ブライアン・フェリー – 『ベイト・ノアール・ツアー』

陰影礼讃

DVDレヴュー 『ベイト・ノアール・ツアー』 2011.04.26.

Bryan Ferry フジロックのグリーンステージなどの巨大ステージに設置されているスクリーンに映る映像がいまひとつであると思うときがある。演奏する人の表情を捉えてなかったり、いい場面を逃したり、演奏者の動きにカメラが追いつかなかったりする。もちろん、予測不能の動きに追い付くのは大変であることはわかるし、スクリーン観ないでステージに集中すればいいという話になるのだけれども、遠くから観ているときは、やっぱりいいカメラワークで観たいと思うのだ。

Bryan Ferry では、いいカメラワークとは? と考えたときに、自分は、ブライアン・フェリーの『ベイト・ノアール・ツアー』挙げたいと思う。この作品は、元々1990年に『New Town』というタイトルで発売されたVHSソフトであった。アルバム『ベイト・ノアール』(1987年)発売に合わせておこなわれたヨーロッパ・ツアーの映像から構成されている。ひとつのステージでなく、いくつかのステージから選ばれているので、それを知らずに観ていると途中でステージ衣装が変わって「あれっ?」と思う。そうした場面の転換のところでイメージ映像が挿入されていたりする。

 照明が少なく、ステージ自体があまり明るくないのと、当時のカメラの性能のせいか、画質はあんまりよくないけれども、ステージに立つ人の表情や演奏をどのように撮影するかということに関しては本当に素晴らしい。ステージ全体は1920年代のアールデコっぽく、暗さと相まってデカダンな雰囲気があり、そのせいかセクシーなコスチュームに身を包むバックコーラスの黒人女性はジョセフィン・ベイカーを意識しているのかな、とクネクネ動く肢体を観ていると思えてくる。

 もちろんブライアン・フェリーが映像の中心ではあるのだけれども、脇を固めるプレイヤーへの目線も細かく、フレーズを決めた後のギタリストやドラマーの表情もきっちり捉えている。ステージにギタリスト2人、ベース、ドラム、パーカッション、キーボード、コーラス3人と大所帯なのに全編を通じて「あれ? いたっけ?」というメンバーがないように、それぞれに見せ場がある。

 そして何といっても本作の特徴は、照明の光が少ないことを生かし、陰影に富んだ映像に仕上がっているのだ。暗闇の中からコーラス嬢の顔や、ギタリストの横顔や、パーカッションを叩く腕などが浮かび上がるオープニングから、一転明るくなってフェリーが登場するという巧みな流れのせいでフェリーの世界に引きずり込まれる。さらに踊るフェリーの影、ソロを決めるギタリストの影など、随所に影を使った効果的な演出がある。プレイヤー本人を追っかけるだけでなく、ステージの各所に目配る余裕というか工夫が感じられるのがすごいところだ。

 音楽的なことをいうと、ロキシー・ミュージック活動停止後のなかで、このころが一番充実していると思う。ドラマーに名手、アンディ・ニューマーク、リズムギターに二ール・ハーバード、そしてバックコーラスにヤニック・エティエンヌというロキシー末期からの付き合いのある素晴らしいメンバーの上に、見た目もプレイスタイルもへヴィ・メタル野郎なジェフ・サールが新しい力を与えている。完璧な演奏をバックに歌もはつらつとして勢いも迫力もある。ソロの最新作からロキシー初期の曲まで同じテンションで演奏されて違和感なく、統一された印象があるのだ。

 もちろん、これはビデオとして発売することを前提に撮影されたものだし、いくつかのステージから選ばれた映像だからクオリティが高くなるのは当然かもしれないけど、ステージを撮影する人はぜひ観てほしい作品だ。

 さて、この作品はDVD化されるにあたり、2002年にドイツ・ミュンヘンの野外ステージで撮影されたライヴが特典映像として収録されている。14曲もあるので、おまけというより、もうひとつの本編みたいなものである。このステージでの映像は残念ながら、雑といってもいい出来で、計算されつくした本編との落差に愕然とするだろう。例えばギターソロが始まっているのに、カメラはなかなかギタリストを捉えずに、途中からようやく手元が映るのだ。何がよくて何がダメなのか見比べることができる。

 演奏的にも、しなやかさが無くなり、緻密さが薄れてしまっている。自分もこのメンバー構成で来日したときに東京国際フォーラムまで観にいったけど、そのひとつ前のフェリー来日公演や、再々結成ロキシー・ミュージックとして来日したときのステージと比べると感激度は低い。素晴らしいのは変わらないけど。

Michelle Gun Elephant しかし、しかし、しかし! このステージの見所は、ギタリストに、パブロックのヒーローであるミック・グリーンがいることである。しかも、もうひとりのギタリストはクリス・スぺディングという渋いギタリストであり、この2人が同じステージに立ち、動く映像で残されているのが最大の功績である。ミック・グリーンは、パイレーツで活躍し、ウィルコ・ジョンソンに影響を与え、ミッシェルガン・エレファントと共演シングルも出している。こういうガチガチのロックンロール親父が、「オー・イェイ!」や「リンボ」などの柔らかかったり、ダンサブルだったりする曲にフィットしないのは自明の理であるのだけど。(ボブ・ディランのカヴァーや初期のロキシーの曲には合っていた)。ドラマーは、ロキシー・ミュージックのオリジナルメンバーであるポール・トンプソンなんであるが、これも硬質なドラミングの人なので、フェリーのソロ曲とは合わず残念。

 緻密で素晴らしいライヴ映像と、伝説のギタリストの動く姿が観られる、1本で2度おいしいDVDでお買い得なんである。2010年のフジロックでロキシー・ミュージックを観て「いまいちだったなぁ」と思った人でも、『ベイト・ノアール・ツアー』の充実したステージを観ればフェリーの素晴らしさを実感できるだろう。

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Text:
Nobuyuki "Nob" Ikeda
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