パディ・モローニ (The Chieftains) @ プランクトン 2012.08.28

アイリッシュ音楽界の国宝をリードする、永遠のガキンチョおじさん音楽フリーク… だね
インタヴュー 2012.08.28

 ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズにボブ・ディランといったロック界の伝説と同じように、結成から50年の節目を迎えるのがアイルランドの至宝、ザ・チーフタンズ。伝説のロック・アーティストが遙か彼方の世界にいるようにも思える一方で、伝統音楽、いわば民謡をベースに、そんな伝説の数々と幾度も共演し、世界中の音楽を飲み込んできた彼らは、ずっと身近なところにいるように感じる。

 と、そんな印象を残してくれたのは、リーダーでバンドの顔でもあるパディ・モローニ。1938年生まれだから、御年74歳と、かなりのご年配なんだが、その話しぶりやら表情を見ていると実に子どもっぽい。『やんちゃなおじぃちゃん』と言っていいだろう。話し出したら止まらず、それが楽しくて仕方ないといった感じで次から次へと昔話が飛び出してくる。半世紀と言えば、大昔のようにも感じるのだが、彼はバンドの始まりがまるで昨日のことでもあったかのように鮮明な記憶を我々に伝えてくれるのだ。

The Chieftains「50年ってもなぁ、そのずっと前の50年代からバンドはやってるし、それがチーフタンズになったんだけどね。あれは24~5の頃だっけか。いずれにせよ、音楽は物心ついた頃かすでに『あった』からなぁ…」
 
 と、子供の頃から音楽漬けだった人生を振り返り、よどみなく語り続けてくれる。

「4歳ぐらいの頃かなぁ、おふくろが買ってくれたのがティン・ホイッスルでね。おじぃちゃんはフルート奏者で、おふくろはメロディオン奏者って家族だったから、土曜や日曜になるといつもみんなで楽器を演奏して歌うって感じだったんだよ。夏は散歩の後にそんな騒ぎが始まって昔話を聞かせてくれたり… 冬になると暖炉で料理をしながら、親戚連中が集まってきて踊り出したりね。ありゃぁ、もう完全にパラダイスだったよね。今思うと、あんな小さな部屋にどうやってあれほどたくさんの人たちが入れて大騒ぎができたのか不思議に思うけど(笑)」

 と、そんなプロセスでアイルランドの伝統的な音楽を学んでいったんだとか。

「学んだってよりは、楽しくて仕方ないって感じで『知る』ことになったんだろうね、伝統音楽に関しては。っても、ピュアリストじゃないから。10代の頃のガールフレンド、今の奥さんだけど、彼女はジャズのアルバムもプレゼントしてくれたし、あの頃はスキッフルバンドもやってたから。ウォッシュボードやウクレレ(笑)なんかも演奏してたからね」 

The Chieftains と、そんな話は全く知らなかったんだが、それからしばらく後の1963年に発表されたのが『ザ・チーフタンズ』と名付けられたデビュー・アルバム。ただ、この時点では、彼が思い描いていたサウンドにはほど遠かったという。
 
「歌もなかったし、アコーディオンもなし… パイプやホイッスル、フィドルにバウローンも欲しかった。いろいろなことを体験して、土台が完成したのが、ハープのデレク(・ベル)が入った頃(『ザチーフタンズ4』)。で、転機となったのは75年だったなぁ。この頃にメンバーを説得して、プロとしてやっていこうってことになったんだ」

 フェアポート・コンヴェンションやスティーライ・スパンからペンタングルといったトラッド系のバンドを世界に売り出したアメリカ人マネージャーとの契約がこの動きのきっかけだったとか。「あんまり強欲だから、2年で首にしたけど(笑)」と言うんだが、スタンリー・キューブリックの映画『バリー・リンドン』の音楽を担当したことで一気にその名を全米に広げることになる。

The Chieftains 筆者が初めてザ・チーフタンズのライヴを見たのは、それから4〜5年後、82年のグラストンバリー・フェスティヴァル。タイトなタイムテーブルのせいで、ヘッドライナーを除けばほとんどあり得ないというのに、アンコールを求めるオーディエンスの反応にステージから「ホントかい?」という声を発していた彼らが記憶に焼き付いている。

「ハッハッハ… 覚えてるよ、だってアンコールやったからね。昔、69年にケンブリッジ・フォーク・フェスティヴァルでやったときにも同じような体験してるなぁ… 誰だっけあのバンド… そうそう、僕らの後に演奏するフリートウッド・マックを待っていたオーディエンスが大騒ぎになってね、みんな踊り出しちゃったんだ。あれも楽しかったなぁ」

