奇妙礼太郎 @ 下北沢シェルター 2016.04.29

日常の延長
テキストレポート「日常の延長」- 奇妙礼太郎 in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」@ 下北沢シェルター 2016.04.29

奇妙礼太郎

 フラリと出てきた奇妙礼太郎はリラックスした様子だった。「お願いします」と一言。椅子に腰掛けると、お決まりの一曲目、”天王寺ガール”からライヴは始まった。息の長いハミングから、突然音を止めて、「ついにこの日がやって参りました」とつぶやいた。その理由を知るオーディエンスは、思わず笑い声を漏らす。

 奇妙は、椅子に腰掛けてはいるものの、ギターに強く腕を振り下ろせば体は沈み、声を張り上げる時にはあごをしゃくりあげ、首筋に浮かんだ血管を見せて唄う。その大きな動きは、目の前に立てられたマイクなど目に入らないかのようだ。されど、声の距離が近くなったり遠くなったりするタイミングはギターの出音とリンクしており、音そのものが立体的に揺れ動くような感覚を与えてくれる。

 続く曲は、奇妙の寝坊によって、前回のタカハシコウキとの対バンが急遽ワンマンとなったこと、今回の企画が振替公演として行われたことに対する懺悔から生まれたもの。自虐、戒め、謝罪、様々な想いが込められ、タイトルは”無断欠勤”となっていた。先に触れた、笑い声の理由がここにある。

「無断欠勤しちゃダメだよ、飲みすぎちゃダメだよ、いろんなものを無くしてしまうよ、財布、携帯…信用」

奇妙礼太郎 当然ながら、こんなことを即興で唄われれば、会場からはさらに大きな笑いが沸き起こる。練ったわけではないだろうが、オチが秀逸だ。先発したタカハシとはベクトルが違うが、奇妙もその名に相応しい変わり者。青筋を立てて唄ったりもするが、常に、どこかしら力の抜けた雰囲気がある。懺悔すらもひとつの表現として取り込み、この振替公演でしか体験できない特別な曲としてオーディエンスへと返してくれたことに、つくづくミュージシャンはいいな、などとも思うのだ。

 そのまま、アニメーションズ時代の楽曲、”音楽を止めないで”へとなだれ込み、かつて同バンドでこの日の会場となったハコ、シェルターに出演した際の思い出を語る。そして、”Dance Music For Me”、”Firefly”と、現在、彼が重きを置いて活動している、天才バンドの楽曲へとなだれ込む。語りを交えながら、彼自身の昔と今が重なってゆく。

 いっぽうで、遊び心もとまらない。ある世代より上にはつとに知られた「trf(小文字のころ)」の楽曲を口ずさみ、まるで、家かバックステージか、はたまたスタジオでの空き時間ごとく、気ままに音を紡ぐ。「ダンス」縛りの、されど力の抜けたメドレーは、懐かしさを呼び起こすよりも、どこを切り取っても彼の色に染めあげられていた。脱線すらも魅力で、それを楽しみにするオーディエンスがいる。”かえるのうた”までもが披露されたりと、底が知れない。

奇妙礼太郎 アンコールでは、近くのレコード屋で買ったばかりのアナログレコードを持ち込み、紹介しながらジャケットにツッコミを入れたりと、自由気ままにもほどがあるというもの。気持ちのよいメロディを持った、発表されれば定番ともなりそうな新曲を披露しながらも、「乗せてしまった詩の先に続く言葉がない」と音を止め、本気で悩んでいる様子まで見せるのだ。そして、最後の曲となった”10円の裏”となってようやく奇妙は立ちあがり、「びょうどういんほうおうどう」の部分でコールアンドレスポンスを求めていく。なぜか、「平等院鳳凰堂」はひらがなで記し、「コール・アンド・レスポンス」はカタカナかつ、ナカグロ(・)を入れずに綴りたくなる。なんとなくではあるが、カチッと正規の表現で書くよりは、彼の世界に近い気がする。

 弾き語りは、彼の日常の延長にあるものなのだろう。ライヴというスタンスで臨んでしまうと、その名が示すとおり、いかにも「奇妙な」ものとして映るのかもしれない。そこがまた面白いのだ。

奇妙礼太郎

–>テキストレポート:タカハシコウキ(from Peridots)
静寂を唄う「アーティスト」

Photos by Kana Tarumi

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Text:
Taiki "tiki" Nishino
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