踊ろうマチルダ – 『踊ろうマチルダ LIVE at 梅田シャングリラ 2011』

三界に家のない男

DVDレヴュー 『踊ろうマチルダ LIVE at 梅田シャングリラ 2011』 2013.01.30

「女、三界(さんがい)に家なし」と言えば、決められたレールの上でしか生きられなかった、かつての女の不自由を指していた言葉。三界とは仏語で、つまりは生きている世界のすべて。「三界は安きことなく、なお、火宅のごとし」となれば、それは人生を迷いと苦しみで燃えさかる家にたとえた、仏教の世界観となる。

 ではこの男はどうか。ソロプロジェクトとして「踊ろうマチルダ」を名乗る、彼の名前は釣部修宏。そして「マチルダ」とは、荷物につけた愛称。マチルダと一緒にガタガタと乗り物に揺られながら(踊りながら)旅をしよう…そんなオーストラリアの民謡「ワルツィング・マチルダ」から引用されたというその名前にふさわしく、彼の唄に現れるのは異国の風景や故郷への慕情、鼻歌にウイスキー、夢とロマン、失恋や挫折、やせ我慢に美学。そんな「面白うてやがて哀しき」男の魅力を匂わせながらの、時代さえ問わない無国籍風の空気。まさに「三界に家なし」のフレーズが、彼の作品にはふさわしく感じるのだ。

 今回リリースされた踊ろうマチルダのライヴDVD「踊ろうマチルダ LIVE at 梅田シャングリラ 2011」は、ウッドベースに黒田元浩、アコーディオンにチャラン・ポ・ランタンの小春、フィドル(主にフォークミュージック、民族 音楽で使われるヴァイオリン)に赤犬のまるむしを擁しての「旅団形式」とも言うべき布陣で2011年に行われたツアーの梅田公演の模様を収録している。そしてこの作品は、「記録」と言うより「疑似体験」と表現するのがふさわしい内容となっていた。

 実演で鍛えられた釣部の唄と演奏と、「唄心」をもあわせ持つような楽団の演奏との間で醸される、目に見えない静かな「演奏の火花」。「なにも足さない、なにも引かない」なんてコマーシャルのキャッチ・コピーよろしく、キモの部分はしっかりと捉えつつ、余計な演出は極力はぶいた構成で、だからこそアングルによってはまるで本当にフロアから演奏中の釣部の顔をのぞきこんでいるような気分になるし、まるで陽気な酒場ででもあるかのようなフロアに、自分も身を置いているような、そんな錯覚に陥るのだ。

 内容が終盤へと向かうにつれ、まるで強めのアルコールをあおった時のような胸の熱と高揚感に襲われていた。「誰も俺の居場所は分からないだろう」、釣部は「ミミズクポルカ」の冒頭でこう唄い出す。そう、彼は三界に家のない男。そして同時に、誰の心にも「踊ろうマチルダ」は在る。このDVDはその存在を呼び起こす、触媒となっているのかも知れない。

 そして最後に。パッケージや曲目だけでは分からない、心にくい演出が一つ。これはこの「触媒」に、実際に触れた人だけのお楽しみ、ということなのだろう。

(※ダイジェスト版。DVD中の映像とは異なります)

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Text:
Yoko "jet-girl" Oda
jet-girl@smashingmag.net

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