マルツェリナ(Marcelina)「朝霧JAMを魅了したポーランドの歌姫」

初来日ツアーを敢行したマルツェリナに朝霧の印象や楽曲の裏話を直撃!
インタヴュー:「朝霧JAMを魅了したポーランドの歌姫」 2016.10.22

 霧に包まれた今年の朝霧JAM1日目に登場し、キュートでエネルギッシュなパフォーマンスで観客を魅了したポーランドのシンガーソングライター、マルツェリナ。既に3枚のアルバムをリリースし、ポーランドのみならずヨーロッパ各国でも評価が高まっているアーティストだ。今回の初来日ツアーでは朝霧JAMを皮切りに東京、宇都宮、神戸でライヴをこなし、少ししゃがれた感のある個性的な歌声で歌うロックなギターポップで多くの人を惹きつけていた。本インタビューでは、朝霧JAMや日本の印象はもちろん、高い評価を受けた3rdアルバム『Gonić Burzę』の製作裏話なども合わせてお届けします。

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朝霧JAMでのライヴはどうでしたか?

 最高だったわ。少しポーランドのウッドストック・フェスティバルを彷彿させるフェスだった。似たような雰囲気で、カラフルで、たくさん素敵なインスタレーションがあったり、オシャレしたユニークな人たちがいたりね。大人や学生だけでなく、子供連れの家族もいて親しみやすい雰囲気だし、犬もOKだったから最高よね。富士山を見られるかなって少し期待していたけど、見られなかった。でもあの霧が魔法のような雰囲気を生み出してくれたわ。来日して1日目だったから私たち皆、時差ボケのせいで寝不足だったんだけど、霧が魔法をかけてくれた。とにかく美しかったわ。観客の反応もとても良くて、気持ち良くプレイできたの。次の日、すべて夢だったんじゃないかって思ったくらい。

もう日本でいくつかライヴをやっていますが、日本の観客についてどんな印象を持ちましたか?

 言語の壁をまるで感じていないかのようにとてもオープンな観客ね。観客が分からないポーランド語で10曲も演奏しても、退屈しているようには見えなかった。伝わるか分からないけど、私が英語で話しかけてみたら、大きく反応してくれたのも嬉しかったわ。いつも観客もエネルギーを返してくれるから、バンドの間にもいいエネルギーが湧いているわ。観客が醸し出すオーラが私たちの演奏に影響してくるの。だから、ここでは日本や日本の人々や、環境などのいいエネルギーの影響があって、ライヴをやるごとにどんどん良くなってくるねって話していたのよ。どんどんエネルギッシュになっていくって。それに、ちょっと日本語のフレーズも覚えたのよ。

例えば?

「また会いましょう」、「ありがとう」、「こんにちは」、「元気?」とか。セットリストの横に日本語を書いた紙を置いて、ライヴ中に見ながら話すと、反応が返ってきて楽しいわ。

日本ツアーの日程はかなりぎっしりですね。もう何か観光しましたか?日本で絶対やっておきたいことはありますか?

 ホテルの近くにハチ公の像があるみたい。私もバンドも皆、大の犬好きで、ハチ公の映画にはすごく感動したから、必ず見に行って写真も撮りたいと思ってる。渋谷は少し歩いたわ。今朝も少し時間があったので、原宿と明治神宮に行ったの。結婚式をやっている新婚夫婦や、神官の人々を見ることができた。おみくじもやってみたら、すごく当たってたの!確かに着いてから忙しかったけど、これから2日間オフなので間違いなく買い物と観光に出かけるわ。

Gonić Burzę』のリリースからちょうど1年が経ちましたが、このアルバムはアーティストとしての成熟性を感じさせるものでした。これは、あなたの人生における何か出来事を反映しているのでしょうか?

