アウトサイドヨシノ (outside yoshino, 吉野寿) @ 神戸 旧グッゲンハイム邸 2016.03.18

酒を携え放つ、魂の歌<前編>
テキスト・レポート「酒を携え放つ、魂の歌」<前編> @ 神戸 旧グッゲンハイム邸 2013.03.18

outside yoshino

 休憩時間が明けた後半、吉野寿はビールから神戸・灘の日本酒「空蔵」(くぞう)へとドリンクを切り替えた。興が乗ってきた証拠か、酩酊地獄の幕開けか。どちらにしても面白いことになるだろう。期待が高まる。

 イースタンユースのギター / ボイス担当、吉野のソロ・プロジェクト、アウトサイドヨシノ(outside yoshino)のワンマン・ライヴが、兵庫県にある旧グッゲンハイム邸で行われた。神戸の中心部から西へ電車で20分ほどの街、塩屋。駅近くの小さな踏切を渡り、切り立った石垣に沿った階段の上に、1909(明治42)年に建てられた海を臨む洋館はあった。

outside yoshino 異人館の典型であるコロニアル様式の建物の内部は、建具や暖炉、照明の情緒あふれるデザインが印象的である。会場にこの場所が選ばれたのも、ドリンクに日本三大酒どころのひとつである灘の地酒が用意されたのも、主催者の土居さんの心づくしの計らいだった。

 開演時間。ステージに上がった吉野は裸電球を灯して座る。「このような素敵な場所で、神戸でプレイできて嬉しいです」から始まり、「いつものまくらでございます」と言いながら、ライヴ前に立ち寄った駅前の定食屋の印象や、この会場で音を出せるのが22時までなので、22時5分前には演奏を止めることなどを語った。ついには「始めづらくなってしまいました」と言って笑いを誘い、1曲目のイントロを弾き始めるのだった。

outside yoshino ぽつぽつと語り出すような歌い出しの、新曲「捨てて生きる」。切ないメロディーに静かに寄り添うギターの音色。口笛が暗い空間へ溶けていく。金属質のオクターブに彩られた「アリラン」のフレーズを鳴らし、ライヴ冒頭に演奏することが多い「片道切符の歌」へ。「ナニクソ節」では、右手でイントロのリズムを小さく刻みつつ左手でビールを煽り、その姿に観客からかすかに笑いが漏れる。ソリッドで真っ直ぐな、定番の2曲。「雨曝しなら濡れるがいいさ」はじっくりと深みのある演奏で聴かせる。

 5曲目の「泣くんじゃねえよ男だろ」の前に早くも2本目の缶ビールを開け、「γ-GTPのことは忘れようぜ」と言い捨てる。抑えた歌が沁みる「ポンコツと靴の音」、「小さな友人」で割れんばかりにかき鳴らされるギター。「夜明けの歌」はゆっくり始まり、2コーラス目からギアを入れ替える。コントラストに富んだ前半だった。

outside yoshino

 休憩が開けて日本酒を手にした吉野は、「みなさん、お手元にお酒はお持ちでしょうか」とフロアに語りかけて演奏を再開した。「サヨナラダケガ人生ダ」は詞に余白をもたせたきれぎれの発音から、徐々に激しさを増していく。終わると「乾杯」と言ってグラスを掲げ、観客も応えた。

 ソウル・フラワー・ユニオンの「荒れ地にて」のカヴァーは、初めて演奏された。勇敢なメロディーとともに両足で交互に鳴らしていた足踏みの音が、間奏でさらに大きくなる。「ファイトバック現代」のイントロではコードを弾きながら、

「生きていくには、憎しみみたいなものを燃やさないと生きていけないもんですかね。闘志っていうのはそういうもんなのかなって、ちょっと考えちゃう時があるんですよ。俺は憎んで憎んで生きてきましたけどね。実を言うと世の中全部憎んでますからね。いい人とかそういうんじゃないよね。憎しみを力に変えて、生きてきましたよ」

