朝霧ジャム – イッツ・ア・ビューティフル・デイ! @ 朝霧アリーナ 2016.10.08 – 09

アウトロ – 雨と霧の幕開け~赤富士で感動の幕引き
特集 – 「アウトロ – 雨と霧の幕開け~赤富士で感動の幕引き」 in 朝霧ジャム – イッツ・ア・ビューティフル・デイ! @ 朝霧アリーナ 2016.10.08 – 09

朝霧ジャム - It's A Beautiful Day!
 バスから降りて入場ゲートをくぐると、大小色とりどりのテントが目に飛び込んでくる。思わずその光景に「だだいま!」と挨拶。荷物を担いでテント設営場所を探すカップル、父ちゃんから指導を受けながら協力してテントを張る子供たち、すでに飲めや歌えのどんちゃん騒ぎを繰り広げている集団、テントを張りながらもワクワク感いっぱいの視線でステージを見やり出演者の出番を待ちわびる音楽ファン。集った人たちの笑顔が一面に広がっている。朝霧ジャムに来ると、いつだって最高のヴァイブスを感じるのだ。

 朝霧ジャムは、静岡県富士宮市の朝霧アリーナで2001年から来毎年10月初旬に開催されているフェスティヴァルだ。”Camp in”と銘打たれているとおり、参加者のほぼ100%が持参したテントを張ってキャンプし2日間を過ごす。キャンプをゆっくりと楽しめるようライヴのタイムテーブルにも気配りがなされている。中には、キャンプが楽し過ぎてライヴを一切観ないという人もいるというから驚きだ。

 朝霧アリーナが、フジロックの候補地だったという話をご存知の方も多いことだろう。山梨県の富士天神山スキー場で開催された第一回目のフジロック。直撃した台風の影響で初日が惨憺たる状況になり2日目がキャンセルとなった。天神山スキー場で開催ができなくなった時点で候補地として浮上したのが、朝霧アリーナだったそうだ。雄大な富士山を一望できるここで、もしフジロックが開催されていたら…とついつい夢想してしまう。

 さて、今年のライヴの話に移ろう。朝霧ジャムの”Jam”というキーワードに込められた、ジャンルレスに様々なミュージシャンが集い皆で音楽を楽しむというコンセプトは今年も健在だった。

朝霧ジャム - It's A Beautiful Day!
 辺り一面が濃霧に包まれた中、今年のレインボー・ステージのオープニングを飾ったのは、2013年以来の出演となる、ももと小春の姉妹ユニットのチャラン・ポ・ランタンだ。『Dr.スランプ』のキャラクターが画面から飛び出して来たのかというくらい奇抜でカラフルなコスチュームで、のっけから会場の熱をガンガン上げていく。1番のハイライトはやはりパフィーの「アジアの純真」だろう。小春のアコーディオンによってシャンソンやロマ音楽のスパイスがふんだんにまぶされた、新感覚で実に魅力的なカヴァーの投下に、聴衆はイチコロだったようだ。

朝霧ジャム - It's A Beautiful Day! 初日にムーンシャイン・ステージの2番手を務めたのはポーランドのシンガーソングライター、マルツェリナ。左右に二人のアコギ奏者をバックに従えたシンプルな編成だった(アコギ奏者の一人は、足元のバスドラをキックしペースメイカーの役割も果たしていた)こともあり、彼女の声が一層際立つステージとなった。昨年リリースされた最新作『Gonić Burzę』の短調でひねくれた質感の楽曲にそってアンニュイでささやくように、時に悪戯っぽく歌う。周囲の立ち込めた霧の醸す幽玄な雰囲気に拍車をかける。ニール・ヤングの「アー・ユー・レディ・フォー・ザ・カントリー?」のような軽快な曲ではハスキーに歌い上げる。曲のニュアンスに応じて実に巧みに発声を変化させてくるのだ。更に、絶妙なタイミングでピアニカやカズー、拡声器を駆使して曲にスパイスをつけオーディエンスを盛り上げ「また会いましょう!」と日本語でキュートに挨拶しステージを後にした(朝霧直後のインタヴューもぜひ読んでほしい)。

