エミ・マイヤー (Emi Meyer) – 『パスポート (Passport)』

 
CDレヴュー 『パスポート (Passport)』 2010.03.11

 エミ・マイヤーをはじめて観たのは、2009年のフジロック・フェスティバル。そこには憂いを帯びながらも、凛とした意志を感じる歌声が広がっていた。そして一つひとつの言葉を大切に紡ぐ姿に、何も考えることができないほど見入ってしまったのを覚えている。たった数十分間のステージで、すっかり酔いしれてしまっていたのだ。彼女の音楽に対する純度の高さは、思わず言葉を失ってしまうほどである。

 その後も各地のイベントやフェスティバルに出演を果たすなど、着実に世の中に浸透しつつある彼女の歌。次の展開が注目される中、待望の2ndアルバム、『パスポート』が完成した。彼女を取り巻く熱は、ますます高まるに違いない。そう確信できる作品である。

 本作は、驚くことにすべての楽曲が日本詞。ここ日本で活動をすることが多くなったこともあり、身近にいるリスナーになじむ曲を書きたいという想いが芽生えたようだ。日本詞と英詞で歌うバイリンガルのシンガー・ソングライターとして、新たな音楽性を示すことができたのではないだろうか。

 今回のアルバムにつけられたタイトル、『パスポート』。その名の通りに、まだ見ない世界に出会うことの素晴らしさを、実感できる曲達が散らばっている。楽曲を聴き終えるたびに、もっと何かを追い求めて生きたいという想いが溢れてくるのが分かった。彼女自身が常に新境地を切り開いているからこそ、こんなにも胸に響くのだろう。

 なかでも耳に残って離れなかったのは、ギターに高田漣を迎えた「登り坂」。まっすぐ先を見据えたメッセージは、どんなことがあってもゆるがない心の強さを感じさせてくれる。彼女の詞からは、自分自身を信じる気持ちが人一倍伝わってくるのだ。自分の足でしっかり立って進むことの重要さに、改めて気付かされるようだった。願いばかりを胸に秘めていても、行動しないことには何一つ変わらないのだ。

 またレゲエやジャズ、ボサ・ノヴァなど、あらゆるジャンルを取り入れたサウンドにもじっくり浸ってほしい。まるで新鮮な空気を吹き込まれるように、1曲ごとに違った世界観を見せてくれるはず。さらにメロディが重なると、どこか懐かしい雰囲気が漂うことも。これでもかというほどに、自分が持つ想像力が掻き立てられるようだった。

 ちなみに本作は、全曲ともMCや音楽プロデューサーであるシンゴツー(Shing02)との共作。そして高田漣のほかにも、森俊也など数々のミュージシャンが参加している。多くの人と触れ合い刺激を受けることによって、完成したアルバムといえそうだ。彼女にとっては、作品づくりこそが旅そのものだったのかもしれない。

 そして嬉しいことに5月には、この作品を引っさげたツアー、「Emi Meyer "Tour PASSPORT"(エミ・マイヤー"ツアー パスポート")」を開催。様々な人達に存在をアピールする機会になると同時に、より日本を知るきっかけになるに違いない。

 今後、彼女はもっと日本語を突き詰めていくのだろうか。正直まったくの未知数だが、いずれにせよゆっくり見つめていこうと思う。ひとまずは、日本への想いが詰め込まれた作品がここに誕生したことは確かである。

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Text:
Ai Matsusaka
ai@smashingmag.com

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