ザ・ブルー・ハーブ (Tha Blue Herb) @ 下北沢シェルター 2016.06.11

圧倒的な説得力を持つ言葉の弾幕
テキストレポート「圧倒的な説得力を持つ言葉の弾幕」 – ザ・ブルー・ハーブ (Tha Blue Herb) in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 下北沢シェルター 2016.06.11

THA BLUE HARB

 イースタンユースが撒き散らした熱の破片が会場中に散乱するなか、ステージ上では次のアクトに向けたセッティングが淡々と進められていた。ギターアンプ、ベースアンプ、ドラムセットが撤去され、代わりにDJブースが登場。その前に、たった1本のマイクが置かれただけの状態で準備は完了した。宮川企画「マイセルフ ユアセルフ」の2番手、ザ・ブルー・ハーブ(THA BLUE HERB)のライブが始まる。

 DJダイ(DYE)の手元から音が流れだすと会場には青い照明が灯り、「ハロー、マイ・ネーム・イズ…」の勇ましいイントロと共に、「草冠に言葉と音のロゴ」のキャップをかぶったザ・ボス(tha BOSS)がステージ上に現れる。「東京下北沢シェルター久しぶりです!ヒップホップの名のもとにまずはご挨拶」の一言でライブが幕を開け、観客が一気に前線へと押し寄せた。

THA BLUE HARB「日本語でヒップホップ鳴らしております。お客の目を見て、身振り手振りで、命かければ、必ず一言くらいは伝わる。そう信じて始めさせていただきます」という言葉に続いて披露されたのは、昨年末にリリースされたザ・ボスのソロアルバム『イン・ザ・ネーム・オブ・ヒップホップ』に収録された「アイ・ペイ・バック」。左手に固くマイクを握り締めたザ・ボスが、ステージから身を乗り出し、観客に覆いかぶさるようにして、無数の言葉を浴びせかける。会場全体を見渡すというより、観客ひとりひとりを射抜くような鋭い視線が端々にまで向けられた。

 見る者の気持ちを最後まで途切れさすことなく高みへと連れて行くザ・ブルー・ハーブのライブが、圧倒的な練習量の上に成り立っていることには疑いの余地がない。ただし、彼らのステージは決して型通りに進められているわけではなく、会場の空気を吸って言葉として吐き出すようなライブ感に満ち溢れている。この日、会場は身動きがとれないほどの超満員で、入り口の階段からフロアに降りられない人もいるような状態だったが、それを見たザ・ボスは「アイ・ペイ・バック」の一節を「だから、階段降りてこっち来いって!」という歌詞に変え、オーディエンスを沸かせた。「煽っていくのがラッパーっしょ!」という歌詞を体現するような振る舞いで、観客をみるみるうちに引き込んでいく。

THA BLUE HARB

 曲間のMCでは、ザ・ボスがフリースタイル・バトルについて言及。「巷じゃフリースタイル・バトルが大流行りですが」と口を開くと、フロアからは複数の笑い声が起きた。しかし、彼が言葉を続けていくに従って、観客の意識は耳だけに集中し、会場は、この日一番の静けさに包まれた。

「それがワリーって言ってんじゃねえ。1997年の俺らだったら、チャンスがそこにしかないんだったら、俺だって参加してただろうとすら思う。ただ、今は2016年だ。俺はそこから19年後のヒップホップを生きてる。そんな俺に言わせりゃ『あのノリ』は、他人様の弱点や欠点を言い当てて、自分の優位を証明するっていう『あのノリ』は、俺のキャリアの中じゃイントロだ。俺も、俺が身を滅ぼすのが先か、東京の俺と同世代の、あのころ調子こいてたラッパーどもが身を滅ぼすのが先か、そういうノリで札幌から割り込んできた人間なんで、もちろん『あのノリ』ってやつはわかっているが、『あのノリ』は余興みてえなもんだ。『あのノリ』だけじゃここには来れなかった。こっちもあっちも同じヒップホップ。ただ、バトルだけがヒップホップと思ってるようなやつらはビギナーだ。10代には10代、20代には20代、30代、40代、50代、60代、それぞれの場所から見えるライフ・ストーリーを語っていくのがヒップホップなんだよ。だからといって、今更その流行は、俺がここで何かを言っても流れゆくだけだ。何度も言ってるように、あれが悪いって言ってんじゃねぇ。できるもんなら、できるとこまでやってほしいとすら思っている。俺は俺の道をいく。今夜もここにいる人間、誰よりも汗かいて、そこまでやれば、生身の人間2人でそこまでやれば、他人様のことをむしるような真似しねえでも、ヒップホップで食っていけるんだって証明するんだよ。竹原ピストル、イースタンユース、化け物みたいなやつらに挟まれても、1MC1DJでも正々堂々振る舞えるんだってことを証明するんだよ。薄くなる空気、押し寄せる熱気、お客の期待、前のライブの良かった記憶、レッテルや噂や作り話、最初に全部を受け止めて、その上をいく。何より、今夜ここに、俺らを招いてくれた人の心意気、がっつり受け止め、何倍にもして返す。これが、俺らが19年間勝ち続けてきた、俺らのバトルだ」

THA BLUE HARB フロアに沈殿した静寂を切り裂いて地響きのような歓声が巻き起こり、ライブは後半戦へと突入する。「スパ・ステューピッド」、「ブラザー」、「ザ・ウェイ・ホープ・ゴーズ」など、彼らのキャリアを語る上で欠かすことのできない名曲たちが立て続けに投下され、「未来は俺等の手の中」で会場の盛り上がりは最高潮に達した。激しさを増す言葉の弾幕に呼応するように、無数の拳が突き上げられる。アーティストとオーディエンスが共に熱狂し、シンクロすることでしか生まれ得ない光景が、そこにはあった。

 会場、企画、共演者、どれをとってもホームとはいえないような環境だったが、これまで数え切れないほどの異種格闘技戦を勝ち抜いてきた彼らは、この夜も唯一無二のヒップホップで見る者を圧倒。最後は、「前、後、男、女、年上、年下、ヒップホップ好き、ヒップホップ嫌い、ひとりひとり、ありがとうございました!」と挨拶し、いつも通り、ステージや関係者、そしてすべてのオーディエンスに礼を尽くして、後に控える竹原ピストルにマイクを引き渡した。

THA BLUE HARB

Text by Kohei Abe (Twitter)

–>ザ・ブルー・ハーブ(フォトレポート)

–>竹原ピストル(テキストレポート)

–>特集:宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」


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