TEACのターンテーブル、TN-350で聴いてみる

アナログを聴きたいけど… 何で始めるか?
コラム 「アナログを聴きたいけど… 何で始めるか?:TEACのターンテーブル、TN-350で聴いてみる」2015.12.18

TN-350

 実を言うと、90年代半ばから数年前まで、自宅にあるターンテーブルは物置のような存在だった。85年にCDが登場して喧伝された『ノイズのないクリアな音』という言葉に、どこかでたぶらかされていったんだろう。徐々にレコード(今ではヴァイナルと呼ぶ方がいい?)を買わなくなって、主流となっていったのはCD。iPodが登場してからは、CDから音源をリップするというので、その流れが加速。結局、アナログを買うことがなくなった… おそらく、多くの音楽ファンはそんなプロセスをたどって、下手をすると、レコードを処分して、アナログのプレイヤーも手放していったのではないだろうか。なにせ、かさばるし重たいし… 

 でも、手放さなかったのがよかった。何かのきっかけでCDとアナログを聞き比べて、その違いに愕然としたのはいつだったか… それ以来、CDは買わなくなっていった。それに拍車をかけたのが全CDコレクションをiTunesに読み込んでいた時に発見したCDの劣化。なかには変色していたり、銀幕の部分が虫食いのような状態になってまともに再生できないもの1枚や2枚ではなかった。要するに『CDはアナログと違って劣化しない』というのは嘘だということに気付くのだ。しかも、たちが悪いのは、全く再生できなくなること。アナログならば、多少の傷がついても、ブツッというノイズ入りではあっても再生はできる。が、そうはいかないのがCD。捨てるしかなくなるのだ。

 実は、扱いさえしっかりしていれば、ほとんど劣化することがないのがレコード。自宅には生産されて50年を遙かに超えたレコードがけっこうあるんだが、チリチリといったノイズさえほぼ聞こえないものがほとんどだ。もし聞こえたとしても、クリーナーなどで清掃すれば綺麗になる。加えて、人間の聴覚というのは不思議なもので、音楽が流れると脳が『ノイズを消してくれる』ということも見逃せない。さらには、なによりも音が自然なのだ。CDやデジタルは『クリーン』とされるが、逆にそれが不自然さを生み出している。このあたりの受け取り方は個人によって違うんだろうが、少なくともさまざまな音源で両者を比較して、一般的に感じることができるのは音の奥行きや上下といった空間と方向性。それが決定的に違って、アナログの方が遙かに豊かなのだ。

 さらに、レコードは片面が長くても30分という、構造上の特質が、『音楽を聴く』のにほどよい長さだということにも気付かされる。長時間記録が可能というCDの利点は、長時間の視聴を余儀なくされて、なかなか集中して聞き続けることができないのだ。もちろん、それも個人の問題だが、傾向として『そうなってしまった』ことは否定できないだろう。その結果、音楽を『聴く』のではなく、『流す』のが主流となっていったんじゃないだろうか。そんな流れへの反動もあるんだろう。ジックリと音楽を聴き直すことで、アナログの素晴らしさを再発見。埃をかぶっていたレコード・プレイヤーが我が家で復活し、カートリッジを新しいものに交換することで、レコードが本来抱えていた豊かな音で音楽を楽しむことができるようになった。

 が、すでにプレイヤーを処分した人たちに、なにがいいだろう?加えて、音楽好きには必需品となった携帯プレイヤーやコンピュータでの音楽再生に欠かせないアナログのデジタル化。そんなところから、手ごろな価格でいいものはないだろうかと探して引っかかったのがTEACのTN-350だった。価格ドットコムで見てみると4.5万円ほどで、少し頑張れば手を出せる価格。すでにレコード・プレイヤーどころかステレオ・アンプも処分した人でもミニ・コンポの類いなら持っている人もいるだろう。このプレイヤーはフォノ・イコライザーを内蔵しているので、通常ならレコード演奏に欠かせないPhono端子がなくても大丈夫。加えて、デフォルトで装填しているカートリッジはオーディオ・テクニカのAT100E相当とされていて、けっして悪くはない。実際、自宅のアンプに接続して、「聞き比べ」をしてみたんだが、40年ものの、一部の人たちには名器と呼ばれるケンウッドのKP1100と「とんでもない違い」は感じなかった。これでカートリッジを取り替えたら… 充分じゃないかと思うのだ。

