原始神母~ピンク・フロイド・トリップス(Pink Floyd Trips) @ クラブチッタ川崎 2016.10.22

かっこいいピンク・フロイド
テキスト・レポート「かっこいいピンク・フロイド」 @ クラブチッタ川崎 2016.10.22

Pink Floyd Trips

 今年(2016年)、ピンク・フロイド周辺に起きたニュースといえば、「デヴィッド・ギルモア、ニック・メイソン、ロジャー・ウォーターズは、『女性ガザ自由船団』支援のために団結し、イスラエル国防軍による国際水域での女性たちへの不当な逮捕と勾留に遺憾の意を表します」という声明を10月6日公式フェイスブックに載せたことだ。一時期あれだけデヴィッド・ギルモアを非難していたロジャー・ウォーターズが、ライヴ8での一時的な再結成などを経て再び手を組むというのは感慨深い。どうにか一緒にツアーをして来日してくれると嬉しい。

 しかし。すでにお爺さんの年齢に達しているメンバーたちはちゃんとライヴができるのだろうか。もちろんサポート・ミュージシャンの力を借りることになるのだろうけど、若者をヴォーカリストに据えたクィーンや、イキのいいドラマーを3人メンバーにしたキング・クリムゾンのように新しい血を入れて再生(延命)したバンドのように加齢を感じさせないようにできるのか不安でもある。

Pink Floyd Trips もし、ロジャーとデヴィッドとニックが来日したとして、お爺さんなりのライヴを繰り広げたときに、この編成でのピンク・フロイドが観られることに感激しつつ、枯れた姿をみてこう思うだろう。「爺さんたち頑張ったな。でも、日本には原始神母がいるよ」と。

 原始神母はピンク・フロイドをトリビュートするバンドとして活動してすでに5年たつ。大体毎年夏から秋にかけて活動しているのだけど、今年は5月にプログレ・フェスティバルがあったので、いろんなところで観られる機会があった。

Pink Floyd Trips クラブチッタ川崎はフロアに椅子が設置されていた。年齢層を考えれば妥当である。その席がソールド・アウトになるくらいまで認知されたのだ。当然ながらおじさんが多い。平均年齢50歳は超えるだろう。

 17時10分ころ始まったステージには、下手からキーボードの三国義貴、コーラスでラブリー・レイナ、コーラスとパーカッションで成冨ミヲリ、ギターに木暮シャケ武彦、センターにヴォーカルのケネス・アンドリュー、その奥にはドラムスで柏原克己、ベースの扇田裕太郎は今年フジロックに「1人ピンク・フロイド」として出演した。そして上手にキーボードで大久保治信である。

Pink Floyd Trips まず始めに「天の支配(Astronomy Domine)」「太陽讃歌(Set the Controls for the Heart of the Sun)」「シンバライン(Cymbaline)」「神秘(A Saucerful of Secrets)」と初期の曲を立て続けに演奏する。人気の曲は中期に多いし、本家のピンク・フロイドもライヴ8では中期の曲しか演奏しなかった(「天の支配」は90年代のギルモア主導のフロイドでも演奏されているけど、他は70年代でしか演奏されていない)。原始神母は、シド・バレットの影響が色濃く残るころの曲をきちんと掘り起こす。迫力ある演奏で、この時期の曲がヘヴィで、サイケデリックで、歌はメロディアスであることを伝えてくれる。

Pink Floyd Trips 扇田の不穏なベースが鳴り響いて「吹けよ風、呼べよ嵐(One Of These Days)」。ヘヴィな演奏のなか、ケネスが「One of these days, I’m going to cut you into pieces」と叫ぶ。バイクの音から始まる「原子心母(Atom Heart Mother)」は、70%くらいの尺だけど、中間部分のケネス、ラブリー・レイナ、成冨ミヲリによる混成合唱は迫力あるし、1972年以降は本家も演奏していないので、生で体感できるのはうれしい。

「葉巻はいかが(Have A Cigar)」を経て「クレイジー・ダイアモンド(Shine On You Crazy Diamond)」へ。扇田もギターを持ちツインギターになる。さらにサックスで阿部剛がゲスト参加。バリトンとテナーの2本持ちだった。

