吉野寿 (eastern youth) インタビュー「個を抑圧するもの。それに対して、あくまでも個で抵抗する。それがパンクなんじゃないの?」

Part 1:次、次、ってやっちゃわないと、逃げていっちゃう
インタビュー:「個を抑圧するもの。それに対して、あくまでも個で抵抗する。それがパンクなんじゃないの?」Part 1: 次、次、ってやっちゃわないと、逃げていっちゃう 2017.10.01

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 イースタンユース(eastern youth)の2年ぶりのリリースとなるアルバム、『SONGentoJIYU』(ソンゲントジユウ)が9月27日に発売された。2015年9月の村岡ゆか(B)加入後、イースタンユース主催の対バン・イベントシリーズ「極東最前線」に加え、各地のイベント、フェスへ出演し、継続的にライヴ活動を行ってきた彼ら。スマッシング・マグはこの現体制初となる、記念すべきオリジナル・アルバムのレコーディング現場を取材させてもらった。

 レコーディングは2017年6月12日から22日まで行われた。6月12日、13日は平和島にあるスタジオでドラムスやベース、リズムギターなど、曲の土台となるベーシック・トラックを録音した。6月14日からは、代々木八幡のスタジオに場所を移し、7日間かけて吉野寿(G/Vo)のギターとボーカル、そのほかの楽器やコーラスを録る、オーバー・ダビングの作業が行われた。以下、レコーディングを振り返りながら、吉野に『SONGentoJIYU』について話を聞いた。

 なお、レコーディング現場の様子をお伝えするために、記事に掲載しきれなかった写真を別のページにまとめて掲載した。あわせてご覧いただきたい。
https://eyrec2017.tumblr.com

 



 

――アルバム用の新曲の練習はいつ頃から始めましたか。

「ずいぶんやってましたよ。曲を作り出したのは、年明けぐらいですかね。1曲目がなかなか据わらなくて、ああでもないこうでもないって俺がいろいろやっちゃったから、本格的に作り出したのは3月くらい。4月はライブがビッシリ入ってたから、一切できなかった。5月にねじりハチマキでやりましたよ。もうちょっと時間があったら詰められたなって毎回思うんだけど」

 レコーディングは1曲目「ソンゲントジユウ」から、アルバムの曲順どおりに進んだ。吉野曰く、曲も1曲目から順に作ったのだという。ベーシック・トラックの録音は、吉野、村岡、田森篤哉(Dr)のメンバー3人で一斉に演奏し、その都度3人で聞き返し、OKか、やり直すのか、違う方法を試すのか、修正を入れるかの判断が繰り返される。「ソンゲントジユウ」のベーシック・トラックは、BPMの調整をしながら6回録り直し、吉野が「OK」の判断をするまでに、2時間かかった。

――午前10時からセッティングして、12時半頃始まったレコーディング1日目ですが、14時半に「ソンゲントジユウ」のベーシック・トラックにOKを出したとき、吉野さんに初めて笑顔が見られました。

「それは気がつきませんでしたけど、緊張していたのかな。やっぱり一曲目が大事だから。そこが締まって、感じが見えりゃ、次につながるだろうっていうのはありますね。俺の中のイメージでは、サンドイッチなんか食ったりして、ニコニコでやったはずだけど。(写真を見ながら)こんなに険しい顔、してたかな?」

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 2曲目の「明けない夜はないのだ」以後のベーシック・トラック録りは、各曲通しで2〜3回ずつ演奏し、細かいところを録り直しながら、スムーズに進む。1日目は5曲目の「同調回路」までを録り終えた。終了時間は20時。3人とも時折雑談を挟みつつ、黙々とブースを出入りして演奏し、録ったものを聴き、意見を交わしていく。

――どんどん進めていって、みなさんすごい集中力だと思いました。

「こんなざっくりざっくり録っていていいんだろうか? っていうか、もっとお金と時間と余裕があったら、もっと色々試したりとか、アンプを並べてみたりしたかもしれない。今ふりかえると、もっと適切な音っていうのはあった気がするけど。俺たちは録音しながら作っていくとか、ジャムで作っていくとか、そういうバンドじゃないから、録音に入る時点で結構固まっているんだよね。パーツができていて、それが組み上がっていく。でも、時間があっても、ダラダラはやらなかったと思う。せっかちだから。はい次、次、ってやっちゃわないと、逃げていっちゃうみたいなところがあるから。上手く休めない。気が張ってるうちにやるだけやって、ヘトヘトになったらやめるっていうふうにやらないと、ダレるから。みんな結構夜通しのんびりやって、『あ、湧いてきた』ってやるみたいだけど、できないんだよね、そういうの」

 2日目は、6曲目の「黄昏の駅前には何かある」から、ラストの「おれたち」までのベーシック・トラックの録音を終えた。前日同様BPMに丁寧に気を配り、吉野が田森に対してテンポが走ってしまう部分の指摘を入れ、何度も撮り直しをする場面もあった。かといって、ドンカマ(メトロノーム)を使って、テンポがキープされていればよいというものでもない。例えば「黄昏の駅前には何かある」はドンカマありで2回録ってみたあと、村岡がドンカマなしで録ってみたいと提案し、そのテイクが採用された。「ソンゲントジユウ」、「なんでもない」なども、ドンカマを使っていないテイクにOKが出ている。理屈では割り切れない、この3人ならではの呼吸やグルーヴ、感触が大切にされているのだ。吉野はレコーディング・エンジニアの前田洋祐氏の意見も柔軟に採り入れながら、録音を進めていった。終了したのは18時頃。この時点で「おれたち」の歌詞のみ、まだ完成していなかった。ベーシック・トラックを聴いた段階では、どんなメロディーが乗るのかわからないが、今までのイースタンユースにないテイストがふんだんに盛り込まれた、かなりの意欲作だと感じた。