 ええ、多くのことが起こったの。とても辛い時期だったけど、それはアーティストを生産的にさせるものでもあったわ。この辛い状況から来る強いストレスを抱えていたせいで、ボーカルに問題を生じてしまったのは事実だけど、歌詞や成長には効果があった。ロマンチシズムを抑え、少しアイロニーを取り入れるようになった。物事を鵜呑みにしないよう伝えること、それから悲壮感や個人的な問題に溺れないように努力した。けれど、私の感情は音楽に反映されなければならないから、表現せざるを得なかった。たぶんそれが上手くいったんでしょうね。いつもインタビューで「成熟しましたね。何があったんですか?」って聞かれるから(笑)。

 私のギタリストであるロベルト・チヒと一緒に製作した3枚目のアルバムであることも大きいと思う。彼はこれまで共同プロデューサーだったけれど、今回は総プロデューサーよ。これまでのアルバム3枚のプロデュースをしてきて、友人として、バンドとして、家族のようにとても親密になった。自分たちがどんな音楽を伝えたいかよく理解していたから、もう第三者は要らないなと分かったの。ロベルトは私の辛い状況も一緒に乗り越えてくれたから、アルバム製作において親密に仕事ができたこともすべて影響している。

音楽的にもよりロックに、よりハードになって、少しカントリーの影響も感じられますね。

 そうなの! ロベルトはカントリーを弾くのが上手で、私たち二人ともカントリーが好きなのよ。ロベルトはさまざまなギターのコレクションを持っていて、幅広いジャンルでギターを弾くことができるから、その技術を取り入れたいと思った。それからこのアルバムでは潔癖にならないことにしたのもある。家でレコーディングしたものが多くそのまま残っているわ。ロベルトが座っていた椅子がきしむ音とか、ホームレコーディングの音をそのまま残していて、それがいい味を出していると思うわ。

「Czarna wołga(黒いヴォルガ車)」は何を象徴しているのですか?これは60〜70年代の都市伝説だそうですが?

 昔、おばあちゃんに黒いヴォルガ車の怖い話をされたものよ。これは戦中、戦後に走っていたロシア製の車で、いろんなバージョンの伝承があったわ。悪魔が車を走らせていて子供を誘拐する、とか、危険な政府な車だ、とか、悪いシスターたちが乗っているなんていう話もあった(笑)。概して子供の誘拐の話で、御飯をちゃんと食べないと黒いヴォルガ車が来るぞ!って脅かされたの。そういう都市伝説が、私の身に起こった出来事を暗示している。何故ならストーカー被害に遭ってしまったから。親しい関係だった知人が急に違う一面を見せるようになり、とても身の危険を感じるようになってしまった。何度も引っ越して、電話番号も変えた。この状況下でアルバムをレコーディングしていて、インタビューなどにも行かなければいけなくて、本来ならアーティストとして重要な時期だからコンディションを整えないといけないのに、人生でおそらく最もひどい状態だったの。けれど、なんとか乗り越えることができて、それが歌詞に反映されているわ。この曲は、その背景を知らなければ、それほど悲しい曲に感じないだろうけど、私にとっては自分の身に起こった問題から自由にさせてくれた曲。10年後にはきっと笑い話にできるだろうって思うわ。

Marcelina

アルバムの中でお気に入りの曲は?

 いくつかあるわ。「Czarna wołga(黒いヴォルガ車)」はとても好きな曲よ。「Uwolnij Mnie(私を自由にして)」もとても悲しい歌なんだけど、すべてのことから自由になって前に進みたい、ということを表現しているわ。本を読んでいる時に出会ったとある美しい哲学と関係しているの。「すべては上手くいっている」「私は幸せだ」とアファーメーションすることが大事で、出口が見えないような状況にいると感じたら「○○から自由になります」と繰り返すべきだと書いてあった。それが記憶に残ったの。ある日私がスタジオで全然ダメな日があって、何か新しい曲を作ろうかということになった。ロベルトがギターを弾き始めて、この曲は5分で出来上がったわ。私は歌詞とメロディーをその場で作り、その日のうちに家でレコーディングして、それがそのままアルバムに収録されているのよ。雨続きの秋を歌った「Chandra(ゆううつ)」も好き。「Liliowa(ライラック)」もとても美しい曲で、時として病気や死は必ずしも悪いことではない、という意味で自由になることを表現しているわ。

もう次のアルバムについて考えていますか?どんな方向性を考えているのでしょうか?