 伝統的な音楽というと、どこかで「昔の人たちの音楽」といったイメージを持ってしまうんだが、すでに60年代あたりからそんな偏見を破り続けて、それこそが実は誰にもつながる根っこの音楽であることを証明してきたのがチーフタンズだったのかもしれない。だからなんだろう、アイルランドの伝統音楽をベースにしながらも、結果として世代や人種を越えて脈々と生き続ける「人間」の絆となる音楽の核に近づいていったように思えるのだ。それは50周年を念頭に置いて作られた最新アルバム『ヴォイス・オブ・エイジス』でも見事に反映されている。

The Chieftains「三世代がここに集まっているからね。孫から子どもたち、そして僕ら。幕開けの曲はチーフタンズのリユニオンなんだけど、世界中で出会った新しい世代との共演が続くんだ。ボン・イヴェールやザ・ロー・アンセムも素晴らしいし、ダブリンの若手、リサ・ハニガンも。キャロライナ・チョコレート・ドロップスもアイルランド出身と思ったら、アフロ・アメリカンだっての… びっくりだよ」

 しかも、このアルバムのビデオを見ていると面白いんだが、パディの探究心は地球を飛び出して宇宙にまで向かったんだろう、宇宙飛行士、キャンディ・コールマンとの共演トラックまで収録されているのだ。そんな彼らの動きを振り返ってみると、おそらく、パディがやっているのは世界中の伝統的な音楽に共通するなにかを探し当てる作業ではないんだろうか?と、そんな風にも思えるのだ。

「そうなんだ、『繋がり』を探しているし、実際にみつかるんだよね。例えば、メキシコとの接点を見せつけてくれた『サン・パトリシア』さ。ライ・クーダーはこのプロジェクトのためにずっと僕らを追いかけていたんだけど、実際にやってみるとものすごい繋がりを感じるんだよ。それに、地元のミュージシャンたちとの演奏があまりに楽しくて、実際のところアルバム4枚分ぐらいの音源は録音できたからね」

The Chieftains いつかそんな未発表音源の数々もぜひ聞いてみたいと思うのだが、それはともかく、これまでの活動を集大成したかのような趣を持っているのが「これまでのキャリアで一番忙しい1年」と続けられている50周年記念のワールド・ツアー。日本をそのファイナルとしているこのツアーでは、各地で地元ミュージシャンたちとの共演を繰り返しているんだそうな。「どこの国でも最後はそれぞれの土地と僕らをつなぐ曲を演奏してダンス大会になるんだよ」と、実に嬉しいそうな表情で話してくれる。なかでもオーケストラとの共演ライヴなんぞ、そんなに何度も体験できるわけもないだろう、実に気になるのだ。

「これまで映画音楽をいっぱい書いてきたから、個人的に交響楽団との演奏は体験しているんだけど、こういったトラッド・バンドがやるのは初めてだと思うんだ。っても、怖がらせるつもりはないんだけど、(オーケストラのコンサートは)めちゃくちゃ静かじゃない?しかも、その『静かさ』の圧力が全員で120人もの楽団員から来るから(笑)たまらないんだけど… それでも最後には踊らせるからね」

The Chieftains 地元のミュージシャンたちとの共演は日本でも同じで、パイプ奏者と共演したり、オーケストラとの演奏も予定されている。さらにはかつて一緒に作品を録音している矢野顕子や太鼓の奏者、林英哲との共演など、毎日違った演出でザ・チーフタンズの魅力を堪能できるようになっている。そんな意味で言えば、一度だけではなく二度でも三度でも見て欲しいと思えるのが、今回の彼らの記念ツアーなのだ。

 言うまでもなく、パディもかなりの年齢となり、奥さんからは「いつ引退するんだ」と突っ込まれているんだそうな。でも、ご本人曰く、「いやぁ、『引退へのリハーサルやるから』って応えてから、もう10年なんだけどね」と、なかなか終わりは見えては来ない。しかも、このときのインタヴューでも大量のアイリッシュ系移民が住んでいるというアルゼンチンの話となり、パディが目をらんらんと輝かせながらそれを語るんだが、次のプロジェクトのことを考えているのが手に取るようにわかるのだ。『繋がり』を求めたパディの旅はまだまだ終わる気配を見せてはいない… ということなんだろう。

 ザ・チーフタンズの日本ツアーは11月22日の東急文化村オーチャードホールを皮切りに、12月7日の最終公演まで全国各地で演奏を予定。その詳細はこちらで確認できるので、これを機会にぜひ生で彼らのライヴの楽しさを体験していただければと思う。

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Text:
Koichi "hanasan" Hanafusa
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