 3日目以降は、スタジオを移し、ベーシック・トラックに吉野のギターとボーカル、村岡のコーラスなどを重ねていく。そのため、吉野と村岡、前田氏の3人による作業となる。吉野は「ソンゲントジユウ」のギターを録り終え、初めてボーカルの録音に入る直前、顔を洗い、歯を磨いた。マイクの前に立つと、手ぬぐいでハチマキを締める。「ソンゲントジユウ」は、歌い出しの音程がかなり高い。吉野は発声練習をして、気持ちを高めてから録り始める。切迫感のあるボーカル。胸に響くモノローグ。イースタンユースの新たな名曲に、魂が吹き込まれた瞬間だった。

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――レコーディングの時は、いつもハチマキして歌うんですか。

「頑張るぞって意思表示じゃなくて、頭を動かして歌うから、ヘッドホンがずれるんですよね。だからこれで固定して。顔を洗ったのは、気分を変えたかったの。全体的に今回キーが高いから。毎回低くても高くてもそうなんだけど、だいたいまともに歌えないんですよ。本当は風呂入りたかったの。3回くらい歌ったら声が潰れちゃうから、気持ちを変えて、一発で決めたい。今回もそうはいきませんでしたけれども」

――ご自身で歌いながら、何度もキーが高いとおっしゃっていました

「なんでこんなにキーを高く作っちゃったんだろう。曲から作ってるから、今更キーは変更できない状態なんですよ。ちょっとずつ確認しながらやってるんだけど、気がついたら高くなってたんですよね」

――ギター・ソロなどは、エフェクターを何種類も変えて試されていました。

「ニュアンスとしてしか言えないんですよ。例えば、スコッチ・ウィスキーの味の表現方法で、『濡れた段ボール』っていう表現があるんだけど、あと『漁船のロープ』とか。漁船のロープ、食ったことあるのか? 濡れた段ボール、かじったことあるの?って思うんですけど、なんとなくそういう風に供されているものを飲むと、ああ、わかる気がするわってなる。漁船のロープ、しょっぱい、ちょっと魚っぽい、なるほどなーっていう。味を言葉で表現するには、そう言うしかない、でも飲んだ時の『ああ、うまいなあ』っていうのは、なんともいえないフィーリングじゃないですか」

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――私は写真に写っている機材のことはわからないのですが、わかりやすく教えていただけますか。

「すごい機材並べてるように見えるけど、実は大した機材はないんですよ。一切ない。高校生バンドの足元って感じ。しかも、壊れてたりして。POGってのは高いけど、あとは安い。いいもん使ってねーなーって感じ。ただね、BOSSの底力を改めて感じた。よくできてる。まず、癖がないから誰にでも使える。そのくせ、結構極端な音も出る。癖のあるエフェクターってさ、癖のある人間みたいなもので、ある目的に特化した分野では超絶な威力を発揮するんだけど、それ以外は一切使えない。BOSSはそこをかなりの度合いでカバーしてくれる。ファズもいろんなファズを持っていったんだけど、BOSSで録ったのがよかった。モデリングっていうのが入ってるんだけど、すげえいいの。あと、BOSSのいいところは、丈夫なの。一回ポチッとした形のディストーションを使ったことがあって、ジャンプして踏んだら、ベコって引っ込んだことある。戻らないの。ジャー!っていいっ放し。ダメだこれ、ってぶん投げたことある。BOSSは信頼してるんですよ」

「見る人が見たら、ガッカリな足元です。お前なんだよ、全部BOSSだな? って感じ。このリバーブ(FRV-1)、すごく出来がいいんですよ。すごく昔のフェンダーのリバーブ・ユニットをモデリングしてるんだけど。これ、多用しましたね。あとVOXのチューブが入ってるディストーションを多用しました。ライブで使ってるやつは、実はあんまり使っていないです。VOXのオーバー・ドライブはすごいよくて。あと、変わったやつはほとんど使わなかったな。エクストリームなんですね、効果が。おもしろいんだけど、バランスが良くない」

「このギターも使い込んでカッコいい体で写ってるけど、鳴りませんでしたからね」

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「クリーンなトーンで、ペラペラっとしたのを録ろうと思って、ここムスタング、出番じゃない? って出したら、鳴りませんでした。だんだん壊れてきて、ついに鳴らなくなった。持って帰って掃除したら、鳴るようになったけど、使える状態ではない。本格的に電気系統を全部変えないと。記念品ですよね、思い出の品です」

――カッコいいです。いつから使っていますか。

「札幌にいる頃から。17、8のときですね。兄貴がもういらんって言って、くれたんです。N.C.S Recordsっていうのは、レスザンTVの前身です。コインロッカー・ベイビーズっていうのはピロウズ(the PILLOWS)の前身です。ピロウズの山中(さわお)君が、シルクスクリーンの印刷会社で働いてて、バンドのステッカーとか合間見て作ってくれたんです。アンプの上に貼ってあるスキャナーズ(イースタンユースの前身バンド)のステッカーも、山中君が時間のあるときに10枚とか刷ってもらって、ということをしてました。このころの山中君はね、爪の中にびっしりインクが詰まっててね、労働者の手だなーと思って、カッコいいと思ってたよ」

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–>Part 2:「3人集まって、なにができるかやってみようよっていうのが、一番大事なこと」
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