感に富んだサウンドがもたらす昂揚感はやはり格別。また、眼の覚めるようなテクの応酬を披露しながらも、決してフロアに眼を向けていないわけではなく、反応を見ながらアドリヴ入れたりして楽しませてくれる場面も見受けられた。楽と激が同居したパフォーマンスといったらいいのだろうか、そんな50分間のステージは一体いくつの音符を身に浴びたのかわからないほど凄いものであった。

 全4バンド、約3時間半のイベントであったが、終わったあとにどっと疲れが出たのは独特の緊迫感とステージから放たれた数多の音の粒子のせいだろう。鍛錬に次ぐ鍛錬で己を磨き上げてきた者たちによる共演は、確かな個性と強烈な衝撃を全ての人に植えつけたことだろう。ライトが雑誌かWEBのインタビューで『シーンを作っていきたい』という言葉を発していたのを見た記憶があるのだが、その胎動を感じるイベントだったのは間違いない。

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Text:
Takuya Ito
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