メタリカ – 『メタリカ:真実の瞬間- Some Kind Of Monster -』

大物バンドの苦悩

CDレヴュー 『メタリカ:真実の瞬間- Some Kind Of Monster -』 2011.03.30.

 昨年、メタリカがおこなった『ワールド・マグネティック・ツアー』は日本でも大変盛り上がり、その様子はレポートもさせてもらった。そのとき購入したツアー・パンフレットを眺めていると興味深いことが目に入ってくる。

metallica このツアーは、2008年の10月から2010年の11月までおこなわれ、世界約40カ国を回るのだけど、そのスケジュールを詳しく見てみると、公演をおこなう回数はひと月あたり10回前後と、ほぼきっちり定められていることがわかる。2009年7月の16回というのが例外なくらいで、あとは頑なに回数が守られている。それは、日本公演の前後がオセアニア(オーストラリア~ニュージーランド~日本~ニュージーランド~オーストラリアというスケジュールだったのだ)という場合でも変わらない。効率を考えれば、多少スケジュールを詰めてもいいはずなのだけど、それもしない。

 ツアーは過酷であるといわれる。ロックバンドの中にはツアーするのが天職のようなバンドもいるけれども、昔から今にいたるまでロックバンドがツアーで疲弊して解散や分裂などの事件があったし、いろんなストレスで精神を蝕んでしまうことも多い(例えば、ジョイ・デヴィジョンのイアン・カーティスはアメリカ・ツアーにでる前に自殺してしまった)。ツアーに出る・出ないの揉め事もたくさんあった。そうした中で、現在のメタリカがこのように、余裕を持ったスケジュールを組むというのは、すでに大成功を収めている大物だからできることではあるけれども、ツアーの過酷さにどのように対処するのかの解決法のひとつだといえる。

 なぜ、このようにバンドのコンディション優先になったのかは、この『メタリカ:真実の瞬間』に描かれていることをみればわかる。この作品は、2001年にアルバム『セイント・アンガー』のレコーディングを開始したころから完成までを追ったドキュメンタリー映画で、大物ロックバンドの苦悩と再生を描いている。無防備ともいえるくらいカメラを前に素の顔を晒すバンドに驚く。

 そして、高額な報酬でセラピストを雇い、コミュニケーションの大切さをわざわざ教えられる。その一環で以前に脱退したデイヴ・ムステイン(脱退後にメガデスのリーダーとなる)と向き合い率直な気持ちを語り合うことまでするのだ。バンド内でもギタリストのジェームスがアルコール中毒の治療とリハビリのためバンドを離脱、戻ってきたと思ったら長時間のスタジオに籠る作業ができずレコーディングが進まない。業を煮やしたドラマーのラーズがブチ切れるシーンもある。そうしたさまざまなことを乗り越え、新しいベーシストを入れてアルバムを完成させ、再びステージに立つまでの物語は感動的である。あるけれど、単純な感動物語になってないところが面白い。

 例えば、だんだんセラピストに反発して遠ざけるところがある。過去、多くのバンドが、セラピストやマネージャーや弁護士など外部の人間の介入を許して崩壊していったか。おそらくそのことがわかっていたために本能的に一線を引いたのだろう(ただし、バンドのセラピストは止めても個人的なセラピーはその後も続いたとのこと)。それからジェームスの娘がバレエをやっていたり、ラーズの父親がほとんどヒッピーみたいだったり、カークがサーフィンやったりとメンバーのプライベートが明かされ、意外な私生活が明らかにされ、親しみが持てる。そのときの彼らはとてもヘヴィメタルのバンドをやってるとは思えない柔和な顔つきなのだ。

アンヴィル!~夢を諦めきれない男たち~』が売れないヘヴィメタル・バンドの大変さを描いたものなら、このドキュメンタリーは正反対だけど、やっぱり「バンドはつらいよ」といっているのが面白い。ただし、こんな記事がある

メタリカ、ドキュメンタリー映画を作ったことを後悔

 メタリカのラーズ・ウルリッヒ(Dr)は、バンドのドキュメンタリー映画『Some Kind Of Monster(邦題―メタリカ:真実の瞬間)』(2004年)を制作したことを後悔しているそうだ。同作品はもともと、アルバム『St. Anger』のレコーディングをドキュメントするためだけに作られるはずだったのが、結局、メンバー間の亀裂や苦悩など危機に直面したバンドの姿を赤裸々に映し出す、よりパーソナルな内容になった。だからこそ多くの人に感動を与えたのだが、ウルリッヒ自身はそれを恥ずかしく思っているようだ。

 Dotmusicによると、ラーズ・ウルリッヒはこう話しているという。「ノエル・ギャラガーに会うたびに、映画の一節を引用される。独り歩きしているんだ」「たくさんのミュージシャンがこういう時期を経験しているのはわかってる。でも、必ずしも彼らはそれを映画にして世間と分かち合おうとするほどバカじゃない」

 現在のメタリカは、映画が制作されたときとはまったく違うバイヴが流れているという。「バンドにはいま、いいバイヴがある。みんな楽しんでいるし、うまくやっている。気楽で快適だ」。だからこそ、あの状態を公けにしたことを悔やんでいるのかもしれない。(後略)

元記事のURL: http://www.barks.jp/news/?id=1000062785

 というように「たくさんのミュージシャンがこういう時期を経験して」「他のバンドは映画になんかしない」けれども、我々一般人から見ることができない「たくさんのミュージシャンがこういう時期を経験している」ことを見せてくれるようになったところに、この映画の意義がある。大物バンドの苦悩を教えてくれるのだ。だからこそ、この映画はメタリカのファンでなくても、ヘヴィメタルが好きでなくても興味深く見ることができる。

 DVDは音声解説に加え、未公開映像が盛り沢山で楽しめる。映画の背景を知ることで一層理解が深まり、この映画がいかに労力を費やした作品であるかがわかる。特典映像では、特にカークが交通違反者講習会で一曲歌わされることになったシーンは爆笑モノ。

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Text:
Nobuyuki "Nob" Ikeda
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