吉野寿 (eastern youth) インタビュー「個を抑圧するもの。それに対して、あくまでも個で抵抗する。それがパンクなんじゃないの?」

Part 2:3人集まって、なにができるかやってみようよっていうのが、一番大事なこと
インタビュー:「個を抑圧するもの。それに対して、あくまでも個で抵抗する。それがパンクなんじゃないの?」Part 2:3人集まって、なにができるかやってみようよっていうのが、一番大事なこと 2017.10.01

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 オーバー・ダビングの作業中は、時間があるときにカメラを持ってスタジオを訪問させてもらった。オーバー・ダビングも、ベーシック・トラックの録音同様、アルバムの曲順どおりに取り組んでいく。吉野は淡々としつつ、感覚を全開にして、自分の中にあるイメージを音源に落とし込む。明確な正解が存在しないクリエイティブな作業は、試行錯誤の連続に見えた。それでも録った音、歌に対する吉野のジャッジはスピーディーだった。ここは長年の経験と、センスによるものなのだろう。側に控えている村岡も、必要に応じてコーラスやオルガンで、楽曲に彩りと広がりを与えていく。村岡は幼少の頃からピアノを習熟している。吉野のオーダーを素早く飲み込み、的確に表現できる天性の勘は、しっかりとした音楽的な基礎に裏打ちされている。

 作業が進むごとに、アルバムの全貌が明らかになっていく。ソウルっぽいイントロで始まる「明けない夜はないのだ」。軽快に切なる願いを歌う「ちっぽけだって、なんだっていいから、俺に歌をくれ」。優しさをたたえたメロディーに、村岡のコーラスが深みを与える「なんでもない」。吉野の真骨頂とも言える、激情ボーカルが突き刺さる「同調回路」。メジャーとマイナーが交差する「黄昏の駅前には何かある」、疾走感溢れる「口笛吹いて駆け抜けろ」。ポスト・ハードコア的テンションと、まさかの合唱が入り混じる「旅の空」。刻々と曲調が展開するクライマックス、「おとぎの国」。そして、ラストを盛大に飾る「おれたち」。

 唯一完成していなかった「おれたち」の歌詞は、レコーディング8日目、吉野が歌入れに挑む、当日の朝に仕上がった。翌日のレコーディング最終日は、立ち会うことができなかったが、この時点で、吉野はアルバムのタイトルについて、「自分の中ではいいんだけど、世に出すときに憚られるギリギリの線」、ジャケットは「自分で作ろうと思っている」と語っていた。

 



 

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――レコーディングでは、村岡さんの仕上がりが眼を見張るものがありました。

「めちゃくちゃに練習したと思う。練習してます、弾いていますと常に言ってたけど、おそらく俺たちが想像できないくらい、めちゃくちゃに頑張ったんだと思う」

――オルガンやコーラスで、活躍もされました。吉野さんは、村岡さんの存在を活かしきってやろうという意識はありましたか。

「ありました、ありました。せっかくだから全部使ってやろう、江戸幕府じゃないけど、『村岡と雑巾は、絞れば絞るほど出る』みたいな。そう言う気持ちはあった」

――村岡さんは要求されている以上のパフォーマンスを出せる人だったのでは。

「持ってるんですね。ミュージシャンとして才能がとてもあるんだと思う。俺と田森はポンコツジジイなんだけど、あの人はミュージシャンとしての底が深い。だから打てば響く。元々のスタイルは全然違うんだけど、できるんですよ。しかも、なんでもできる器用さっていうよりは、個性を消さないで幅も出せる。それが嬉しかったですね。べつに今までのイメージなんか、どうでもいいんです。『今までこういうことをやってきたイースタンユース』っていうイメージは俺はどうでもよくて、今、じいさん、じいさん、村岡の3人で集まってどういうことになるかってことにしか興味がないから、そこで可能な限りの濃いエキスを抽出したい、ということに見事に応えてくれた。掘っても掘っても、まだ出てくる」

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――加入した時点で、村岡さんのポテンシャルはわかっていたんですか。

「どこまで掘れるかっていうのはわかんないけど、持ってるってことはわかってました。村岡さん一択だったし。彼女がメチャクチャ上手いってことはわかってたし、曲を全部知ってるってこともわかってたし、知性っていうんですかね、そこで繋がれるってことはわかってた。『俺はロックをやりたいんだよ!』っていう自己主張だけじゃなくて、知性があって、奥深いんですよ。世界がちゃんとある。なおかつフリーハンドの広がりみたいなものもしっかり持ってるので、不安はなかった。ただ、田森はあんなドカドカしたドラムだし、俺はやかましいギターだし、彼女が普段やってるのは静かな音楽で、力の具合のバランスが、もしかしたら耐えられなくなるかもしれないぞ、耐えられなくなったらやめようと思ったの。それ以上の無理強いはしないでおこうって。けど、どうしてどうして、全然ぶっとかった。腕力も俺よりあるんじゃないかなと。だから、全然杞憂だったですよ」

――2年間活動を拝見していましたが、村岡さんは覚悟が決まっていて、姿勢がとにかく一生懸命でした。そこを見込んだ吉野さんもすごいし、喰らいついて言った村岡さんもすごい。

