Northern Bright @ Shinsaibashi Quattro (26th Nov '03)
Northern Brightが描き続ける物語
メロディーで風景を描き、言葉でその世界に住む2人の気持ちを伝える。2人しかいない世界に2人だけの言葉。激しく燃え上がるほど思い焦がれ、時に涙を流す…またある時は、2人は終幕へと向かう_Northern Brightの作り出す世界は、まるで短編小説のようだ。2年前のフジロック以来、久しぶりに見た彼らは、パワーアップというよりも白紙のページを埋め続け、より濃く儚い場所へ向かって歩き続けている。今日私は、フジロック以来となる「ライブ」という小説を読むためにクアトロへ来た。
さらりと時間は流れていくのに、心の真ん中で熱いものが生まれ次々と弾ける。1曲という「一章」を聴き終えた時に、何とも言えない憂いが溢れ出してくる。身体中に浸透するまでには時間がかかるのに、広がった橙の暖かく切ないものは熱を帯びたまま消えてはくれない。優しさ・痛さ・激しさなどの恋した2人の気持ち全てを、直接的な表現でなく風景で表してくれる。聞いているだけで、自分の思い出と重なり瞼が熱い…。決して力強くなく、押しつけがましくもない歌声は、彼らの放つメロディーに最高の武器だ。
"Adventure"や"Wild flower"などのシングル曲、あの岡村靖幸がリミックスをし、出演していたクラブイベントでもかけていたという"HAPPINESS"など、これでもかと言わんばかりの彼らの世界が押し出されてくる。終盤に差し掛かった頃、「Shooting >From The Shining Star」に収録されているVelvet undergroundの"PALE BLUE EYES"が。Lou Reedの放つ声や雰囲気とは違うけれど、彼ら色に染められていた。
ページが進むにつれ、他のことは何も考えられないほど夢中になる。時折見せる笑顔や苦しそうな顔に胸が締め付けられ、会場もそれに応えるかのように笑顔を見せたり、切ない表情を浮かべる。ライブという生の空間だからこそ共有できる大切な時間だと、その場にいた人達は思ったに違いない。
歓声と拍手に迎えられて始まったアンコール。通常ならメンバー全員が出てくるステージ上には、ボーカル新井の姿しか見えない。「僕一人でやります」と言ったかと思うと、デビュー曲"Icecream Summer"の弾き語りバージョンが始まった。アコースティックギターを握った新井を茶系の照明が射す。まるで黄昏の草原で歌っているかのように幻想的だった。夏の終わり、一人海辺で聞きたくなるようなこの曲が、切なさを増幅させている。優しく柔らかい声で発せられる言葉の一つ一つが、水面に落ちた滴のように胸の中で静かに広がっていく。淋しくて苦しくて…胸が痛み出して、思わず涙がこぼれそうになった。「暑さの中でふたり溶けてしまいそうなSummer Day」と少し力んだ声で歌う新井に、会場にいる誰もが釘付けになっていた。
客電が付き、ふと我に返った。その時、ようやく「ライブ」という短編小説を読み終えたのだと実感した。2時間近くも要し、様々な感情を胸の中に沸き出させたNorthern Bright。次はどんな物語を見せてくれるのだろうか…今から楽しみでならない。
report by shoko |
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