 新曲を書き始めなきゃってずっと考えているんだけど、今は時間がないの。この秋は急に国外ツアーがたくさんできることになって、今日本にいるほかに、アルバニアにも行ったし、イタリアやスウェーデンにも行くから、12月までずっとツアーすることになっているわ。すべての物事はしかるべき時にしかるべきタイミングでやってくるって信じているから、その時が来たらアルバムを作るわ。日本で人々と知り合ったり、街を歩く人々がどんな風か観察したりすることや、ここでのライヴ体験も、次のアルバム製作に大きなインパクトを与えると思う。だから今はそこに集中しないで、とにかく吸収するわ。

10月初旬にポーランドでは中絶禁止法に抗議する女性による大規模なデモがあって、マルツェリナも参加していましたね。実際ポーランドではどんな状況なんでしょうか?多くのアーティストがデモに参加していたけど、音楽シーンにも影響を及ぼしているのですか?

 政治的な質問は普段避けているんだけど、今はこういう状況だから…。もしかしたら私が歳を重ねたことや、そういう問題が昔より関わりがあるものになっていることも関係あるかもしれないし、もしかしたら実際に政治が人生のさまざまな領域に入り込んでくるようになっているのかもしれない。ウッドストック・フェスでも大きな亀裂を感じたのよ。現政府は右派だけど、フェスのオーガナイザーは左派だから、障害が出てきてしまったの。開催は危機にさらされ、中止になるかもしれなかった。私たちアーティストには辛いことよ。とても素晴らしいフェスだし、反応が良くてカラフルで素敵な観衆の前でパフォーマンスできる機会だし、世界中からやってくるアーティストと知り合える場所でもある。それにこのフェスだけ危険だとかカテゴライズするのも良くないと思う。

 そして女性による抗議行動を引き起こした状況は宗教が関係してくる。ポーランドはカトリックの国だと認識されているし、もちろん殺人は禁止されているから。ここで問題なのは、その殺人の境はどこにあるかということ、つまり女性に堕胎をする権利があるかないか、ということ。もし全面的に否定するのであれば、女性か子供かが出産で命を落とす場合はどちらを選ぶのかという問題が出てくる。これってとても不安定な定義よね。すでに生きている人間と細胞とどちらの方が大事かということになってくるから。とても重いテーマだから、そのような状況にある人の判断に委ねるべきで、政府が介入するべきではない、と私は思う。だから自分の意見を表すことにしたのよ。そして、堕胎や殺人が簡単になるということには全く反対するということも付け加えた。現在は、特定の状況下でのみ堕胎を許可する法律があるのだから、それを変えるべきではないと思う。私が反政府派だとか、誰かを支持している、なんてことを話したいわけじゃないの。だけど、時に出産でどちらかが亡くなってしまう場合は、第三者が決めるには難しい問題だと思うわ。

貴重な意見をありがとうございます。最後に日本のリスナーに向けてメッセージをお願いします。

 日本のリスナーの皆さん全員を心から好意を送りたいわ。皆さんの国が大好きになった。とてもカラフルだし、日本人はとてもポジティヴで明るい人たちね。ここはとても居心地いい。そして是非にポーランドにも来てね。そんな機会があったら厚く歓迎するわ。ポーランドを気に入ってもらえるといいな。

ありがとうございました!

 


マルツェリナ(Marcelina)プロフィール

 1986年4月8日、Cieszyn(チェシン)生まれのシンガー・ソングライター。Katowice(カトヴィツェ)音楽アカデミーを卒業し、2007年よりWrocław(ヴロツワフ)を中心に活動を開始する。2011年にアルバム『Marcelina(マルツェリナ)』でデビューし、同年のフレデリック賞で最優秀新人賞にノミネートされる。活動の場をWarszawa(ワルシャワ)に移し、2013年に2ndアルバム『Wschody Zachody(日出/日没)』をリリース。アーシーなオルタナティヴPOPへと進化を遂げ、評価された。2015年にリリースした3rdアルバム『Gonić burzę(雷雨を追って)』では、ロック色の強いギターPOPで新境地を開拓。ポーランドのビッグフェスだけでなく、ロンドン、パリでもライヴを行うなど、国外でも人気が高まっている。

 キュートなふわふわVOICEで歌う、芯の通ったオルタナティヴPOPが魅力のMarcelina(マルツェリナ)。思わず「可愛い!」と言いたくなる恵まれたルックスを活かしてモデルをこなすことも。そのユニークな歌声から、ヒップホップやジャズなどさまざまなジャンルのアーティストからも引っ張りだこだ。

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Photos:
Shinya Arimoto
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Text:
Natalia Emi "Paula" Hirai
paula@smashingmag.net
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