イースタンユース – 『ボトムオブザワールド』

ニュー・アルバム『ボトムオブザワールド』クロス・レビュー

CDレビュー『ボトムオブザワールド』 2015.02.18

eastern youth

【収録曲】1.街の底 / 2.鳴らせよ 鳴らせ / 3.イッテコイ カエッテコイ
4.ナニクソ節 / 5.コンクリートの川 / 6.茫洋
7.テレビ塔 / 8.道をつなぐ9.直に掴み取れ / 10.万雷の拍手
発売日:2015年2月18日 / 定価:2,600円+税

 



 

 2015年2月2日、イースタンユースのメンバーとして20年以上の活動をしてきた二宮友和が脱退を発表した。 バンドを支えてきたベーシストの脱退は、良くも悪くも『ボトムオブザワールド』を3人で制作した最後のアルバムという文脈で語らせてしまうかもしれない。だが、そういったバンドの歴史を無視してでも、いろんな人にこのアルバムを聴いてほしい。だって、僕が初めて聴いたイースタンユースのアルバムは、この『ボトムオブザワールド』なのだから。

 アルバムは「街の底」から始まり、「万雷の拍手」で幕を閉じる。僕たちが住む、街。ありとあらゆる人が住む、街。そこには住む人の数だけの暮らしがあり、希望があり、絶望がある。笑う人もいれば、泣いている人もいる。昨日が終われば、今日があり、また明日がやってくる。明日を望む人がいれば、来てほしくないと願う人もいる。なんとかしてその日一日をやりきらなくてはならないときもあるし、毎日が生存競争で辛く苦しいときもある。弱者の気持ちは強者には到底わかるはずもないし、その逆もまた然り。こんなやり場のない気持ちが今の世の中にたくさん渦巻いている。もちろん、生きていれば楽しいことがたくさんある。そうでなくては生きる意味がないだろう。だが、生きることは大変なのだ。そんな世の中のリアルを吉野は愚直なほど真っすぐな言葉で発している。オブラートに包まれたものはなにひとつない。すべてがありのままの現実。そこに虚構はない。僕たちは2015年を生きている。

 そんな今を鳴らしたのが『ボトムオブザワールド』である。 そして、2015年に限らずこのアルバムの曲たちは、いつなんどきも人の心に突き刺さるだろう。「鳴らせ 鳴らせ 鳴らせ 震える魂を」「俺は俺だ!って足を踏み鳴らして 俺はここだ!って叫び続けている」「泣くんじゃねえ 泣くんじゃねえ 涙は川に捨てろ」「押し付けられた世界を踏み外して 行くも戻るも風に訊く 誰かが決めた未来を突き返して 人間万事塞翁が馬 直に掴み取れ」。たった数曲からでも、こんな熱い言葉を見つけられる。ラストの「万雷の拍手」を聴けば、その終わりの美しさに二宮が「全てをやりきった」と言ってしまう理由が曲がりなりにもわかってしまうというか、イースタンユースの3人がこの人生讃歌の10曲にに込めた魂を、気持ちを、言葉の力を、ありありと感じることができるはずだ。

Text:
Yasuaki Ogawa
yasuaki@smashingmag.net
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 このアルバムを聴いたとき、自分の感想が浮かび上がる前に、これを聴いた他の人はどう思ったのか尋ねたくなった。自分は、この作品を受け止めていいのか戸惑ってしまったのだ。

 たいへんな力作であるし、今までのイースタンユースにない要素が取り入れられている変化をみせたものである。事前の情報がない状態で何回か聴いた時点で、この作品はイースタンユースの歴史の中で特異な位置を占めるものだ、と感じた。もちろん、U2が毎回毎回アルバムを発表するたびに新しい要素を取り入れながら、最終的にはいつものU2らしさに着地するように、この作品でも、吉野の叫び、ノイジーで鋭いギター、重厚なリズム隊というイースタンユースらしさに着地している。

 ジングルベルでも始まりそうな鈴の音からポエトリー・リーディングのように始まる「街の底」、スローに荒れ狂う「茫洋」、ザゼンボーイズ風のラップが入る「直に掴み取れ」、吉田拓郎を思わせる「万雷の拍手」など、紛れもなくイースタンユースの音だけど、物を食べたときに口の中で何かを噛んだような違和感を覚えるのだ。

