アンリエッタ(Anrietta) – 『メモラフォニカ(Memoraphonica)』

美しい旋律と歌声で紡ぐイノセントな世界。
CDレヴュー 『メモラフォニカ(Memoraphonica)』 2012.05.02

 ゆるやかに共鳴し合う柔らかな生楽器と電子音、そして天使のような女性ヴォーカルが紡ぐイノセントな世界。2009年に結成された都内を拠点に活動する若手5人組ポストロック/ドリームポップ・バンド、Anrietta(アンリエッタ)の待望のデビュー作『Memoraphonica(メモラフォニカ)』は、天上へと通じていくほどの安らかなる癒しを持った美しい音像を主体に、聴き手を優しく包みこんでいく。

Anrietta 彼等の音楽は、近年のポストロックやエレクトロニカをベースにしたもので、シガー・ロスやムーム、アルバム・リーフ辺りが頭をよぎる人は多いと思う。しなやかなリズムの上に、幻想的に揺らめくギターやリリカルなピアノが折り重なり、グロッケンやストリングス、ホーンの音色が厚みと色彩感を与えていく。そんな荘厳なアンサンブルに造語を歌いあげる女性ヴォーカルが息吹を吹き込めば、アンリエッタが紡ぐ物語が鮮やかに浮かび上がってくる。幻想的でありながらも、大らかな包容力と懐かしい温もりを持ったそんな物語がだ。つくり手のロマンティックな美意識が所々で息づいている。

 そして、繊細な唄と音響によって精巧にデザインされた音像からは、様々な情景が浮かぶ。麗かな陽ざしを浴びる草原、冬の日に舞い散る雪、星屑の舞う夜空、清らかな小川などの美しい自然を想起させるのだ。本作を聴いていて、厳しい冬から暖かい春に向かっていく印象を個人的には受けたが、人によって小説のように浮かんでくるイメージは大きく変わってくるだろうと思う。

 また、それまでと情景を一変させる様なインパクトのある轟音の洪水には驚くが、その静と動の交錯が生み出すドラマも彼等には欠かせないものだろう。それにこの重厚な音造りがあるからこそ、力感やスケール感が増す。とはいえ、親しみやすく、普遍的なポップ・ミュージックとしての引力は強い。それは、バンドの核として絶大な存在感を誇るkokkoのヴォーカルが、アンリエッタの世界にいざなってくれるからだろう。時に物悲しく、時に穏やかに、時に優しく微笑みかけるような歌はとても魅惑的だ。

 冒頭から静かに静かに引き込んでいき、終盤には優しい世界へ誘う「Aqua(アクア)」、アルバム中随一のポップさと可憐で華やかなインパクトを持った「On the way across the rainbow(オン・ザ・ウェイ・アクロス・ザ・レインボー)」、多彩な音の調和と広がりが小規模なオーケストラのような佇まいさえ感じる「amaranthine(アマランザイン)」、光のカーテンに包みこまれていくような「thaw(ソウ)」など、チェックしてみて欲しい曲が本作にはズラリ。その中でも特に、純白のメロディとノスタルジックな温かさが、胸の奥深くに染み込んでいく「Grassky(グラススカイ)」が印象的だ。

 まだバンドとしては序章。しかし、確立された音と世界が早くも堪能できる仕上がり。オフィシャル・サイトにある本アルバム発売に伴った特設ページでは全曲が試聴可能だ。うっとりとするような幻想的で優美な時間から、大空を軽やかに羽ばたいていくような鮮やかな瞬間までもが丁寧に収められた本作は、穏やかに心を満たしてくれることだろう。眼を閉じ、じっくりと耳を傾け、真摯に向き合っていただきたい作品だ。

Share on Facebook

Information

Text:
Takuya Ito
takuya@smashingmag.com
twitter
Takuya Ito's Works

Write a comment