マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン(My Bloody Valentine) @ 新木場スタジオコースト 2013.02.08

ノイズの波間に見え隠れするもの
テキスト・レポート「ノイズの波間に見え隠れするもの」@ 新木場スタジオコースト 2013.02.08

My Bloody Valentine

「19時ちょうど、ヴァレンタイン空港発ラヴレス行きの飛行機は霧に包まれた滑走路にゆっくりと滑り込み、離陸のために徐々にスピードを上げてゆく。次第に大きくなってゆくジェット・エンジンの音。それに合わせてかすかに揺れる体。時折、窓の外が青白く光る。つばさに取り付けられたビーコンライトか、それとも遠くで響くカミナリの光?音はまだまだ大きくなり続け、それに混じってカミナリの音も聞こえてくる。長い。それにしても長い。離陸のための加速がもう10分以上も続いているのに、一向に飛び立つ気配がない。え、もう15分もたっている!?この飛行機は本当に飛び立つのだろうか。でも飛び立つとしたら、いったいどこへ?」

 ノイズの波に完全に飲まれ、そんな不思議な感覚に陥ったときに、ギターのケヴィン・シールズが少しだけ横を向き、次の瞬間「ユー・メイド・ミー・リアライズ」のリフとともに一気に現実に引き戻された。そう、これはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのライブ。実に22年ぶりの新アルバムを2月1日に発表した彼らの来日ツアー4日目、東京・新木場スタジオコースとでのことだ。

 会場となった新木場スタジオコーストの周りは、今日の公演を楽しみにして集まったオーディエンスで埋め尽くされていた。彼らのキャリアの長さを象徴してか、オーディエンスの年齢層は幅広く、中には子どもと一緒に訪れた人もいた。超満員のオーディエンスで埋め尽くされた会場の照明が7時13分に落ち、ステージ上に4人が登場。ギターでバンドの中心的存在であるケヴィン・シールズが「ハイ!」とだけ言って、「アイ・オンリー・セッド」を演奏。バンドの背後には大きなスクリーンがあり、そこにはサイケデリック調の映像が流され続ける。この映像は演奏と完全にシンクロしていて、音と映像の世界にぐいぐいと引き込まれてゆく感じがたまらない。2階席からはこの幻想的な感覚に支配されたオーディエンスがゆらゆらと揺れているのがよくわかった。

 前日のライブでは、演奏のやり直しも幾度かあったようだが、今日はそのようなことも無く、ライブは順調に進んでゆく。洞穴の奥から響いてくるようなケヴィンのギターの音もさることながら、それに合わせてハミングのように歌いながらギターを鳴らすビリンダも印象的だ。コルムが叩くドラムの音は力強く、それにさらに力を注ぎ込むデビーのベースもギターの二人に負けてはいない。そんなパワフルな演奏は徐々に熱を増してゆき、オーディエンスの横揺れが徐々に縦揺れに変わってゆく。

 この日一番の盛り上がりを見せたのは、「スーン」から「フィード・ミー・ウィズ・ユア・キス」、そして「ユー・メイド・ミー・リアライズ」と演奏をたたみかけたところだろう。「スーン」ではオーディエンスがモッシュを始め、次の「フィード・ミー・ウィズ・ユア・キス」の最後がぴったりと決まるまでその波は止まなかった。そして、「ユー・メイド・ミー・リアライズ」ではイントロのリフでテンションが最高潮に達した後、オーディエンスを完全に飲み込む冒頭で紹介したノイズの波。その後、リフが戻ってきたときに、心と体を完全に鷲掴みにされてしまっていた。

 ほぼ無言で演奏を続ける4人には全くスポットライトが当たることは無かった。終始うつむき加減で演奏する姿はまさにシュー・ゲイザー(靴を見つめる人)。主に新作『mbv』と彼らの不倒の金字塔『ラヴレス』からの楽曲を織り交ぜた15曲を一気に演奏し、ステージを後にした。全部で1時間30分ほどのステージで、アンコールは一切なし。何とも潔い。

My Bloody Valentine

 人はわからないものに本能的に恐怖を覚え、それが何かを必死に突き止めようとする。彼らの演奏するノイズやスクリーンに映し出される映像の中には、意味あり気なものやメロディーが見え隠れし、それを見逃すまいとしているうちに強く引き込まれてゆく。この、人を引きつけて離さない彼ら独特の世界観こそが彼らの魅力の本質だろう。5月11日と12日に東京・味の素スタジアムで開催される『Tokyo Rocks 2013』で再び来日の予定。今回見逃した人も、そうでない人も是非体験してみてはいかがだろうか。

–>フォト・レポート

— set list — (原文まま)
 
I only said / when you sleep / new you / you never show / honey power / cigarette In your bed / come In alone / only shallow / thorn / nothing much to lose / to here knows when / slow / soon / feed me w your kiss / you made me realise
 

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Photos:
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Text:
Ryuichi Tanaka
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