アウトサイドヨシノ (outside yoshino, 吉野寿) @ 滋賀 サケデリック・スペース酒游舘 2016.03.19

酒を携え放つ、魂の歌<後編>
テキスト・レポート「酒を携え放つ、魂の歌」<後編> @ 滋賀 サケデリック・スペース酒游舘 2016.03.19

outside yoshino

 神戸のライヴの翌日、吉野は滋賀へ向かった。近江八幡駅が最寄りの酒蔵を改装した会場、酒游舘でライヴが行われた。吉野は小さなアンプの上に置いた自身のiPodからレゲエとスカをBGMとして鳴らし、観客を迎える。開演のころに流れていたのは、ザ・パイオニアーズの「ロング・ショット・キック・デ・バケット」だった。

 この日は会場の運営元である近江八幡の蔵元、西勝酒造の地酒が飲み放題になる、イケるクチにはたまらないシステムだった。吉野は最初から日本酒を飲むと3曲目くらいでキマってしまうため、今は失礼ながらサッポロビールを飲んでいると説明し、

「どのようにして人は酔っ払ってダメになっていくかということを、客観的に。そして(観客側も)たくさんお酒を飲んで主観的に感じていただく。実験の日でございます」

と宣言。これは会場側に飲み放題にしたことを後悔させる勝負なのだと言って、観客と共闘の構えを見せる。

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 この会場で吉野に演奏してほしいと願い、企画を実現させたのは、主催者の森さんだった。酒蔵で吉野の演奏を聴くのは、吉野が日本酒を愛好しているからという事実以上のスペシャル感がある。

 例えば「月の明かりをフラフラゆくよ」で描かれる情景。勢いよく演奏していた「片道切符の歌」で、一転「何が起きても大丈夫」と声をグッと絞る様子。歌詞の一行一行を刻み込んでいった「月影」。前日と異なるゆっくりしたアレンジで始まった「ナニクソ節」。やさしくて切ない西岡恭蔵「君の窓から」のカヴァー。「夜明けの歌」の、かすれ声の1コーラス目。

outside yoshino 挙げればきりがないが、パンク・バンドのボーカリストでありながら、吉野の歌には聴く者の人生の滋味や、悲哀、ままならなさ、やるせなさに寄り添う奥深さが息づいている。そんな歌はビールのように一気に飲み干すのではなく、日本酒のように時間をかけて味わいたい。かつて酒造りの場であった仄暗い酒蔵は、吉野の歌にじっくり向きあうのに適していた。

 酒蔵の内部は天井が高く、奥行きがある。活かし方次第で味のある音響が期待できそうだった。しかし、この日は前半から機材の相性の関係か、絶えずスピーカーからかすかなノイズが聞こえて気になった。「デクノボーさん」から始まった後半はハウリングが頻繁に起こり、吉野も演奏に集中できない様子だった。もったいないと思っていたら、吉野は「ファイトバック現代」の演奏後、ハウリングが起こっていなかった前半の設定に戻すよう、冷静にPAへ伝えた。続けて演奏されたソウル・フラワー・ユニオンの「荒れ地にて」のカヴァーからは音も安定し、観客から歓声も上がる。

outside yoshino「さっきサウンドチェックの時に、(会場の)ご主人からこれの宣伝をしろって言われて。5月29日に中川(敬)さんがここでやるそうです。一応地獄の大先輩なのでお知らせしておきます」
 
 ステージで自身のライヴ告知を一切しない吉野がなぜか他アーティストの宣伝をする、レアな場面もあった。「地獄の大先輩」のチラシを眺めながら、「すごいインパクトある」「写真に普通に写ってるだけで、すごいなーって思う。そういう人、トム・ウェイツかニール・ヤングぐらいしかいない」と語り、観客も笑う。

 ライヴは佳境へ向かう。絶叫に近いコーラスと激しいカッティングの間奏が劇的な「スローモーション」。泣き出しそうな歌唱に胸を締め付けられる、中島みゆきの「化粧」。ギターの澄んだ音色が美しい「また何処かで」から、「青すぎる空」への流れもしみじみと泣けた。

 ここで吉野はようやくステージへ日本酒のグラスを持ってきてもらい、観客と乾杯する。酒を飲みつつグラスを慎重かつ真剣な眼差しでギターの弦に滑らせて始まった、本編最後の「裸足で行かざるを得ない」。緩急を大きくつけた歌と、ネックを前後に大きく揺らしながらのノイジーなギター。入魂のクライマックスに、大きな拍手が湧いた。

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 アンコールで再びステージに上がった吉野は、いま酒を注ごうとしたら、一升瓶が空だったと言い、「ちょっと飲み放題勝ってる感じ!」と、観客のいい飲みっぷりにも嬉しそうだった。森さんに新しい酒を持ってきてもらい、「酒は静かに飲むべかりけり」と若山牧水の短歌の一節をつぶやく。

 かと思えば、酔っ払い口調丸出しで「俺は、あれだよ。変なロックのキラキラした、あんなもんになりたくねえよ。底がいいの、底。そこんとこ。…お? ダジャレかい?」と自らツッコミを入れつつ「そこんとこよろしくお願いします」と言い切った。飲み放題の地酒が効いているのか、いい具合に温まったフロアも笑いと拍手に包まれる。

「底にいないとさ、見えなくなる気がするよ、俺は。何の歌うたうの? そこから。高いとこから見てさ。自分が底にいねえのにさ」

「街の底」の気迫に満ちた歌い出しに呼応して、歓声が湧く。何度も足を大きく振り上げ、ギターを抱え込み、ときにのけぞる様子は、椅子に座っているのに七転八倒しているようにも見える。壮絶な演奏だった。その演奏で割れてしまったピックを観客に示しつつ、ダブル・アンコールは「夏の日の午後」。絶唱の果て、声量を落として震えるように絞り出すコーラスに、心をわしづかみにされた。大きな拍手と歓声が沸き起こるなか、吉野は「ありがとうございます」と観客へ何度も言いながら、ステージを後にした。

 終盤とアンコールの盛り返しは、音響の不調をカバーして余りあるものだった。片手に酒を携え、酩酊した姿の内に鋭く光る、吉野の「街の底」仕込みの恐るべき底力。歌い手としての矜持に唸らされた。

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<–「酒を携え放つ、魂の歌」<前編> @ 神戸 旧グッゲンハイム邸 2013.03.18


— set list —
月の明かりをフラフラゆくよ / 片道切符の歌 / 月影 / ナニクソ節 / 君の窓から / ズッコケ問答 / 念力通信 / 夜明けの歌 / デクノボーさん / One Boy 1983 / ファイトバック現代 / 荒れ地にて / スローモーション / 化粧 / また何処かで / 青すぎる空 / 裸足で行かざるを得ない

— encore —
街の底

— encore 2 —
夏の日の午後

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