ディアハンター(Deerhunter) & オウガ・ユー・アスホール @ 名古屋クラブクアトロ 2011.1.21

幻惑と陶酔の夜
テキスト・レポート「幻惑と陶酔の夜」 @ 名古屋クラブクアトロ 2011.1.21

Deerhunter

 現在、USインディー・ロックで絶大な人気を誇り、その火を世界規模で拡大しているのがこのアトランタの4人組ディアハンターだろう。シューゲイザーに迫る甘美なノイズ・ギターとポップで柔らかなメロディを核に据え、USインディー・ロックに寄り添った形で巧く表現しきることで人気を博している彼等。2008年にリリースされた『マイクロキャッスル』がアメリカのWEB誌のピッチフォークで高得点を獲得したのを皮切りに、その名を世界各国に広めることに至った。ここ日本も当然その輪の中に入っており、翌09年にはアクロン・ファミリーと共に初来日公演も敢行している。そして、再びの決定打となったのが昨年発売の4thアルバム『ハルシオン・ダイジェスト』。こちらも前作に引き続いて世界中の各誌で軒並み高評価を獲得しており、ディアハンターの名前は、今年もさらなる範囲に広まっていくだろうと予想される。

 そんな今いち押しのバンドを迎え撃つのが、かつては名古屋を拠点に活動していて、今では世界を股にかけてライヴ活動を行うようになるほどの成長を遂げたオウガ・ユー・アスホールである。もはやマグではお馴染みの存在である彼等と今をときめくディアハンターの対決は、非常に見物。注目バンドの来名公演ということで、若者を中心に会場の客入りも上々である。

Ogre You Asshole

 まず先手はオウガ・ユー・アスホール。個人的に彼等のライヴは初となるが、これが予想以上に引力が強くてびっくりした。自由なアイデアと遊び心を曲に還元しつつも、ポップをしっかりと浮かび上がらせていくのが特徴的なバンドだと思うのだが、その音楽には日常と日常を越えた異次元が同居しているかのような不思議さがある。視界がパッと明るくなるスタートの「ひとり乗り」から心が揺れた。静かに鳴らされた最初の一音から胸の奥で何かが弾けるような感覚に陥り、柔らかな光が漏れる様な音世界がそっと手を差し述べているかのようだ。これに僕は序盤で早くも虜になってしまった。

Ogre You Asshole その後もシンプルな音の組合せ、隙間を巧く生かした構成力、軽妙に噛み合うアンサンブルでもって示されていくオウガの個性。軽快なリズムで引っ張っていく「ヘッドライト」、鮮やかな単音ギターがもたらす華やぎとふわふわとしたバンドサウンドが映える「バランス」など楽曲が多彩なのも良い。自由なアイデアの投下とさじ加減の巧さでもって、クレヨンの色を塗り分けたかのような色彩感を曲にもたらしている。曲によってはそよ風のような優しさも大地のような力強さも感じたし、陽気でうららかな日差しを浴びているかのような心地よさに身を任せたくなったり、またはギターとベースが共鳴しながらサイケデリックな藍色の闇へと誘う事もあった。いい意味でラフで肩の力が抜けている感じなのに、聴き手を引き込む力が恐ろしいぐらいに強い。ライヴで初めて味わえる感覚というのが彼等のライヴにはある。

 締めくくりの「ワイパー」では、丹念に紡ぐ有機的なグルーヴと絶妙なポピュラリティの共存が光の粒が一面を舞うかのような真っ白な世界を生みだしていく。これにはうっとりとした恍惚状態に。その裏では湧きあがる静かな昂揚感に体が支配されていたのだった。ライヴ巧者っぷりを如何なく披露。先手としてはあまりにも十分すぎるステージであった。

— set list —
01. ひとり乗り / 02. ヘッドライト / 03. ピンホール / 04. タニシ / 05. バランス / 06. カポ / 07. 平均は左右逆の期待 / 08. フラッグ / 09. アドバンテージ / 10. ワイパー


