踊ろうマチルダ @ 下北沢シェルター 2016.06.10

大人のための童謡
テキストレポート「大人のための童謡」- 踊ろうマチルダ in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 下北沢シェルター 2016.06.10

踊ろうマチルダ

 まだフロアが明るいうちからステージにあがった、「踊ろうマチルダ」ことツルベノブヒロは、淡々と3本のギター、足踏みオルガン、そして、今回のツアーで新たに加えられた楽器、ハーモニウムの調整をしていた。

 ライヴのはじまりは、「ローランズ・アウェイ」だった。シー・シャンティ(船乗りの労働歌で、掛け声代わりに口ずさむ楽曲)というジャンルのカバー曲だ。この曲は、ハーモニウムを手に入れたからこそ選ばれたと言ってもいい。そもそもではあるが、彼がライヴで演奏する曲たちは、どの楽器持ち込み、使うかによって決められている。

踊ろうマチルダ この日のステージ上には、ボタン・アコーディオンが無かった。このことは、「踊ろうマチルダ」の存在を一般レベルに知らしめた「箒川(ほうきがわ)を渡って」が演奏されない、ということを意味していた。この日、披露された曲は計12曲で、うち10曲は未発表曲。さらに、その中でも7曲が、ごく最近になって創られたものだ。
 
 馴染みのない曲が大半を占めるということは、オーディエンスの求めるライヴとの温度差が生まれかねない。結論を言えば、そうはならなかった。ツルベは、詩と曲そのものが持つ魅力に加え、曲調に合わせて「ささくれた声」と「柔らかな声」、これら2種類の声色を使い分ける表現の妙で、いともたやすくフロアを包み込んだ。

「季節は変わる」を挟んでからは、新曲の連続だった。そのうち、ワルツのリズム(3拍子)をベースとしたものが2曲。「おとぎ話」は、声のなだらかな揺らぎが、風の動きを映しだしているかのよう。いっぽう「風景画」は、まるでロール・プレイング・ゲーム(RPG)で流れていそうな楽曲だが、中盤の転調を迎えると、RPGの幻想的な雰囲気を置き去りにした展開を見せる。インスト曲の「音楽会」は、バロック音楽の要素を盛りこんでいたりと、どの楽曲も、今までのリリース作品には無かった空気をまとっている。これらの新曲だけを聴いて(よく比較される)トム・ウェイツを連想することは、まずないはずだ。

踊ろうマチルダ「季節は変わる」、「踊ろうマチルダ」、「ロンサムスイング」、これら、定番曲のさわりが演奏されると、「待ってました!」と言わんばかりに、フロアからはひときわ大きな歓声があがる。この日のライヴにおいて、疾走する曲は「ロンサムスイング」のみだった。今のツルベは、勢いで盛り上げるのではなく、じっくりと聴かせる方向へと舵を切っている。それでもやはり、「ロンサムスイング」ともなれば、マイクに噛み付かんばかりに叫び、このライヴにおけるひとつの沸点を迎えた。

 そんな余韻があるなか、ツルベの口から「最後の曲です」と発せられると、フロアからは「えぇ…」という声が漏れた。3マンのイベントとしては、決して少ない曲数ではない。にもかかわらず漏れた反応は、誰もが時間を忘れていた、ということの裏付けだった。先の言葉に続いて、演奏された曲(実際に最後の曲となったのは、エピローグとして足踏みオルガンで演奏された「オルゴールワールド」)は、「バケモノがゆく」という新曲。ボブ・マーリーの「リデンプション・ソング」にも似たメロディ・ラインを持つこの曲は、聴いた者の中に、大きな爪あとを残すこととなる。

 ライヴの間のツルベは終始「凄み」を放っていたが、現場ではそれが一体何なのかはわからずじまいだった。スタッフも、「最近のマチルダ、どう思う?」などと驚きまじりで訊いてくる始末で、返事をしようにも、「ねぇ…」と言うのがやっと。彼をうまく表現する言葉が出てこなかった。だけれども、その理由が、この「バケモノがゆく」を中心とした「新曲たち」にあるということはうっすらと感じていた。

踊ろうマチルダ「バケモノがゆく」は、テンポこそゆったりとしているが、「最近の」新曲のなかでは、唯一、しゃがれ声で唄われている。終盤へ進むにつれて荒々しさが増し、最後には「ロンサムスイング」と同レベルの咆哮を放つ。「バケモノがゆく」の、だんだんと熱を持たせていく展開は、かつてライヴの終盤に演奏されていた「異国の夢」を思わせるような、上へ、上へと登り詰めていく感覚があった。

「異国の夢」は、あくまで物語としての詩だったが、「バケモノがゆく」は、「バケモノ」という単語で物語の性質を残しつつ、「差別」といった直球な単語も混じった詩となっている。メロディ・メイカーとしての面もさることながら、誰の隣にも起こりうる事象を盛り込んでいるために、詩人としても強烈な印象を残してしまう。そして、はっきりと結論を示さず、比喩を用いてボカすことで、物事を考えるヒントを与えるのだ。

踊ろうマチルダ

 新曲が披露されている間、マチルダ以外の者は、物音を立てないように息をひそめていた。決して黙るように言われているわけでもなく、退屈もしていないが、なにか、侵してはならない「聖域」のような時間の中へと放り込まれていたように思う。

 タイトルとした「大人のための童謡」は、かつて、公式のプロフィール欄に書いてあった紹介文の一節。この言葉以上に、現在の彼を表すものはない。実のところ、8年ほど前に初めて彼を知ったときには、あまりピンとこなかった言葉だった。当時から独特な物語を描いてはいたが、旅にまつわる詩の中に、主格となる「ツルベノブヒロ」の歩みや故郷から抜け出した体験そのものが描かれていたように思えたからだ。

 いっぽうで、新曲たちはどうだろう。詩のあるものは、どれも一貫して「語り部」の視点が備わっている。おそらくこれは、日常の環境が変わる中で培われたもの。意識したことではないだろうし、本人に訊いたとしても、明確な答えは返ってこないだろう。山陰地方の島にひとりで居を構えていたときに聴いた波の音、目にした自然の移り変わり、これらが、マチルダの視点そのものを変化させ、昨今の「新曲」として身を結んだように思えるのだ。

踊ろうマチルダ

–>踊ろうマチルダ(フォトレポート)

–>特集:宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」


— set list —
Lowlands Away / インスト / 季節は変わる / おとぎ話 / おもちゃのおばけ / 風景画 / 夜はともだち / 音楽会 / 踊ろうマチルダ / ロンサムスイング / バケモノがゆく / オルゴールワールド

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Taiki "tiki" Nishino
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