デーモン・アルバーン (Damon Albarn) @ レディオ・デイ・ステージ、オースティン 2014.03.14

飽くなき”実験”と自己との対話
テキスト・レポート「飽くなき”実験”と自己との対話」@ レディオ・デイ・ステージ、オースティン 2014.03.14

Damon Albarn

 本稿の主役であるデーモン・アルバーンには、昔から”実験”というキーワードが思い浮かぶのだ。

 デーモンがフロントマンをつとめるブラーは、90年代中期に一世を風靡したブリットポップ・ムーブメントの旗手として語られることが多い。しかし、当時からブラーのどこが”ポップ”なんだ!?と思っていたものである。デーモンの人を食ったような声、シニカルで毒気たっぷりの歌詞、グレアム・コクソンの場違いをものともせず、キャッチーなメロディの上を暴れまわるギター、ひねくれた可愛げのないバンドスタイル、ブラーというパッケージのいかれっぷりは異彩を放っていた。当時ライバルと騒がれていた、オアシスの方がはるかに”ポップ”な存在だった。

 ブラーは、今年1月に約11年ぶりとなる来日2公演を成功させ、改めてバンドのケミストリーは健在であることを見せつけたわけだが、そのバラエティに富んだ質の高い楽曲群はこの時代のバンド勢の中でも断トツだと断言できる。どの楽曲も随所に”実験”の匂いが立ちこめているのだ。これは、ロックとヒップホップの新しい関係性を定義した架空のヴァーチャルバンドのゴリラズをはじめとした、デーモンがこれまでに関わってきた様々なプロジェクトにおいても言わずもがなである。ともかく、デーモンは思いついたアイデアは試さずにはいられない性分なのだろう。

Damon Albarn その時々の”実験”により足場が大きく変わったとしても、どこを切ってもデーモン印あふれる音楽へと昇華されている。それを成しうるのは、彼が語った創作ポリシーが”きも”のようだ。「どのプロジェクトの曲を書く時も、感情の核心的な真実を得ようとしているだけだ。ぼくのルールはそれしかない。曲で語ることを本当に自分で感じていないとだめで、そうでないと完全にイヤになる。また、自分について現実的であろうと努めていて、すべてが発表に値するほどよいものになるわけではないことを認めている。毎日が最高の日であるわけではないので、ぼくが真実だと感じられなくて、自分の中にしまっている曲もある。」なるほど…、”実験”のコアには彼のリアルが常にあり、それが一聴してデーモンと分かる”らしさ”を生み出しているのだろう。

 そんなデーモンが満を持して、ソロアルバム『エヴリデイ・ロボッツ(Everyday Robots) 』をリリースするというのである。サウス・バイ・サウスウェスト(以下SXSW)がアメリカにおけるソロ作の初披露で、しかも本ライヴのつい前日に今年のフジロックへの出演も発表されたとあっては観ないわけにはいかない。

 当日の朝、眠い目をこすりながら、マグの写真/映像スタッフとともに会場へと向かった。会場は、SXSWのメイン会場であるコンヴェンション・センターの4階にあるレディオ・デイ・ステージだ。昨年は、ここでジェイク・バグのステージを観た。この会場には、無料のwi-fiもつながり、席に座ってリラックス取材できるからか、プレス関係者がよく集まる。会場前には朝の10時過ぎという早い時間帯にもかかわらず、既に列ができていた。デーモンの次の一手に対する注目度の高さがうかがえるというものだ。入場後は走って最前列へ行き、真ん中の最高の席を確保することに成功した(この会場でこんな席の陣取り方をする無粋な輩はいない)。

 開演予定時刻の11時ちょうどにデーモンは、バンドを従えゆっくりとステージに登場した。バンド構成は、デーモンを含めた3人のアコースティック・ギター弾き、ピアノ奏者1名、3バイオリンに1チェロの4人のストリングス隊にドラマー1名という布陣。ドラムセットも2個のスネアにライドシンバルのみという”ザ・シンプル”そのもので、打ち込みやエフェクト処理一切なしのアコースティックなセットだ。