Pink Floyd Trips 18時20分くらいになり、ここで一旦休憩。18時45分ころに再開する。再開後の第2部は、アルバム『狂気(The Dark Side of the Moon)』の全曲再現であり、今回の目玉だった。『狂気』は、それまでのピンク・フロイドが不安や疎外感を漠然と表現していたのに対し、人々がそうした感情を覚えるのは、現代に生きる我々が「お金」や「時間」に追われているからなのだ、とはっきり提示したアルバムだといわれている。その明快さが途方もない売り上げを記録し、今でも聴き継がれるものとなった。

 アルバムの曲順通り、心臓の鼓動音が聞こえてきて「スピーク・トゥ・ミー/生命の息吹き(Speak to Me/Breathe)」から始まる。エレクトロニカを先取りしたような「走り回って(On The Run)」、さまざまなベルの音がコラージュされたイントロから「タイム(Time)」と続く。録音された音とは違って生で演奏されたピンク・フロイドの曲は『狂気』の提示したことが現在でも変わらない問題であり続けることを感じさせた。

Pink Floyd Trips それと共にケネスよって歌われるメロディが美しく、覚えやすいという発見があった。ピンク・フロイドというと、コンセプトがどうとか、サウンドがどうとかの面が語られがちだけど、特に『狂気』は何よりも「歌がいい」ということなのだ。今回もハイライトといっていい「虚空のスキャット(The Great Gig In The Sky)」で、ラブリー・レイナと成冨ミヲリによる迫力あり美しいスキャットは「うぉうぉお、おーあいあい、はぁーあああーうーいぇい……」と頭に残るように、印象的なメロディを持つ。今回の完全再現でそうしたこともピンク・フロイドのなかから取り出せたのではないか。ゲスト参加した阿部剛のサックスがアルバムを再現することに重要な役割を果たしていた。バンドの並々ならぬ熱意である。

 レジスターの音と共に扇田のベースが跳ね、シャケのギターが唸りを上げる「マネー(Money)」、一転して浮遊感ある「アス・アンド・ゼム(Us and Them)」、続く「望みの色を(Any Colour You Like)」「狂人は心に(Brain Damage)」「狂気日食(Eclipse)」は組曲のように演奏され、ひとつひとつ重ねられていく音が頂点に到達する。

Pink Floyd Trips 『狂気』のパートが終わって、シャケの12弦ギターと扇田のアコースティック・ギターによって演奏される「あなたがここにいてほしい(Wish You Were Here)」、繊細な音からじわじわ盛り上がっていく「エコーズ(Echoes)」そしてメドレーで演奏された「コンフォタブリー・ナム(Comfortably Numb)」。「コンフォタブリー・ナム」はドクターパートを扇田、ピンクパートをケネスが歌うツイン・ヴォーカルである。そして、シャケの泣きに泣きまくるギターが堪能できるうえに、クラブチッタの天井にあるミラーボールがだんだん降りてきてすさまじい光を放つ。この音と光に満たされた空間にいることが非常に幸福だった。これで本編が終了する。

 アンコールは、まず「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール (Another Brick in the Wall)」かなりの人たちが席を立ち、ケネスの煽りに反応して「We don’t need no education~」や「Hey teacher leave them kids alone!」を合唱する人もいる。盛り上がったままラストは、このバンドではおなじみ「ナイルの歌(The Nile Song)」。本家ピンク・フロイドでもほとんど演奏しない、世界中にいるピンク・フロイドのトリビュート・バンドもおそらくやらないだろうという曲をハードでお祭り騒ぎな演奏にして終わる。

 演奏はどれもややハード・ロック寄りになっているけど、生で演奏するのだからこれくらい気合が入った方が聴きごたえある。今回思ったのは、照明も音響も十分満足できるもので、このバンドは空間的な広さも必要としているのではないか、そういうところで演奏した方がより映えるのではないかということだ。ピンク・フロイドをかっこよくみせることのできるバンドである。

Pink Floyd Trips

写真はバンド・オフィシャル・カメラマン、森島 興一氏より提供されたものです。

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Photos:
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Text:
Nobuyuki "Nob" Ikeda
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