朝霧ジャム - It's A Beautiful Day! それにしても、初日は霧がすごかった。「ものすごいモイスチャーすね!喉にいい!」とのセロ高城の一言が的を射ている。本来都会的なセロ(cero)の音が、朝霧だとどこか土臭く聴こえてくるのだ。「オーファンズ」はいつも以上に”黒い”グルーヴが渦巻いていてとにかく心地よかった。

 とっぷりと陽も落ちて登場したトー(toe)。確かなミュージシャンシップに裏打ちされた極上の音の粒が雨のように降り注ぐ。時に優しく、時に激しく鼓膜と全身を震わせる。メンバーが次々と楽器を持ち替え、繰り出される音の洪水にただただ圧倒された。トーと同時間帯にムーンシャインではサム・シェパード率いるフローティング・ポインツが場をダンスフロアに変貌させていた。サムが奏でるキーボード/エレクトロビートにギター、ベース、ドラムの生音が絡み合うライヴセットで、暗めのジャジーな質感の曲もあれば、65デイズオブスタティックのようなポストロック調の曲もあり、一筋縄ではいかない。バラエティーに富んだサウンドの下に大河のように流れるグルーヴはひたすら心地よく、特にドラマーが流麗、かつ細かく刻むビートに身体を委ねずにはいられなかった。

 初日のレインボー・ステージの大トリを務めた、トッド・テリエ・アンド・ジ・オルセンズ(Todd Terje & The Olsens)。フローティング・ポインツを”陰”だとすると、こちらは完全に”陽”。アップビートでダンサブルなビートがこれでもかと出力され、聴衆は終始踊り狂っていた。YMOの「ファイヤー・クラッカー」のカヴァーが飛び出したのも嬉しいかぎり。ステージに向かって左側にいたギターにサックス、フルートと一人で何役もこなしていた彼はどうやらヤガ・ヤシストのラーシュ・ホーントヴェット(Lars Horntveth)だったようだ。彼の活躍が本セットのサウンドに華を添えていたのは間違いない。

朝霧ジャム - It's A Beautiful Day! 初日の、いや今年の朝霧ジャム最大のお宝が、白崎映美とAZUMIの流しコンビ、義理と人情だ。今年のフジロックではオレンジ・カフェに出演し会場を盛り上げた(レポートはこちら)。映美さんは2006年に上々颱風としてもフジロックに出演している。初日のカーニヴァル・スターのトリを務めると耳にし、同時間帯のトーやフローティング・ポインツを途中退席し向かった。会場に到着するや否や映美さんが「とうほぐは、寒くて暗い。暗い、暗い…クラーイ・ベイベー!」とジャニス・ジョプリンの「クライ・ベイビー」を情感フル満タンで歌い上げていた。生い立ちの自虐ネタや、北の最果ての知床羅臼でAZUMIと出会い、その場で「一緒に流しをやりませんか?」とナンパしたユニット誕生秘話を酒田弁で語りを入れ、オーディエンスの笑顔を誘う。オーディエンスの目を見て歌い、強制的に巻き込んでいく。その異次元の楽しさに一発でノックアウトされてしまった。カーニヴァル・スターでのステージはこの曲がラストで、残念に思っていたところに朗報が!映美さんから「10時にところ天国に再登場しまーす!来てねー!!」との一言が飛び出した。「行く、行く!行くに決まってるっしょ!!」と伝えて(AZUMIさんの持ち込みCDも買って)、カーニヴァル・スターを後にした。

