ハモニカクリームズ(Harmonica Creams) @ 吉祥寺スター・パインズ・カフェ 2016.04.28

新たな潮流を創るバンド
テキストレポート「新たな潮流を創るバンド」@ 吉祥寺スター・パインズ・カフェ 2016.04.28

Harmonica Creams

 ハモニカクリームズは、パリ在住のハーモニカ吹き、清野美土(きよのよしと)が中心となって結成されたバンドだ。メンバーは3名。フィドルに大渕愛子、アイリッシュ・ギターに長尾晃司といった、いくつものバンドを掛け持ちし、かつ、劇伴などでも活躍する辣腕ミュージシャンが名を連ねている。彼らは、「ケルト×ブルーズ」をウリに、日本はもとより、ヨーロッパを中心とした諸外国でも演奏を行っている。

 ここで取りあげるハモニカクリームズのワンマン・ライヴは、「踊る復活祭」と銘打たれていた。2015年の活動休止・充電期間を経ていよいよ、といった意味もあるが、しきりに「立ち見」をアナウンスしていたあたり、音楽で楽しむ、といった気軽な面も押し出している。開演時間となり暗転、のち、ハモニカクリームズのメンバーにサポートのドラマーを加えた5人が登場すると、フロアからは大きな歓声が沸き起こった。

Harmonica Creams「ケルト×ブルーズ」の、「ブルーズ」を担うのが清野のハーモニカ。音楽の教科書通りならば、タバコや酒でやけたしゃがれ声だとか、はたまた「哀愁」といった、どこか乾いた印象を抱かせるものだが、ハモニカクリームズで吹く彼の場合は違った。好奇心か実験好きか、はたまた発想が豊かなのか、「ケルト」を前面に出して舞う大淵のフィドルと絡むことで、潤った音像を描ききっていた。

 フィドルとハーモニカのユニゾンの中では、こまごまとした外しやアクセントもあり、小さな渦が生まれている。ふと気づけば、次の瞬間にはハモりへと移行していたり、こちらも油断はできない。清野が「ブルーズ」へと進み出て、他のメンバーがバッキングに回る時間すらも、ひとつの流れ、ひと続きのまま展開していくのだ。

Harmonica Creams「踊る」、すなわち、オーディエンスを「踊らせる」ために、わかりやすい踏み切りのタイミングを設けるのがリズム。下手のドラムと中心に置かれたキーボード担当として、bonobos(ボノボ)の田中佑司が参加、上手に据えられたドラムセットの奥には、Yasei Collective(ヤセイ・コレクティヴ)の松下マサナオが座り、バンドに強靭なビートを与える。田中のショットが、スティックをシェル(打面)に少し残すかのような「ねちっこさ」を持っているのに対し、松下はパシャッ、と水面を打つかのような、跳ねたリズムを叩きだす。溢れ出るのは四つ打ちのリズムで、これは、まさにダンス、踊りを誘う縦ノリのものだ。ドラムの両者はアイコンタクトを用いることでハモニカクリームズとのバトルを楽しみ、反応を求め、再び返していくといった連動で魅せた。

 中盤は、メンバー3人のみを残す形で、今のハモニカクリームズの等身大を見せつける。デビューから長らく4人で活動していたが、2013年から3人編成となっている(脱退直後の様子は、ライヴ盤『東京色香』として発表されている)。メンバーの脱退という事実は、各パートに様々な役割の変化をもたらしたと察する。実際、サポートのドラムを入れることで、結果として「3+α」というテーマが生まれ、自由度が増したのではないだろうか。新作、『アルケミー』も同様の編成、スタンスで録音されている。勢いは減速することなく、激しさからたゆたうもの、それぞれのはみ出した毛色や特徴を削ることなく混ぜ、さらなる広がりを持たせて魅せている。むしろ、ケルトやとトラッドなどの枠だけに収まらない、ロック(=揺らす)させる作品となっている。

Harmonica Creams ギターを弾く長尾の右手は、一定の上下動を繰り返している。意図しているのかはわからないが、拍のアタマに強めの低音を置き、併せてリズムを生んでいるようにも思える。路上で演奏することもある彼らの一面が前面に押し出された時間であると同時に、ハーモニカ、フィドル、ギターそれぞれが生む音の粒に触れられる時間としても機能していた。

 再びサポートの2人を招き入れれば、いよいよラストスパート。3人だけでも完成されていたのだが、サポートが交わることでさらに膨らむ、「ハモニカクリームズの可能性」を見せたい、ということも理由にあるだろう。「3+α」を前面に出した展開では、ところどころで各パートが抜け出し、せめぎ合い、それは、清野がひとさし指を立てて合図を出すまで続けられる。直後には決まって足並みを揃える、といった具合だ。

Harmonica Creams 来るもの拒まずの精神は、なにもステージ上だけで展開されるわけではなく、オーディエンスが投げかける言葉にも、実に多弁な清野は応えていく。そればかりか、ハーモニカという、フットワークの軽さを活かして人ごみの中へと分け入り、オーディエンスひとりひとりの顔を覗き込みながら吹いてしまうのだ。

 ステージ、フロア、どこにも垣根のないライヴは大団円で終わった。感覚だけで言えば、ハモニカクリームズの音は、「水」を思わせるものだ。誰かが一滴たらして、他のメンバーがまた、雫をたらす。音が膨らめば、それは川のごとく大きな流れとなり、枝分かれしたり、のちに合流したりと、瑞々しく、動きのある情景をこちらの内側に結ぶ。

Harmonica Creams ここまで触れることはなかったが、実のところ、世界における彼らの評価は高く、2012年には、スペインのガリシア地方で開催される世界最大級の国際ケルト音楽祭「Festival de Ortigueira(Ortigueira’s Festival of Celtic World)」では、優勝をさらっている。本場で生まれていない人間が、「本物」の技術を体得し、型にはまらない突飛なアイデアを持っていたならば、新たな「潮流」を生みだすことができる、ということだろう。

 次に挑むは、ブルーズなのだろうか。こちらはややこしいというか、逆にシンプルとでも言えばいいのか、技術うんぬんの前に、「悲哀」がすべて、とも言われている。曖昧なものほど難しいものはないが、清野自身は、脳梗塞を乗り越えて、再びステージへと戻ってきている。そこには、とてつもないリハビリがあったことは想像に難くない。ブルーズで世界を獲る、さわりの、きっかけの、シッポくらいは掴みかけているのかもしれない。

Harmonica Creams

–>フォトレポート

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