ザ・チーフタンズ(The Chieftains) – 『ベスト・オブ・ザ・チーフタンズ(Best Of The Chieftains)』

世界レベルの「酒場の音楽」

CDレヴュー 『Best Of The Chieftains(ベスト・オブ・ザ・チーフタンズ)』 2012.11.19

The Chieftainsl 今年、結成50年の節目をむかえたチーフタンズ。ワールド・ツアーの最終で日本にやってくるということもあって、レーベルの垣根を超えたベスト・アルバム『ベスト・オブ・チーフタンズ』が発表された。
 
 アイルランド音楽と現代音楽と結びつけ、世界に広く知らしめてきたのがチーフタンズ。ザ・ポーグスなどのアイリッシュ・パンクから入り込んだ人間にとっても、ルーツをたどればすぐに見えてくる大きな存在だ。

 このベスト・アルバムの発表に際して、アイルランド駐日大使ジョン・二アリー氏が寄稿していることからも、彼らの偉大さがわかる。歴史をひもとけば、スタンリー・キューブリック監督の『バリー・リンドン』への参加、グラミー賞を7回も受賞したりと、例を挙げればきりがない。賞を獲得したアルバムも数多いため、「(チーフタンズのことが)気になりつつも、どのアルバムから入ってゆけばよいのかわからない」という戸惑いもあるだろう。その点、この『ベスト・オブ・チーフタンズ』は、バンドの節目を駆け足で感じられるようなアルバムとなっているので、「はじめの一歩」としてふさわしいと思う。厚いブックレットの中に添えられている文章も面白い。特に選曲を担当したピーター・バラカン氏が彼らを知った一部始終など、「いちファンとしての思い出」から、選曲に至った背景までを文章の中で簡潔にまとめあげている。

 1枚目はチーフタンズの基本を知るにはうってつけ。ティン・ウィッスル(笛)とパウロン(平たい手持ちの太鼓)、フィドル(バイオリン)、フルート、ハープ、そしてパイプの音色といった、アイルランドの楽器たちが織りなす物語がある。聴けば、目の前に田舎の風景が広がり、その中に入り込むような印象を受けるはずだ。吹き抜ける動の風と、たなびく静の風、森のざわめきなどなど、自然の中にある音を切り取って、送り出してくるような感覚があるのだ。そして、いつの間にか心をさらわれ、無意識のうちにリズムをとってしまうはずだ。

 2枚目は彼らと他アーティストのコラボレーションを中心にまとめあげられている。ヴァン・モリソンにリラ・ダウンズ、ボニー・レイット、ナタリー・マーチャントといった歌い手のみならず、トリキティシャ(バスク地方のアコーディオン)の使い手であるケパ・フンケラやチェット・アトキンスなどなど、すべてを列挙することは避けるが、ブルーグラスにカントリーにラテンと縦横無尽に世界を駆け巡り、バラエティに富んだ内容となっている。

 これらのことからも、チーフタンズの世界へと進む「はじめの一歩」にふさわしい作品となっているし、長年惚れ込んでいる者にとっても、バンドの歴史をひと息で楽しめる内容となっている。過去作品へと手をのばすためのガイドラインとしてもうってつけ。もちろん、全編にわたって、アイルランドへの想いが脈々と息づいているから、存分に浸ってみてほしい。

 チーフタンズが半世紀にもわたって評価され続けてきた一番の要因は、常にチャレンジャーであり続けているからだろう。世界のパワーバランスを考えると「田舎」といえる小さな島国の伝統音楽に、現代の空気を吹きこんだことが、そもそもの大きなチャレンジだった。そして、スタンスは今もなお変わらず、2010年になって、ライ・クーダーを介し、ラテンのミュージシャンと組んだ、『サン・パトリシア』という意欲作を発表している。もちろん、アイルランドという「芯」はまるでブレてはいない。

 時間があれば、先日公開された、御歳74歳となるパディ・モローニのインタビューに触れてみるのも良いだろう。はつらつとした調子が文面から感じられるはずだ。

 そしてやはり、極めつけは今回の日本ツアーだろう。11月22日のBunkamuraオーチャードホールが皮切りだ。ライヴでは、50年以上にわたるバンドの歴史のみならず、アイリッシュ・ダンス、ステップ・ダンスという、CDだけでは堪能できない魅力も余すところなく体験できるはずだ。世界レベルの「酒場の音楽」によって、いい感じに酔いがまわることは間違いない。

※公演詳細はこちらのHPで。

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Text:
Taiki "tiki" Nishino
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