原始神母 ~Pink Floyd Trips~ @ 東京キネマ倶楽部 2015.08.29

搾りたてのピンク・フロイド
テキスト・レポート「搾りたてのピンク・フロイド」 @ 東京キネマ倶楽部 2015.08.29

Pink Floyd Trips

 ピンク・フロイドは1970年代を中心に活躍したバンドで、ロックに宇宙的な壮大さをもたらし、人間の不安や疎外感、社会風刺を音楽表現にもたらした。それまでのロックがラヴソング中心で、ダンスできる機能性を備えていたのだけど、ピンク・フロイドはそこからさらに表現を進めて後のロックに多大な影響を与えた。レディオヘッドなどもピンク・フロイドがいなければ存在しなかっただろう。

 原始神母はそのピンク・フロイドをトリビュートするために日本のミュージシャンたちが集まったバンドで、毎年、割と夏から秋にかけて活動している。夏から秋にかけての風物詩のようなものになりつつある彼らのライヴを観るため東京・鶯谷にある東京キネマ倶楽部に足を運んだ。

Pink Floyd Trips 自分が到着したときにはすでに演奏が始まっていて、セットリストによると、メドレーで「エコーズ(Echoes)」の前半から「太陽讃歌(Set the Controls for the Heart of the Sun)」、「シンバライン(Cymbaline)」、「神秘(A Saucerful of Secrets)」とつないでいた。そして「原子心母(Atom Heart Mother)」オープニングのホーンやロケット発射音などはカットされていたけど、ヴォーカルのケネス・アンドリュー、コーラスの成冨ミヲリ、ラブリー・レイナによるスキャットには迫力あり、原曲に新鮮な印象をもたらしていた。続いて「吹けよ風、呼べよ嵐(One Of These Days)」ベースの扇田裕太郎があの重いイントロを弾き、ドラムスの柏原克己がさらに迫力を加え、メンバーたちが一体となって盛り上がってきて迫力が絶頂に達する。そして「エコーズ」の後半に戻るという構成だった。「本質的にはブルース」であるデヴィッド・ギルモアのギターを木暮”シャケ”武彦は忠実になぞるだけでなく、ハードにドライヴするギターとして弾きまくる。厚見玲衣のキーボードが音に厚みをもたらし、三国義貴のキーボードが色を添える。これで第1部終了。休憩中は、デヴィッド・ギルモアがリーダーをやっていた時代のアルバムである『鬱(A Momentary Lapse of Reason)』が流れていた。

Pink Floyd Trips 15分くらいの休憩のあと、「天の支配(Astronomy Domine)」から第2部がスタートする。初演奏「葉巻はいかが(Have A Cigar)」、そしてアルバム通りの曲順で「あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)」と続く。「あなたが~」は木暮のアコースティック12弦ギターと扇田のアコースティックギターが織りなす繊細なプレイが心地よい。

Pink Floyd Trips 一転してエレクトロニカな「走り回って(On The Run)」。原曲よりも長めに演奏され、厚見の放つノイズが新しい印象を与える。この曲から『狂気(The Dark Side of the Moon)』をまとめて演奏するコーナーに突入する。時計の音のSEから「タイム(Time)」、そして圧巻だったのは「虚空のスキャット(The Great Gig In The Sky)」。成冨ミヲリとラブリー・レイナのスキャットが迫力あり、毎回ライヴのハイライトになるわけで、今回もすばらしい声を響かせていた。「望みの色を(Any Colour You Like)」、「狂人は心に(Brain Damage)」「狂気日食(Eclipse)」と『狂気』のアルバム通りに続けてクライマックスに至る。そして「イン・ザ・フレッシュ?(In The Flesh?)」。アルバム『ザ・ウォール(The Wall)』の曲を披露。オペラチックな歌はジギー・スターダスト時代のデヴィッド・ボウイを思わせる。第2部は「コンフォタブリー・ナム(Comfortably Numb)」で締める。「イン・ザ・フレッシュ」と同じく『ザ・ウォール』からの選曲で、デヴィッド・ギルモアがずっとレパートリーにしている後期の名曲だ。木暮のギターが泣きまくったギターソロは絶品。

Pink Floyd Trips アンコールは「クレイジー・ダイアモンド(Shine On You Crazy Diamond)」。扇田もギターを持ち、木暮とのツインギターで原曲の空気を再現する。そして、木暮が締めくくりで感謝の言葉を述べて、扇田がいろんなところで演奏したい、というと客席から「箱根でやって!」と声が飛ぶ。すると「今、アフロディーテ(1971年にピンク・フロイドが野外ライヴをおこなった伝説的な場所)はないんですよ。富士山麓でやりたい」と応える。おお、富士山麓! 期待してしまう。木暮が「経済の曲」と紹介して「マネー(Money)」。熱烈なアンコールが沸き起こり、もう一回メンバーが登場して「ナイルの歌(The Nile Song)」。各メンバーのソロ回しがあって、やっぱり個々の力量のすごさを感じさせる。根がハードロックな人が多いので、荒々しく、その方がライヴの映えするのだ。

 まさに「搾りたてのピンク・フロイド」といえる。メンバーも欠け、ロジャー・ウォーターズとデヴィッド・ギルモアの仲もよいのか悪いのか微妙なところで、ちゃんとピンク・フロイドを観ることができない今、生きたピンク・フロイドを日本で観られるのはこのバンドであろう(海外でもトリビュート・バンドがあるっぽいけど)。生きているがゆえに、一音一音まったくレコードと同じというわけではなく、尺が長かったり、アドリブが原曲を壊さないように入っていたりはするし、原理主義者はいろいろいいたくなるのだろうけど、ピンク・フロイドのすばらしさを伝える意気込みは本物で、リアルタイムで体験していない人こそ、これをきっかけにピンク・フロイドへのめりこんでほしい。

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Text:
Nobuyuki "Nob" Ikeda
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