 30分程のインターバルを置いて後攻でディアハンターが登場。彼等も想像以上のライヴをみせてくれてかなり驚かされた。音源を聴いていて弱々しくて繊細なイメージがあったのだが(それを加速させるのがVo&Gのブラッドフォードの風貌)、それを軽く吹き飛ばす轟音の存在感が大きい。細かく渦を巻くサイケデリックなギターと感情的な音の洪水はかなりの威力を誇り、初っ端の「クリプトグラムス」からノイジーなサウンドで席巻していく。ぶちかますという表現は、音の壁の中でたゆたい、溺れるような感覚もあるので、正しくないかもしれない。っが、シューゲイザー譲りの轟音ギターが隙間を埋め尽くすように炸裂する様、さらには音が肥大化すると共に広がる楽曲のスケール感にかなりの興奮を覚えた。

Deerhunter その後は、昨年発売された最新の4thアルバム『ハルシオン・ダイジェスト』を中心に展開。3rdアルバム『マイクロキャッスル』よりもさらに磨きのかかった緻密で美しい音像を紡いでいて、うたた寝してしまうほどの心地よさと脳みそをかき混ぜる様な酩酊感が同居していた印象を持っている。ライヴでも宝石のようなメロディを散りばめ、生温かい歌声などで聴かせどころは優しく丁寧に表現し、さらには薄靄のようなリバーブをかけることで奥行きや浮遊感を巧く構築。「リヴァイヴァル」や「ネバー・ストップス」辺りのポップな音色には思わずうっとりとしてしまった。それでも、ここぞの場面で何倍にも増幅して耳をつんざく音圧が凄まじい。それはまるで幾重にも重ねられ、築き上がる甘い音の壁。気づけば、不思議な時間軸に心身が取り込まれていく感じに陥る。

Deerhunter 特に印象的に残っている曲が3rdアルバムに収録されている「ナッシング・エバー・ハップンド」。シューゲイザーとインディー・ロックの余りにも魅力的な結晶化が成されている楽曲といえるだろうか。郷愁を引き摺りながら掻き鳴らされる轟音ギターと芯の強いリズムを軸にして永遠に走り続けるかのような10分超は、驚くほどの心地よさがあった。この曲では、ブラッドフォードがステージを下りて客席に近づいて行ったのも印象深い。その後は、「ヘリコプター」、「ヒー・ウッド・ハヴ・ラフド」と繊細な音色で幻惑させて本編を終えた。アンコールでは、一気に会場を涌かせた鉄板の流れ「カヴァー・ミー(スロウリー)」からの「アゴラフォビア」で独特のサイケ・ポップ/美しいメロウネスで酔わせ、最後は赤い照明に包まれながら10分以上も猛烈なノイズを轟かせて、驚愕の一夜を締めくくった。前述したようにCDで感じていた印象から、ライヴでまさかこんなに化けると思ってなかったので、約90分間に渡った本日のショウは驚きの連続。終演後は僕自身、純粋な感動に包まれていた。

 ちなみに翌日からは、このディアハンターを始め、ブロンド・レッドヘッド、アリエル・ピンクズ・ホーンテッド・グラフィティという現在の4AD(フォー・エー・ディー)レーベルを湧かせている3組が集まって、”4AD イヴニング”というイベントを東京・大阪にて開催(名古屋は無くて、代わりにディアハンターの単独公演とブロンド・レッドヘッドの単独公演が追加)。僕は東京の方まで足を運んで見てきたが、ディアハンターは無邪気な少年の心を時折見せながらも、凄まじい音圧で会場を圧倒していたのが印象に残っている。大トリを飾ったブロンド・レッドヘッドの神聖なパフォーマンスも素晴らしく、全体を通して十分満足のいくものだったし、4ADの今を見事に映し出した良いイベントだった。

— set list —
01. Cryptograms / 02. Desire Lines / 03. Hazel St / 04. Don’t Cry / 05. Revival / 06. Never Stops / 07. Fountain Stairs / 08. Little Kids / 09. Nothing Ever Happened / 10. Helicopter / 11. He Would Have Laughed

— encore —
12. Cover Me(Slowly) / 13. Agoraphobia / 14. Fluorescent Grey
Deerhunter

–>photo report(Deerhunter) photo report(Ogre You Asshole)

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Text:
Takuya Ito
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