と語る。続けて演奏されたのは、メドレーのように融合した「見るまえに跳べ」と「理由は探さない」。吉野の奥底にあるルサンチマンと、切迫感があらわになる。凄みに満ちた流れだった。

outside yoshino

「ちょっとくらいチューニング違ってたっていいよね」とつぶやいて始めようとした曲は、吉野のサウンドクラウドに置かれている「たいやき」だった。

「この曲は俺がひとりで作った歌ではなくて、とある人とふたりで作った歌なんですけど、そのとある人がビックリするほど有名になってしまって驚いているんですけど」。「とある人」とは、星野源のこと。吉野が彼を「いいな」と思ったのは、人として味があるからだという。

「そういう人が有名になるのはすごく嬉しいけれど、でも有名じゃなくたって、俺は嬉しいよ。だって、いいんだもん。それだけで」

 そう語って、「だんだん狂ってきましたね。チューナー使ってチューニングするのが一番いいよ」と、結局チューニングする姿に笑いが起こる。いい具合に酩酊感が出てきた。「たいやき」も、吉野の鼻歌をそばに座って聞くような味わいがあった。

outside yoshino

 イースタンユース屈指の代表曲「夏の日の午後」には驚いた。吉野は「練習ではよく弾いている」と言っていたが、ソロで演奏されるのは珍しい。「有象無象クソクラエ」はいつものごとく大炎上し、吉野は日本酒のグラスをギターの弦に滑らせる。ビリビリと振動する金属の弦とガラスの摩擦音から、間髪入れずに本編最後の「裸足で行かざるを得ない」へ。圧巻の演奏。フロアは大きな拍手に包まれた。

「アホなまんま、ここまで来ましたよ。このとおり、見たとおりでね。チューニングもメチャメチャだったりさ、だんだんろれつも回らなくなってきて…。楽しいよ、こんな人生ね。俺、全然後悔してないかんね! 言っとくけど」

 アンコールに応えてステージに戻った吉野の、完全に酔いが回った口調の開き直りに爆笑する観客。それでも「街の底」の胆力の据わった第一声で空気は研ぎ澄まされ、観客を一気に演奏へ引き込むのだった。

 あともう一曲、と鳴り止まない拍手。吉野が22時まで残すところ10分と迫ろうとしている時計を指しつつ演奏した、ダブル・アンコールの「青すぎる空」も格別だった。大喝采とともにライヴは幕を閉じる。ステージを降りた吉野は、フロア後方まで進みながら観客と次々にハイタッチを交わしていた。

outside yoshino

 終演後、観客は入れ替わり立ち替わり吉野へ声をかけていた。直接話さなかったお客さんも、演奏から受け取った熱を胸にしっかり留めて帰途に着いたことだろう。ひとりの男性客が、筆者と土居さんへ嬉しそうに話してくれた。

「ライヴハウスでは日本酒を置いていなくて、ビールが主流ですよね。日本酒とビールでは、酔い方が違うと思うんです。日本酒に合う音楽ってなんだろうと、ずっと探していたんですけど、今日の感じが、もう。ずっとイースタンユースを好きだったから、僕の思い入れもあると思うんですけど」

 吉野がステージで飲んでいた地酒、「空蔵」の蔵元の方だった。このライヴで「空蔵」が供されることをツイッターで偶然知り、会場へ足を運んだという。自身が醸した酒を味わいつつ、吉野が歌う姿を目の当たりにした気持ちを想像して、胸が温かくなった。吉野と観客の有機的なつながりが実感できた、よい夜だった。

outside yoshino

–>「酒を携え放つ、魂の歌」<後編> @ 滋賀 サケデリックスペース・酒游舘 2015.03.19


— set list —
捨てて生きる / 片道切符の歌 / ナニクソ節 / 雨曝しなら濡れるがいいさ / 泣くんじゃねえよ男だろ / ポンコツと靴の音 / 小さな友人 / 夜明けの歌 / サヨナラダケガ人生ダ / 荒れ地にて / ファイトバック現代 / 見るまえに跳べ〜理由は探さない / たいやき / 夏の日の午後 / 有象無象クソクラエ / 裸足で行かざるを得ない

— encore —
街の底

— encore 2 —
青すぎる空

Share on Facebook

Information

Photos:
Keiko Hirakawa
keco@smashingmag.net
Facebook / twitter
Keiko Hirakawa's Works

Text:
Keiko Hirakawa
keco@smashingmag.net
Facebook / twitter
Keiko Hirakawa's Works

Write a comment