 会場のほとんどのオーディエンスにとって、デーモンのソロの楽曲に初めて触れるからだろうか。心なしか会場に緊張感が漂っている。静謐な雰囲気の中、アコギの弦が静かに爪弾かれ、ピアノの流麗な旋律が美しい「ロンリー・プレス・プレイ」でステージの幕が上がった。デーモンは、ザ・ガーディアン紙のインタビューでこの曲について次のように語っている。「『プレス・プレイ』っていうフレーズがものすごく抽象的なものでもあるんだよ。みんなの日常を抽出してくるっていう意味でね。というのも、あらゆることが『作動ボタンを押す』だからね。DVDを観るのも、ラジオを聴くのも、コンピューターをつけるのにも、暇つぶしのゲームをやるのにもね。すると三角マークがどんどん抽象化されて、あのマークそのものが時間をもてあましている状態と同義語になってくるわけだから。」日常のふとした仕草の中に潜む孤独な心理を直接的に吐露してくる。あくまで優しく、暖かい歌声で。

Damon Albarn 冷たさを感じるピアノの旋律の上をバイオリンがもの悲しく鳴り響く、アルバムのリード・トラック「エヴリデイ・ロボッツ」へと続く。デーモンは印象的なフレーズ、”Everyday robots just touch thumbs(ロボットたちは毎日「いいね!」のクリックをただ押し続ける)”と虚ろにリフレインする。テクノロジーにコントロールされ過ぎている今を克明に切り取り、それに対する不安や懐疑心を音にくるめて投げかけてくる。バックバンドが控えめに奏でる音が素晴らしく良い。デーモンの声にフォーカスするべく音響、音量、音圧とすべて完璧に調整され出力される音の粒たち。その素晴らしい音の波の上を自在に乗りこなすデーモンの声。誰もがその声に改めて感じ入ったことだろう。

 デーモンがピアノで優しく弾き語る「フォトグラフス(ユー・アー・テイキング・ナウ)」からルー・リードに通ずるポエトリーリーディング的歌唱が印象的な「ホロウ・ポンズ」の後、これまでの短調な流れから一変した。2年前にタンザニアを訪れた際に出会った怪我を負った小象のことを歌った「ミスター・テンボ」だ。ギタリストの一人がギターをウクレレに持ち替え、軽快なリズムで楽しいメロディを刻む。ストリングスとピアノが絶妙に絡み躍動感を醸成する。呼び込まれたSXSWの地元オースティンのコーラス・グループ6名によるゴスペルの荘厳な要素も加わり、会場は本ステージ一番の盛り上がりを見せる。これが個人的ハイライトとなった。元来この手の明るく楽しい曲が大好きなのである。ストリングスが入ることでより楽曲の持つ美しさが一層映えるゴリラズの「エル・マニャーナ」をはさみ、ブライアン・イーノとコラボ曲「へヴィ・シーズ・オブ・ラヴ」でその曲名が示すとおりの深淵な空気を生成し、ステージを後にした。

 デーモンのソロ・プロジェクト開始に向けたフレッシュな意気込み、そしてこれまでの経験とある種の悟りが結実した瞬間を目の当たりにした。その年のSXSWの顔となった3アーティスト/バンドにカテゴリー分けされ贈られる”ゲルケ・プライズ(Grulke Prize)”( SXSWのクリエイティヴ・ディレクターであった故ブレント・ゲルケ氏にちなんだ賞)において、キャリア・アクト・プライズ(Career Act Prize)を受賞したのも納得の素晴らしいステージだった。そして、今回のデーモンのソロ作における”実験”とは、自分の感じたことを媒介なしにそのまま表現することだと感じた。その分、メロディも歌詞もサウンドも直接的でこれまでで一番分かり易いと言える。だが、シンプルなものほど人の胸を打つ。このソロ・プロジェクト、今デーモンが立脚している足場は多くの人に受け入れられるだろう。約2か月後には、デーモンはいよいよ苗場に帰還する。フジロックでどんなステージを繰り広げてくれるのか、待ち遠しくてしょうがない。

– set list –
Lonely Press Play / Everyday Robots / You and Me / Photographs (You Are Taking Now) / Hollow Ponds / Mr Tembo / El Mañana / Heavy Seas of Love

Damon Albarn

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Text:
Takafumi Miura
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