ワー(Whirr)- 『パイプ・ドリームス(Pipe Dreams)』

甘く蒼く眩い音の洪水
CDレヴュー 『パイプ・ドリームス(Pipe Dreams)』 2012.03.28

Whirr 吹き抜ける春風のように温かく爽快な疾走感、青春の甘酸っぱい響き、そして轟音ノイズによる甘美な陶酔感。そのサウンドからは、胸がキュンとなるような時が幾度となく訪れる。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインに代表されるシューゲイザーに軸足を置き、未来を切り拓くこのバンドの名前は、Whirr(ワー)。女性1人と男性5人からなるアメリカ・カリフォルニアの6人組である。

 先頃のSXSW 2012に出演し、今回取り上げる1stフルアルバム『パイプ・ドリームス』で日本デビューが既に決定済み。それゆえに国内の注目度も徐々に高まっているバンドといえるはず。激情ハードコア~ブラックメタルが劇的に交錯する新世代バンド、Deafheaven(デフヘヴン)のギタリストであるニックが所属しているということでも話題で、様々な方面から彼等の称賛の声を聴く。ちなみに僕は、そのDeafheavenを経由してWhirrのことを知り、凄く気に入ってしまった人である。

Whirr バンドは2009年に4人組の”Whirl”として結成(2011年に名義を”Whirr”に改める)。そして、メンバー増員後に1st EP『Distressor(ディストレッサー)』を配信、アナログ・レコード、カセットで2010年に限定リリースし、耳の早いシューゲイザー・ファンの心を掴むことになる。その作品では、陶酔と昇天の方向に向かっていく轟音ノイズ・ギターに浮遊感たっぷりの男女ヴォーカル(この頃のヴォーカルは現在のアレックスではなく、前任のビアンカ嬢)が造形する、息を呑むような耽美な音世界が絶品だ。トリプルギターから成る耳を劈くような美麗な轟音はもちろんだが、スロウダイヴを思わせる陰りを帯びた幽玄なハーモニーも印象的。こちらの作品は、バンドのBandcampでも全曲試聴できるので、気になった方はこちらからまずチェックしていただきたい。

Whirr そして、このたびリリースされた待望の1stフルアルバム『パイプ・ドリームス』は、バンドの確かな前進を感じさせるもの。これまで通りにシューゲイザーを基調とした作風だが、ギター・ポップやノイズ・ポップ、USオルタナティヴな要素が増していて、多方面にアピールできる作品に仕上がっている。よりエモーショナルでポップなサウンドへ。その代表といえるのが、昨年に7インチ・シングルとしても発表された「Junebouvier(ジューンブヴィエール)」で、メランコリックなメロディを纏いながら力強く疾走していく。初期衝動、疾走感、清涼感、そしてこの手のバンドには欠かせない甘酸っぱさを備えたこの曲は、多くの人々の心にヒットする素晴らしい楽曲となっている(この「Junebouvier」もBandcampで試聴可能)。その曲も含めて本作では、ミドルテンポの曲が中心だった前作よりも蒼く瑞々しい疾走感のある曲が増えているのが特徴的だろう。アレックスの浮遊する淡く柔らかいヴォーカル、可憐なメロディに彩られていて、さらにポップに間口を広げた印象は強い。

 もちろん、前作での幻想的なサウンド・デザインも受け継がれている。「Flashback(フラッシュバック)」や「Hide(ハイド)」のような轟音ノイズによる白昼夢は90年代のシューゲイザーの影響が色濃い。今後とも磨きをかけてもらいたい音である。また、アコギとピアノを中心にして胸を切なく締め付ける「Formulas and Frequencies(フォーミュラーズ・アンド・フレクエンシーズ)」では新境地を示しており、曲調も広がった。作品全体における陰と陽、そして速遅の切り替えも巧みになっており、その辺りも成長を物語っているように思う。シューゲイザーに根差してはいるが、あらゆる方面に揺さぶりをかけるような楽曲を取りそろえた本作は、上々のデビュー作品。このサウンドにときめきを覚える人はきっと多いはず。
 
 ちなみに僕は輸入盤CDとLPを購入したのだが、LPにはMP3ダウンロード・コードが封入されている点も嬉しい。そして国内盤は、昨年のフジロックに出演を果たしたリンゴ・デススターを発掘したVinyl Junkie (ヴィニール ジャンキー)より、ボーナス・トラック3曲追加で発売予定(当初は4月4日の予定だったが、延期になった模様)。そのリンゴ・デススターやザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートのファンには、どストライクだと思うこのWhirr、要注目のバンドである。

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Text:
Takuya Ito
takuya@smashingmag.com
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2 Responses to “ワー(Whirr)- 『パイプ・ドリームス(Pipe Dreams)』”

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Time 2012年12月21日 at 10:15 PM

[...] が、スロウダイヴを思わせる陰りを帯びた幽玄なハーモニーも印象的。 (www.smashingmag.com/jp/archives/30611 [...]

Comment from 椿玉子
Time 2013年4月2日 at 11:53 PM

情報ありがとうございますm(__)m
新譜が出るんですね。ゲットしなくては・・・・

この霞がかった耽美な世界堪りません!!
大好きです!!

ニューゲイザー?ネオゲイザーと言われるバンドの中でもベスト5位に入るのではないでしょうか?!
他の4つは何?と言われたら困りますが(^^ゞ

全然タイプは違いますが、
Letting Up Despite Great Faults も良いと思います。

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