 低価格のおもちゃ感覚の卓上プレーヤーとして購入した“電蓄ん”や購入を考えたアイオン・オーディオあたりも選択肢にはなるだろう、ただアナログを聴きたいだけならば。が、このあたりとTN-350を比較するのはあまりにかわいそうだと思う。それにこのふたつはサファイア針。摩耗が激しく、レコードの状態がよくなかったり、汚れていたりすると数十時間で交換となる。当然ながら、摩耗した針を使っていたらレコードそのものが痛んでしまう。それに比べると、TN-350はダイアモンド針で、諸説あるものの、メンテナンスさえしっかりしていれば長時間の使用が可能。入門機的なプレイヤーではあっても、後々フォノ端子付きのアンプに買い換えたときにはよりいい音で楽しめるし、カートリッジを好みのものに変えることで格段と違った音になるはずだ。

TN-350

 ただ、USBケーブルをコンピュータに直結してデータをとったときの結果は、なるほどねぇという印象かなぁ。実験的に、同じ音源、ロック・ファンが最初にジャズを体験して惚れ込む… と、有名なケニー・ドゥリューの名盤『ダーク・ビューティ』から、巻頭の曲「Run Away」を聞き比べながら、データをとってみたときの波形の違いを並べてみた。ここで拡大表示可能で、一番上がTN-350からUSBでコンピュータに直で落としたもの。続くのはTN-350のフォノイコライザーをオンにした状態、次いでオフの状態、さらにKP1100から同じカートリッジを使ってアナログで落としたものなんだが、上ふたつと下ふたつがよく似ているのが面白い。実のところ、KP1100にTN-350に付属しているカートリッジを付けて聴いてみたら、それほど大きな音の違いは感じなかった。まぁ、現在、自分が使っているカートリッジ、オーディオ・テクニカのAT150MLXで聴くと、明らかな違いを感じましたが… 

 アナログのデジタル化に関しては、TN-350より若干高めの値段設定でハイレゾを打ち出したソニーのPS-HX500もいいかもしれない。実際に使ってはいないので、比較はできないが、これまでの経験上、結局、アナログをアナログでデジタル化した方が『気持ちよく聞こえた』ことを考えれば、どうなんだろう。『ハイレゾ』にこだわらなければあまり必要性は感じない。加えて、カートリッジの交換が面倒なのも不満。音の入り口と出口を変えることで劇的な変化を期待できるののだが、その楽しみを奪われた気分がする。また、簡単なデジタル化なんて不要というなら、プレイヤーでは定評のデンオンが発表しているDP-300Fもお手頃価格でアナログを楽しむことができる。まぁ、フルオートなので、レコードの最後になると自動でアームが上がってしまう… ということで、ザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド 』の最後に出てくるループは体験できない。っても、そんなアルバムがいっぱいあるわけではないので、気にすることもないでしょ。

 なにはともあれ、お勧めするのは、まずはターンテーブルを使って、レコードを聴く時間を作ること。なにもしないで、音楽に耳を傾ける、と、いまでは贅沢にも映る音楽の楽しみ方を体験していただければと思う。聞き流すのとは全く違った世界が目の前に広がるはず。そして、ちょっとした工夫で音がよくなったり、もっといろいろな音が聞こえたり… と、そんな過程を経て、徐々に高級オーディオへの泥沼にはまっていくか、アナログの世界にはまっていくか… それはご自分で迷ってくださいませ。こう書いている本人も、そんなにたいしたオーディオを使っているわけではないんだから。
 

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Text:
Koichi "hanasan" Hanafusa
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