奥村大 / 佐々木亮介 presents “S.O.S”ゲスト近藤智洋 @ 下北沢440 2011.08.10

音楽の力、歌の力
テキスト・レポート「音楽の力、歌の力」 @ 下北沢440 2011.08.10

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 wash?(ウォッシュ?)の奥村大とa flood of circle(ア・フラッド・オブ・サークル)の佐々木亮介による共同企画“S.O.S”(エス・オー・エス)。タイトルは「Someone(サムワン)」、「Okumura(オクムラ)」、「Sasaki(ササキ)」に由来する。二人が好きなバンドのボーカリストを迎えてたっぷりと弾き語るという内容で、記念すべき第1回となるこの日のゲストには近藤智洋(GHEEE – ギー)が迎えられた。

sos トップで登場したのは佐々木亮介。黒ずくめの衣装でふらっとステ-ジに立つ。実は、このイベントは本来3月14日に行われる予定だったもの。しかし、東日本大震災の影響で中止になっていた。佐々木は「震災後、イベント開催の有無についてものすごく悩んだ」という。「歌うことに対する迷いがあった」とも。だが、あれから5ヶ月を経たこの日のステージには、「開催できて嬉しい。愛を込めて歌います」と力強く宣言する彼の姿があった。震災を経験したことによってできた未発表の新曲「I LOVE YOU(アイ・ラブ・ユー)」の初披露や、ルースターズの「恋をしようよ」のカヴァーでフロアを沸かせる。常に自身を「辛気くさい」と評する佐々木が予想外に明るい一面を見せ、イベント主催者の一人として、立派に一番手を務め上げた。

sos 続いてステージに上がったのは近藤智洋。ピアノとブルースハープのやさしい音色が空気を一転させ、やわらかな歌声が会場を包み込む。「第1回っていいよね。後々自慢できるから」などと軽口を叩きながら、1曲1曲を丁寧に歌いつむぐ。弾き語り経験が豊富な彼の歌は、ひとつひとつの言葉が聴く者の胸にすとんと落ちて、じんわりとしみ込んでいく。それはギターに持ち替えても、ソロの曲でもバンドの曲でも同様。ベテランならではの貫禄だ。ルースターズの熱狂的なファンである近藤は、佐々木につられてつい歌いたくなったようだが、そこをぐっとこらえて(笑)、当初の予定通りに演奏したのが川村かおりのカヴァー、「うそつきのロッカー」だった。独特のまろやかな歌いまわしの中に孤独をにじませ、とても印象に残った。
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 トリを飾るのは、もう一人の主催者である奥村大。エフェクトかけまくりのノイジーなギターで、彼もまた空気を一転させる。苦悩してひねくれてこじれまくって、オルタナ節全開。まったくもって統一感のない、三者三様の弾き語りだ。が、それがいい。歌い手が各々のスタイルで聴かせる歌が、必ず誰かに手を差し伸べている。震災直後から、「今やらないでいつやるんだ」と、さまざまなライブに出演し続けてきた奥村の熱い気持ちが詰まった濃密な時間。「何かの救いになったら嬉しいという気持ちでイベントをできることはなかなかない」と言っていたが、目指していた通りの空間がそこにあったように思う。夏の夜、奥村が語りかけるように歌うRCサクセションのカヴァー、「夜の散歩をしないかね」は、ひたすらやさしいのだった。
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 16年前、関西にいた私と友人たちは阪神淡路大震災を体験し、「音楽は人を救わない」ということを知った。とてつもなく暴力的な形で日常をひっくり返された時、音楽に人を救うことはできない。あの状況下で音楽を聴きたいとは思えなかったし、たとえ聴いたところで、歌なんて耳に入ってこなかった。残念だけど、それが現実だ。それでも当時の仲間の多くが現在に至るまで多少なりとも音楽に携わり続けているのは、音楽の力、歌の力を信じているからだ。途方に暮れた日々から、やがていつか音楽を聴きたくなった時、そこに歌が流れていることの喜びを私たちは知っている。映画や演劇、小説や絵画も同じだ。芸術は人を救うことはできないけれど、求められた時にそこにあることで、結果的に誰かの力の一部になることができる。

 震災後に戸惑っていたミュージシャンたちが、それほど時をおかずして再び音楽を鳴らし始めたのも、同じ理由からではないだろうか。彼らは音楽の力、歌の力を知り、信じている。奇しくもこの日は3人全員がカヴァー曲を披露した。かつて誰かの力になった曲が、歌い継がれることによって他の誰かの元に届けられる。目には見えない音楽の不思議な連鎖を、下北沢の小さなライブハウスでひしひしと感じた。イベントのラストは奥村と佐々木のセッション。魂のこもった二人の歌声を聴きながら、早くも次回開催が楽しみになった。
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Text:
Satomi"satori" Horiuchi
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