アルバート・アイラー (Albert Ayler) - 『マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー (My Name Is Albert Ayler)』

ひさびさの再発が嬉しくて一度アップしたものを加筆修正して再アップ
CDレヴュー 『マイ・ネーム・イズ・アルバート・アイラー (My Name Is Albert Ayler)』 2010.02.24

 世の中に名曲「サマータイム」をカヴァーした人は数知れない。ロックの世界の有名どころとして、おそらく、誰もが名前を挙げるのがジャニス・ジョプリン。名盤『Cheap Thrills』に入っているこれは、確かにとんでもなく素晴らしい。いやぁ、確かに、これは泣ける。

 でもって、ジャズの世界に入っていけば、もう、きりがない。なにせかのジョージ・ガーシュウィンが生み出した名曲で、スタンダードなのだ。ひょっとして森進一が歌ったヴァージョンを知っている人もいるだろう、ありとあらゆるヴァージョンが存在する。レゲエの世界でも数ヴァージョンあるし、自分自身、97年頃にサンドラ・クロスと一緒に作ったジャズ・レゲエのアルバム『Just A Dream』に、実は、2ヴァージョンも収録している。多くの人が気づかないままでいるんだが、本編で収録されているもの(これは、バラードっぽい演奏)の他に、最後の曲が終わって10分の空白の後、ちょとスカっぽいヴァージョンが飛び出してくる。これこそ、シークレット・トラック。なにも表示していないので、このヴァージョンが出てくる前にプレイヤーからアルバムを出してしまうようだ。

 それはさておき、それほどまでにカヴァーされたスタンダード中のスタンダードがこの曲なんだが、これまでの人生でこれほどまでに感動した究極のヴァージョンはないと断言してしまうのが、このサックス奏者、アルバート・アイラーによるサマータイム」だ。フリー・ジャズの巨人で、当然、インストゥルメンタル。歌ものではないんだけど、彼のサックスがまるでうめき声を上げるように語りかけて来るというとんでもない代物なのだ。陳腐なサックス教則宣伝のキャッチ・コピーで「サックスで女を泣かせる」という、殴ってやりたいようなフレーズを昔よく目にしたんだが、アイラーのサックスは文字通り、血まみれになって泣いているようにも響く。それは、最終ラウンドの『あしたのジョー』のようなもの。ぼろぼろになった身体を、さらにずたずたにされながら叫びを上げているように聞こえるのだ。

 ところが、このアルバム・タイトルそのままに、自らの声でそれまでの人生を語るイントロダクションが興味深い。その声といったら… ものすごく甘く、子供のようでもある。このギャップっていったいなんだろう… このアルバムを聞くに付けて、そう思う。その甘い声のイントロに重なるようにフェイドインしてくるのが「バイバイ・ブラックバード」。アイラーの身を削るようなサックスにとんでもない世界の入り口に入ったことを知らされるのだ。

 ちなみに、いつだったか、音楽業界の友人を自宅に呼んで鍋をやった時、「え、聞いたことがないの?」と、いつも通りの即席DJで、いろんなものを聞かせながら、これもターンテーブルに載せたら、これで涙を流してしまった人がいた。当然だ。これほど聞くものを圧倒する演奏が生まれることはないだろう…. と、言い切っても、間違いはない。これは究極の「サマータイム」なのだ。

 録音されたのは63年。この時、バックで演奏していたベーシスト、2005年に他界しているニールス・ヘニング・オーステッド・ペデルセンは16歳前後。とんでもねぇ! そして、アイラーは27歳前後。この7年後に彼の死体がハドソン川に浮かぶことになるのだが、それまでに完全に燃え尽きてしまったのが彼のジャズ。ソウル・フラワー・ユニオンの中川君がライヴの始まりに流す名曲、『ゴースト』はこのしばらく後に録音されているのだが、これから彼がとんでもなくフリーなジャズの世界に入っていくことを、必然として感じられることができる。ストレートアヘッドなジャズからフリーへのブリッジとして、その瞬間をドキュメントしたようなこのアルバムは死ぬまで手放すことはできないだろう。

 いわゆるフリー・ジャズだとか、ジャズの伝説は数多い。コルトレーンやエリック・ドルフィー、マイルス・デイヴィス… が、アイラーを越えるアーティストにまだであったことはない。

 それにしても、こういった名作がなんで入手不可能になっているのか…せめて、このアルバムや『Ghost』ぐらいは簡単に手に入らないものかねぇ。

 と書いたのが6年前。そして、一連の作品が続々と再発され始めたのが実に嬉しいのだ。さらに加えて、インパルスから発表されていた作品の数々も廉価盤で再発されている。傑作は、必ず甦るというのを証明してくれたような気分。できれば、データじゃなくて、少なくともCD、しかも、ステレオのスピーカーから奔流のようにあふれ出す「音楽」を聴いてもらいたいと思う。

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Koichi "hanasan" Hanafusa
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