 トッド・テリエのダンサブルなステージの後、ところ天国で飲みながらまだかまだかと待ちわびた。しかし、10時を回っても登場しない…。「もう登場しないのか…」と思いはじめたところで、マイクを片手に優雅な出で立ちの映美さんと、スピーカーが内蔵されたエレキをジャカジャカやりながらAZUMIさんが登場した。カーニヴァル・スターでは見れなかったテンションでツェッペリンの「ロックンロール」を「金がない!金をくれ!」とお金渇望替え歌に一変させてたたみかける映美さんもすごかったが、ところ天国のステージは完全にAZUMIさんに軍配があがる。いなたいフレーズにのせ、河内のオッサンの唄かというノリの関西弁でがなりたてる罵詈雑言。泥臭い人生賛歌をギター1本で、安っぽい音とともに吐き出す。これぞブルーズ。これぞソウルってやつだ。AZUMIさんが醸成したスモーキーに匂い立つ音と歌にひたすら酔わされた。

朝霧ジャム - It's A Beautiful Day! その後、深夜から朝にかけて吹き荒れた暴風と降り注いだ激しい雨。あらためて自然に対する畏怖を感じる。これも朝霧ジャムの醍醐味のひとつだ。2日目も魅力的なアーティストのオンパレードだった。毎年恒例のラジオ体操からの本門寺重須孝行太鼓保存会のビートで目を覚まし、ムーンシャイン・ステージの1発目を飾ったアメリカは南カリフォルニア育ちの日本人シンガーソングライター、マイケル・カネコのライヴからキックオフ。昨晩から朝にかけての暴風豪雨が嘘のように落ち着き、富士山も雄大な姿を見せてくれている。予想外のギターの巧さに度肝を抜かれてしまった。

 お次にレインボー・ステージに戻って観たのが、ウクレレの可能性を世界に知らしめたジェイク・シマブクロ(Jake Shimabukuro)。十八番(!?)の「よろしくお願いしまぶくろー!」との掛け声とともに、最高に愛らしい笑顔で何とも楽しそうにウクレレをかき鳴らす。太陽がきらめくジェイク地元のハワイ感満載の曲から現代クラシックかのような難解な曲まで、相棒のベーシストのノーラン・ヴァーナーとともに立て続けに繰り出す。クラシックロックファンだと公言するジェイクが奏でるクイーンの「ボヘミアン・ラプソディー」、ザ・ビートルズ「カム・トゥゲザー」に「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」の極上のカヴァーで、会場は心地よさの極致と化す。

朝霧ジャム - It's A Beautiful Day! 終演に向け、ヴァイブスの勢いが加速するムーンシャイン・ステージではオイスカルメイツ(Oi-Skall Mates)とイタカ・バンド(Utaka Band)の2連チャンが激アツなスカビートを繰り出し、盛り上げていた。ぬかるんだ地面なんてものともせずに、泥だらけになって楽しむクラウドが一番の主役だ。

 残念ながら、ぼちぼち会場を後にする時間だ。今年の朝霧ジャムの真打ち、ザ・スカタライツ(The Skatalites)のライヴを見やりながらテントをたたむ。ステージ前方は心踊るスカチューンに身体を揺らしていないものは一人としていない。昨年のレーヴェンのステージがフラッシュバックした。オーディエンスが今、この一瞬を心から楽しんでいる。朝霧ジャムが最高潮を迎えたタイミングで夕陽に映える壮観な富士山が姿を見せる。初めてお目にかかる赤富士だ。涙が出るほど美しい情景の中、ボブ・マーリーの「シマー・ダウン」や「ガンズ・オブ・ナヴァロン」といった極上のバックビートが宙に舞う。こんな出来過ぎなエンディングがあるだろうか。

 これでスマッシング・マグの今年の朝霧ジャム特集は幕を下ろす。姉妹サイトのfujirockers.orgにはフェスファン目線の総集編が公開されている。そして、スマッシング・マグFujirockersのフェイスブック・ページにはマグ/オルグの写真家たちによる選りすぐりの美しい写真が満載だ。現地に足を運んだみなさんも、今年は残念ながら行けなかったみなさんもぜひチェックしてほしい。では、来年また朝霧の地で!
朝霧ジャム - It's A Beautiful Day!

Photos:Masahiro Saito / Yoshitaka Kogawa / Shinya Arimoto / Masahiro Saito / Masahiro Saito / Ryota Mori / Dave Frazier / Shinya Arimoto ※上から順

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Text:
Takafumi Miura
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