アウトサイドヨシノ(outside yoshino, 吉野寿)@ 出雲 旧大社駅 2015.02.07

冬の旅。人の想いがつなぐ旅 <Part 3: 出雲編>
テキスト・レポート「冬の旅。人の想いがつなぐ旅」 Part 3 @ 出雲 旧大社駅 2015.02.07

outside yoshino

 「今までやってきたなかで、いちばん凄いところ」お客さんの入場を待っている間、吉野は言った。「防空壕でやったこともある」と笑いながら。

 出雲のライヴ会場となった、旧大社駅。1912(明治45)年に国鉄大社線の開通により開業され、1924(大正13)年に改築。1990(平成2)年のJR大社線の廃業まで、実際に使われていた駅舎である。細部まで端正にデザインされた、瓦屋根に木造平屋建ての建造物。2004(平成16)年に、国の重要文化財に指定されている。

outside yoshino 場内は火気厳禁ゆえ、ストーブを置くことができない。そのかわり、観客が自由に利用できる使い捨てカイロや膝掛け、ポット入りのお茶が用意されていた。幸い、覚悟していたほど冷え込むことはなかったが、なんという心配りだろうか。

 チケットも、申し込んだら郵送されてきた。同封されていたのは、手書きの手紙。出雲大社周辺の地図や、旧大社駅のパンフレット、博物館の割引券なども。主催者の中島さんは、名古屋の主催者と同様、ライヴの企画をすること自体が初めてとのこと。吉野に旧大社駅で演奏してほしいという一心で、準備を重ねてこの日を迎えた。「最初で最後のつもりです」と語っていた彼女の、真心が伝わってくる。

 開場前。「あえてハードコアっていうのはどうかな」と、吉野は会場に流すBGMのプレイリストを選んだ。’70〜’80年代のパンクが、純和風の駅舎に響く。

 吉野が出雲に来るのは、イースタンユースのツアーで訪れた’00年以来であると、開演前に隣に立っていた男性客が教えてくれた。「来てくれて嬉しい。出雲はミュージシャンを継続的に呼ぶ土壌があるんです。吉野さんを誰も呼ばないなら、自分が呼ぼうかと思っていた」とも。

outside yoshino スゥエル・マップスの「ヴァーティカル・スラム」が流れ始めた頃、吉野はステージに上がった。椅子に座って、BGMを流していたアンプの上に置かれたiPodを止める。この日も、「わたしの青い鳥」から始まる。

「終点はすなわち、始発駅なんですね。乗り込んだ列車はどこに向かってるのかわかりませんが、持っている切符はいつだって片道分しかありません」

 駅舎だった建物で演奏される、「片道切符の歌」。この曲が鳴らされる場として、これ以上ないシチュエーション。「天沼夕景」「小さな友人」といったイースタンユースの曲も、緩急たっぷりに演奏される。ソロならではの味わい。

 天井が高い木造の空間と、歴史ある場の相乗効果だろうか。情味の込められた歌が、ひときわドラマチックに聴こえる。吉野の叫び、鋭利なギターの音も、輪郭をクッキリと保ちつつ、会場全体を包み込むように響く。

outside yoshino

「出雲大社に行って、縁結びをお願いしてきたんです。『いいご縁がありますように』って、4回拍手するんだね」

 出雲大社の参拝の作法どおり、吉野は両手を少しずらして、4回柏手を打つ。「叩いて、南無って言って…南無だと具合悪いよね。『お願いします』って言ってね」言い直す様子に、笑いが起こる。

 二宮の脱退が発表された日以来、吉野が初めて観客の前で演奏する機会だった。突然のことに驚き、気持ちの整理がつかないまま、会場に足を運んだ人もいたかもしれない。吉野からそのことに関して、具体的な言及はなかった。ただ、良縁を祈ってきたという穏やかな口調に、「出来事」を静かに見守るような気持ちになる。

「いい縁がなかなかなくてさ。ひとりぼっちになっちゃうことが多いんだよね」

とつぶやいて、「二月はビニール傘の中」。前半のしみじみとした調子が、胸に染み入る。空気が一変。気迫が込められたギターの音から始まった「有象無象クソクラエ」。前半最後の曲は「街の底」。冒頭、鳴らすギターの音も最小限に、毅然と言葉を放つ。立ち上がってくるのは、「詩」としての強さ。

outside yoshino

 休憩時間が明けて、吉野は仕切り直しの乾杯をする。「サヨナラダケガ人生ダ」の最後のコーラスは、アカペラだった。しんとした会場に、歌声だけが響く。生々しい抑揚。「サヨナラダケガ」と歌って、ひと呼吸置いて缶ビールをグッとあおり、「人生ダ」と続ける姿。感嘆する。

 その後の曲は、いずれも前口上のようなMCのあとに演奏された。ギターを弾きながらの言葉。曲間にもグルーヴが生まれる。一人称の曲に、吉野という人物と、1対1で向かい合うような時間が流れていく。

 アンプの上に置かれた時計を一瞥。残された時間が少ないことを確認して演奏された、「青すぎる空」。吉野の歌に、観客の歌声が沿う。1番が終われば、自然と歓声が上がる。

 本編最後の「裸足で行かざるを得ない」の前に、吉野は改めて礼を述べる。

「出雲には随分長いこと来てなくてね。なかなか俺たちも来れなくてさ。来れねぇうちに、なんだかいろんなことがいろんな風になってしまったけれども…まあ、生きてる限り、また来ることもあるだろ」

outside yoshino

 アンコールは「夜明けの歌」。曲はその場で選ばれているはずだが、完璧な流れだった。絞り出すように声を放ち、ひときわ強くステージを踏み鳴らす。ギターの最後の一音を結ぶまで、惹きつけられる。旧大社駅に、大きな拍手と歓声が響いた。

 終演後。吉野が自ら立つ物販売り場に、長い列ができる。本人に直接接客してもらえたり、想いを伝えることができるのは、単なる「買い物をする」という行為を越えて、嬉しいもの。みんな帰る前に吉野にひとこと声をかけたくて、待っているのだった。持ってきていたCDやTシャツは完売した。もともと家内制手工業(要するに吉野の自宅で手刷り)で生産されたTシャツだったりするので、持ち込んだ数自体多くはないのだが。買えた人は、ラッキーということで。

 機材の片付けが終わり、吉野はiPhoneを壁に立てかける。セルフタイマーで自身の姿と旧大社駅の空間を写真に収めて、会場を後にした。翌日は、岡山へ向かう。

outside yoshino

— set list —
わたしの青い鳥 / 片道切符の歌 / インサイド・アウトサイド / 天沼夕景 / ナニクソ節 / 小さな友人 / 二月はビニール傘の中 / 有象無象クソクラエ / 街の底 / サヨナラダケガ人生ダ / グローイングアップ俺達 / ファイトバック現代 / 念力通信 / あたしのブギウギ / 青すぎる空 / 裸足で行かざるを得ない
 
— encore —
夜明けの歌

 

–>冬の旅。人の想いがつなぐ旅 Part 4 @ 岡山 城下公会堂 2015.02.08
[ 1 | 2 | 3 | 4 | 5 ]

 

Share on Facebook

Information

Photos:
Keiko Hirakawa
keco@smashingmag.net
Facebook / twitter
Keiko Hirakawa's Works

Text:
Keiko Hirakawa
keco@smashingmag.net
Facebook / twitter
Keiko Hirakawa's Works

Write a comment