「只者じゃねえってことは、それまでの活動でわかってたんですよ。ちょっと地獄のプレイヤーっていうか、地獄の表現者だなっていうのはわかってた。自分らと合うかどうかっていうのは、わかりませんでしたけど、少なくとも俺たちのことは買ってくれてたし、曲も知ってくれてるし。本人がオッケーっていうなら、多分いけると思ってた。彼女がいなかったら、やってないんじゃない? のんびりベーシストを探しても、うまくいってないと思う。こういうアルバムは少なくとも作れないと思うし。少なくとも今までの文脈、流れの中では継続できなかったと思う。彼女はそれを継続しつつも、また、刷新していくというミュージシャンとしての力がある。助けられてるっていうよりも、主軸ですよ。それに俺と田森とでぶら下がっていこうかなーっていう感じ。

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――田森さんは、村岡さんのことをどうおっしゃっていましたか。

「一番最初の練習の時から、『いいんじゃない?』って言ってたよ。練習の後、村岡さんが帰って、『どうだよ?』って聞いてみたら、『いいんじゃないの、違和感ないし、話、合うし』って。だから、『いけるな』と思ったの。今までの曲をやることについて、いろいろ課題があるなと最初の練習の時は感じたよ。あ、細いなとか。んー、いろいろ、まだ遠慮してるなとかさ。でもそれもやってるうちに収まるだろと思ってたし、実際収まりましたよ。前のとおりじゃなくてもいいんだもん。って村岡さんにも言ったし。前のとおりに弾かなくてもいいよ、ただ、全体の流れが保たれれば。『こんなのイースタンユースじゃない』って言う奴がいたとしたら、もういいよ。どうぞ、行ってくれって感じ。そんなことかまってられないから。生き物だから。あの時のお前じゃない、って言われても、そりゃそうだよ、今の俺だもん。やっぱり表現したいのは『人間』だからさ。なんだかわからない3人集まって、できることを寄せ合って、なにができるかやってみようよっていうのが、一番大事なことだと思ってるし、そうじゃなかったら意味がない」

――アルバムには、村岡さんじゃないと弾けないだろうなというベースのフレーズがたくさん散りばめられています。吉野さんが考えて、こう弾いてと注文したんですか。

「『ソンゲントジユウ』のチョッパーのとこだけ、『村岡さん、チョッパーみたいのできねえの?』って言ったら、『わかりました。チョッパーできるようになります』って。なんせ黒っぽい感じにして、って再三言いましたね。彼女が普段ソロでプレイしている音楽には、黒い要素一個もないんですけどね。『カーティス・メイフィールドとか聴いて』って言ったら、頑張って聴いたみたいですよ。その他は、一切口出ししてない。ジャーン、ジャーンってギターのコードを弾いて、『こうやって入ってくる感じ』って言ってさ、あとは全部彼女が自分で考えてきた」

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――そうだったんですね。「ソンゲントジユウ」のイントロから、村岡さん色全開だと思って、ワクワクしました。「ソンゲントジユウ」は、プロモーション・ビデオ(PV)も拝見しました。素晴らしいですね。

「俺、今まで自分のPVでそんな気持ちになったことないんだけど、ちょっと涙出た。最後の、下司尚実さんのダンスシーン。ああ、なんという、うわあーって。」

――圧倒されました。人選は川口潤監督がされたんですか?

「荻窪ベルベットサンの、ノイズ中村さんの人脈です。あの人は面倒見のいい人だから、いろいろと協力してくれました。全面的に中村さんが女優さんのことは全部お膳立てしてくれたんだと思う。最初2候補あって、ちょっとアイドルっぽい女の子と、下司さんと。どう考えても下司さんでしょ、と思ってたんだけど、やっぱり下司さんに決まった。最初なかなかアイデアが出なくて、俺が写メで撮り溜めて、適当にやるって言ったりもしたんだけど、俺が撮ってたらあんなにいいものは撮れるはずないし、やっぱりプロにまかせるものだなって思い知りました。これからはゆめゆめ自分で撮るなんて言いませんよ」

――下司さんが出演している部分は、川口監督に全部おまかせだったんですか。

「そうです。演奏シーンは真っ暗なところでグッと固まって撮るっていうアイデアだけ俺が出して、そのあとのプロットは全部彼が考えて。ダンスいいね、是非是非って言いました。ダンスはもう少しシュルシュルっとしたものかと思ってたら、あんなにごっついものだとは。大変感動したんです。恐れ多かったですね。荻窪〜阿佐ヶ谷間の高架下と、阿佐ヶ谷のスターロードっていう繁華街で撮ったようなんですけど、あの阿佐ヶ谷の通りであれだけ全開で踊れるのはすごいなって。ほんとすごい。素晴らしい。最後の傘をボーンとぶん投げて歩く後ろ姿も素晴らしかった。一流だなーって」

――何回でも見返したいPVになりました。

「俺も何回も見ました。下司さんは俳優で、演出家で、振付師でもあるそうでして、踊りも自らの創作だそうです。だからああ言う風に解釈してくれたんだって思うと、二重にも三重にも嬉しいわけですよ。躍動感が美しいです。そして、色っぽいなと思った。鳥肌立ちましたね。あーすごい、きれいだなって思いました。こんな気持ちになったことないです」

 

–>Part 3:「『生まれてすみません』なんて言わねえからな」
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