 そして、なんといっていいか困惑し文章を書くことができなかった。

 その困惑の中、しばらくしてベーシスト二宮の脱退が発表され、新作に関連して吉野のインタビューがいくつかのメディアに載り、それを読んでようやく自分が感じてきたことが形を現してきたのだった。やはり、バンドに臨界点がきてしまったのだなと。バンドが大きな変化を迎えるとき、曲のバラエティが広がったり、外部のメンバーが参加したりという現象がおきるときがある。ビートルズでいうと『ホワイトアルバム』から『レット・イット・ビー』なのだ。そこで起きている変化がこの1枚に凝縮されているのだ。

 情報が入ってくると「直に掴み取れ」のラップパートは「ザゼンボーイズ風」どころか向井秀徳によるものだということを知る。曲の中の言葉をバンド外部の人に委ねることにバンドの変化を否が応でも実感する。そしてそれ以外の吉野による言葉を聴いていると、いつものように吉野の強烈な自負、自我を感じられ、そのギリギリの精神状態を表した歌はやっぱり私小説的であり、息苦しく思うくらいだ。吉野は二宮が脱退してもバンド継続を表明している。この作品は臨界点に達してしまったバンドの生々しい記録である。

Text:
Nobuyuki “Nob” Ikeda
nob@smashingmag.com
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 アルバムがリリースされる2月18日以降、私はイースタンユースを好きだという人に出逢うたびに、「ところで、『ボトムオブザワールド』は聴きましたか」と、たずねることだろう。話は、それからだ。そんな心持ちで、この作品を聴いている。

 割れ渦巻くグルーヴを、一閃するギター。揺るぎないドラム。多様な表情で魅せるベース。鳴っているのは、このバンドの意匠そのものといえる音。しかし、1曲目の「街の底」で、吉野の堰を切ったような言葉がリフに乗った瞬間、ハッとする。この作品には、開かれたあたらしさが息づいている。

 「鳴らせよ 鳴らせ」「コンクリートの川」で示される、やぶれかぶれの反骨。「イッテコイ カエッテコイ」で狂気に揺れ、「茫洋」でのしかかってくる絶望に押しつぶされそうになりながら、「ナニクソ節」で自らに不屈を言い聞かせる。「テレビ塔」で叫ばれる無常に、季節の移ろいの中を、ただ生きるしかない宿命を胸に刻む。

 「直に掴み取れ」で、向井秀徳の名人芸的なラップが切り込んでくる驚き。合唱で達する、バンド史上もっとも鮮烈なクライマックス。街の底を這いつくばって生きた男が去って行くような、「万雷の拍手」の荘厳なラスト。

 全編を見渡すと、盛り込まれた新機軸と、振れ幅が際立つ。絶え間の無い切迫感が作品を引き締め、壮絶なテンションがみなぎっている。「生きることは、プレイすること」と言い切った男の、真骨頂がここにある。

 「道をつなぐ」を聴きながら、結果的にそうなっただけなのだが、これから迎えるバンドの再起動を予見するかのような一節があるなと思う。

 私たちは、イースタンユースの「潮時」に立ち会っている。

 なにも知らないまま、最後の瞬間が行き過ぎることは、珍しいことではない。一刻一音を噛み締めながら、二宮を、「私たちが知っている、イースタンユース」を見送ることができるのは、恵まれているのではないか。

 潮時とは、「終わり」ではなく、「好機」である。彼らの歩みと、表現してきた姿に、ごまかしや偽りはなかった。バンドの歴史が激動する瞬間を封じ込めた、『ボトムオブザワールド』と、3月下旬から予定されている全国ツアー。潮流を超えた、「その先の、イースタンユース」。信じて、見据えることにする。

Text:
Keiko Hirakawa
keco@smashingmag.net
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極東最前線 / 巡業2015~ボトムオブザワールド人間達~

 
3月28日(土) 千葉 LOOK
3月29日(日) さいたま新都心 HEAVEN’S ROCK
4月 3日(金) 金沢 vanvanV4
4月 4日(土) 長野 ライブハウスJ
4月 5日(日) 新潟 CLUB RIVERST
4月10日(金) 福岡 DRUM Be-1
4月11日(土) 広島 ナミキジャンクション
4月17日(金) 横浜 F.A.D
4月18日(土) 静岡 SUNASH
4月19日(日) 京都・磔磔
5月 9日(土) 松山 Double-u Studio
5月10日(日) 岡山 ペパーランド
5月16日(土) 盛岡 the five
5月17日(日) 仙台 CLUB JUNK BOX
5月23日(土) 名古屋 クラブクアトロ
5月24日(日) 梅田 クラブクアトロ
5月30日(土) 渋谷 TSUTAYA O-EAST
6月 6日(土) 札幌 cube garden

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Text:
Yasuaki Ogawa
yasuaki@smashingmag.net
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