アルセスト(Alcest) – 『レ・ヴォヤージュ・ドゥ・ラーム (Les Voyages De L’ame)』

どこまでも美しく、どこまでもロマンティックに
CDレヴュー レ・ヴォヤージュ・ドゥ・ラーム (Les Voyages De L’ame)』 2012.02.01

 心休まる優しい音、降り注ぐ柔らかく清らかな光、夢の中にいるような温かい時間。自身の幼少の頃の神秘的体験をどこまでも美しく、どこまでもロマンティックな色調で彩っていくフランスのAlcest(”アルセ”、”アルセスト”と2種類の有力な読み方があるが、色々と調べて今回は”アルセスト”を採用)。2012年初頭に発売となった待望の3rdアルバムとなる本作は、これまでの作品と同様に甘美で幻想的なサウンドを主体に感動を誘う。

Alcest ブラックメタルをルーツに持つが、ポストロックやシューゲイザー、フレンチ、トラッド音楽までを結晶化したメランコリックな音色は、あるゆる境界線を越えて称賛が集まっている。それは前作の『エカイユ・ドゥ・リュンヌ (Ecailles De Lune)』のレビュー記事で述べた通り。”ポスト・ブラックメタル”だとか”ポスト・シューゲイザー・ブラックメタル”と評され、その第一人者としての地位をAlcestは築いている。07年に発表した大傑作の1stアルバム『Souvenirs d’Un Autre Monde(スーヴェニール・ダン・オートレ・モンド)』は今もなお、ファンを増やし続けるきっかけとなっているし、05年に発表して廃盤となってた幻のEP『ル・スクレ(Le Secret)』をオリジナル音源とシューゲイザーにさらに傾倒した再録音源を収録した形で昨年に再発したのも記憶に新しい。

Alcest そしてこの3rdアルバム『Les Voyages De L’ame(”レ・ヴォヤージュ・ドゥ・ラーム”と調べて表記してみたが、正確な読み方かはわからない)』。バンドの頭脳であるNeige(ネージュ)は、これまでの集大成であると発言しているが、確かにこれまでの作品を通した上で諸要素が絡み合い、様々なジャンルの音が鳴り響いている。これがまた実に彼らしい儚い美しさと幻想性を持ったサウンド。どちらかといえば、1stアルバムの頃のようにポストロックやシューゲイザーに寄った繊細で切ない曲調が多く、暗黒をも打ち消すように柔らかな光が全身を包む。聴いているとエメラルドグリーンに輝く草原、清涼な川、幻想的な森、澄みきった青空など豊かな自然が浮かんでくるほど。温かな郷愁や希望に満ちている彼の音楽には人々を魅了するエネルギーが力強く宿っている。

 耳を劈く壮絶な絶叫、肌を刺すトレモロ・リフが飛び出してブラックメタル色に染まる時もあることはある。それでも美的表現の一部として内包してしまうことで、壮麗でロマンティックな音色は最後まで決して褪せることはない。全編に渡って煌く叙情感覚は夢のようなメロディーを紡ぎ出し、鼓膜を優しく撫でるネージュの繊細な歌声が天使や妖精が戯れるような不思議な異世界へと連れて行く。

 特に先行シングルとなった1曲目の”Autre Temps(オートル・タン)”が素晴らしい。メランコリックな旋律と気品ある美しいストーリーを持つこの楽曲を聴いた時は、思わず涙腺が緩んだ。バンド史上初めてPVを制作した曲にあたり、楽曲の持つ豊かな情景や感情をさらに引き出す映像がまた秀逸。
AlcestAlcestの入り口としてこれ以上ない素晴らしいものとなっているので、是非ともご覧になっていただきたい。また、素朴なアコースティック・ギターから美麗なアルペジオ、轟音ギターにブラックメタル的な要素に至るまでAlcestの音楽性を1曲に集約した6曲目「Faiseurs De Mondes(フェザー・ドゥ・モンド)」にしても強く印象に残る名曲だ。全8曲約50分には、人々の琴線に触れる大きな感動が詰まっている。

 なお、発売元のレーベルがyoutubeにてこのアルバムの全曲試聴を行っているので、こちらも活用いただければと思う。自身の幼少時の神秘的体験と向き合い、様々な感情を重ね合わせながら美しい音楽を創造していくAlcestの音楽に心動かされる人は多いはず。そしてまた、これまでの作品と同様に幅広いフィールドに大きな影響を及ぼしそうだ。

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Text:
Takuya Ito
takuya@smashingmag.com
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