アウトサイドヨシノ(outside yoshino, 吉野寿)@ 熊谷 モルタルレコード 2015.08.02

灼熱の街。迅雷とともに
テキストレポート「灼熱の街。迅雷とともに」- アウトサイドヨシノ (outside yoshino, 吉野寿) in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 熊谷 モルタルレコード 2015.08.02

outside yoshino

 日本の最高気温第2位を保持する街、熊谷。8月。覚悟していたとおり、猛烈な暑さだった。翌日調べたら、この日の熊谷の最高気温は37.1度。ライヴを企画した宮川さんは、吉野に真夏の熊谷で演ってほしかったのだと言っていた。わかる気がする。灼熱の街と、アウトサイドヨシノに通じるもの。それは、対峙する側の「ただならぬもの」へ抱く気構えかもしれない。

 チケットは予約開始早々にソールド・アウトしていた。会場のCDショップの、店舗の奥にある階段を登る。木造の民家のひと部屋のような趣のある2階。直に座った観客で、板張りの床は埋まっていた。BGMは、ずっとニーナ・シモンがかかっている。

outside yoshino

 何曲めかに流れた「アフリカン・メイルマン」。今年3月から6月まで行われたイースタンユースのツアーで、開演時のSEとして使われていた曲である。誰も何も言わないけれど、ここにいる誰もが2ヶ月前に記憶を引き戻されたのではないか。ツアー最終日以降、イースタンユースは休業中。吉野のソロでのワンマン・ライブは、2月の札幌以来となる。
 
 次の曲、「トゥー・ビー・ヤング ギフテッド・アンド・ブラック」の最中。18時を迎え、吉野が2階に現れた。窓の外で空が鳴っている。雷が近い。

「もう降ると思うんですよ。やってる間に降って、止んでくれりゃいいんですけどね」

 いつもどおり進めたいと思っています。と言い、一歩一歩を踏み出すように刻まれるギター。1曲目に演奏されることが多い「片道切符の歌」は、吉野が原点に立ち返り、グラウンディングするための曲のように感じる。「インサイド・アウトサイド」「それに殺される前にあの空を撃て」では、ときにつぶやくように、ときに喚き散らすように歌が放たれる。町内会の集会でも始まるんじゃないかといった素朴な空間は、あっという間に吉野の独擅場となった。

outside yoshino

 激しく床を踏み鳴らすからか。「歌っていると動く」といって、吉野はマイクと歌詞の印刷された冊子を乗せた台の足を、ガムテープで固定する。外からは雷のとどろきに加えて、強い雨音が聞こえてきた。

「いいね。なんならさ、歌をうたわないで雨音を聞く会にするか。いいもんだよね。俺、よくそうやって家で飲んでますよ」

 ギターを抱え込むように、しみじみ鳴らされたイントロ。「暁のサンタマリア」はゆっくりと情感たっぷりに歌われた。聴き入るあまり、室内は完全に静まり返る。と思えば、吉野は曲間にフィリピンのガールズ・ユニットの曲のサビを小さく口ずさむ。「知ってる? フィリピンで大ヒットしたらしい」と観客に語りかけ、ソロでおなじみの曲へ。飾らない身の丈の言葉で歌われる、「泣くんじゃねえよ男だろ」「グローイングアップ俺達」。

outside yoshino 「いい具合に雷も鳴ってまいりました。天の怒りが、いま熊谷に。我々人類の所業の報いが、いま熊谷に。ここで死にましょう。みなさん、今日は帰れません」
 
 観念したように語って「有象無象クソクラエ」。広い窓から入る雷光が、爆発炎上する吉野の演奏の最高の演出となる。屋内だから雨と雷はしのげているが、「ここにいれば大丈夫」といった空気にはならない。まさしく「ここで死にましょう」という言葉が相応しいテンションが張り詰める。

 15分ほどの休憩を挟む。吉野は「もうだいぶ出来あがってきました。それゆえに激しめの曲は前半に、後半はムード歌謡一本に」なんて言っている。「ここで会ったのも何かのご縁です。乾杯を、この良き日に」と吉野は缶ビールを高く掲げ、観客も応える。「サヨナラダケガ人生ダ」から後半が始まる。

outside yoshino

 「細やかな願い」のあと、「宣言どおり、ムード歌謡ばっかりやりますからね」と、「二人でお酒を」「まつのき小唄」。女性目線・マイナーコードの歌謡曲のカヴァーである。ラテン風のギターに乗せた「見るまえに跳べ」はストイックな響きの間奏を経て、「理由は探さない」につながり、また「見るまえに跳べ」に戻っていく。「ナニクソ節」では、激しくギターをかき鳴らしながら不屈の気概を吐く。

 雷鳴に曲を止めて、「いいね」とつぶやく。歌詞カードをめくりながら曲を選び、ビールをグッとあおってからイントロを奏ではじめる。歌い出しでハンチング帽をかぶりなおす。吉野のペース、吉野のリズム。観客はそれをじっと見つめている、

 ギターをつま弾きながら語りはじめる。「背中を丸めるような気持ちで生きてきたつもりだけど、小さい頃から疎まれたり、仲間外れになったりすることが多かった」「大人になってもあまり自由にならなくて。俺の半径1メートルくらいは完全に別次元の世界みたいな」などと言ってから「ワン・ボーイ1983」。逃れられない自己と、真夏の追憶が重なる。

outside yoshino

 中島みゆきの「化粧」のカヴァーは、吉野の十八番である。楽曲そのものもすばらしいのだが、嗚咽をこらえるように歌う序盤から、激情あふれるサビまで。先に演奏した2つのカヴァー曲と同じように、吉野は女の内に秘めた激しさや、かなしい性を見事に歌い切る。歌詞に織り込まれた心の襞をすくい取る繊細な感性、歌い手としての懐の深さがあるからこその表現である。

 本編最後は自らに言い聞かせるように「行けるとこまで行ってやろうかなと思ってます。本当は誰でも一緒ですよね」と言いながら、「裸足で行かざるを得ない」。アンコールは「すっごいたくさん練習してきたんですけど、いざ本番になると練習してない曲やりたくなるもんですよね」と言って「街の底」。イースタンユースの新旧代表曲。どちらも持てる力を絞り出すような熱演を見せ、観客は大喝采を送った。

 外に出てみる。吉野がはじめに言ったとおり、雨は上がっていた。この日の吉野は、場所と天候を完全に味方につけた。猛暑に応えるかのような夏らしい選曲があり、電球2灯のみの照明だからこそ、窓からの雷光が映えた。熊谷の暑さとともに、記憶に残るライヴであった。

outside yoshino

— set list —
片道切符の歌 / インサイド・アウトサイド / それに殺される前にあの空を撃て / 暁のサンタマリア / 泣くんじゃねえよ男だろ / グローイングアップ俺達 / 有象無象クソクラエ / サヨナラダケガ人生ダ / 細やかな願い / 二人でお酒を / まつのき小唄 / 見るまえに跳べ〜理由は探さない / ナニクソ節 / One Boy 1983 / 化粧 / 裸足で行かざるを得ない

 
— encore —
街の底

Share on Facebook

Information

Photos:
Keiko Hirakawa
keco@smashingmag.net
Facebook / twitter
Keiko Hirakawa's Works

Text:
Keiko Hirakawa
keco@smashingmag.net
Facebook / twitter
Keiko Hirakawa's Works

Write a comment