Avril Lavigne @ Nihon Budokan (15th Mar '05)
春がきた
アヴリルのライヴへの期待をさらに高めたのは、ツアー中盤、東京に戻ってきた彼女が生出演した昼のラジオ番組で聞いた歌声だった。インタビューに答える時は蚊の鳴くような声で、かなりボリュームを上げないと彼女の声が聞こえないくらいだった。シャイなのはちょっぴり大人になっても変わりないようだ。番組内で"Nobody's Home"をアコースティックでパフォーマンス。それまでの消えてしまいそうな声とは打って変わって、澄んだ歌声が気持ち良く伸びていた。世界をまわり続けたツアーの賜物なのか、以前よりもずいぶん歌が上手くなっていて正直驚いた。思えば、去年夏フェスに出演した時のアヴリルは、誰が見ても不調だった。無表情というより、何か苦しく見えた。そして、みんなが不完全燃焼のままステージが終わってしまった。だから、そのラジオの歌声は衝撃的で、期待を高めるのには十分だった。これは、ずいぶんと変化した彼女を見ることができるかもしれない。そんな期待を胸に向かった、東京の公演3回目の武道館公演。アーティストとしても女性としても成長したアヴリル・ラヴィーンが、武道館に春の活気と清々しい風を運んできた。
オープニングは、アヴリルのアルバムにも参加しているブッチ・ウォーカー。120%ハイ・テンションで爆走するブッチは、黄色い歓声を浴びながらこの日のメインアクトさながら武道館中を支配していた。そして、誰よりも楽しんで歌っていた。さすがプロデューサーとしてのお仕事の評価が高いブッチは、自身の曲もご機嫌なロック・ナンバー盛りだくさんの秀逸揃い。オープニング・アクトを終えた彼がまた登場して会場を沸かせることになるとは、この時初めてアヴリルのライヴを見に来た人は予想もしなかっただろう。余談だけど、終演後の即売場では、ブッチのCDが飛ぶように売れていたらしい。フム、あのライヴを見たら欲しくなるかも。
客電が落とされた会場を見回すと、色んな色のペンライトの明かりが揺れていて絶景だった。全員が拡声器を持ってるんじゃないかと思うほどの大歓声に迎えられて颯爽とアヴリルがステージに登場。赤い角をつけて小悪魔に扮したアヴリル。辞書で可愛いって引くと、きっとアヴリルって書いてある。その言葉を惜しみなく彼女に捧げたくなる。そんな彼女に見とれている間に、ご機嫌なギター・リフで始まる"He Wasn't"がスタート。アヴリルの歌声がマイクを通して場内の空気に触れたとたん、さらに歓声が大きくなった。"Happy Ending"、"Take Me Away"、"Freakout"と、ニュー・アルバムからの曲を立て続けに披露。アヴリルの歌声は、以前とは比べ物にならないほど太く、力強くなっていた。あの小さな体のどこにそんなパワーがあるのか。一気に観客を引き付け、乗らせ、グイグイと引っ張っていく。小さな巨人。
多少掠れた気味の声は気になったけれど、歌声は安定していて、サラッと歌いこなす。より一層アラニス・、モリセットに似てきたように思う。気持ち良さそうに歌っているアヴリルは清々しかった。ステージを自由に動き回り、クルクル回りながら歌う。ブロンドにしたストレート・ヘアは、照明を浴びてキラキラ光ってシルクのように滑らかに揺れていて、とっても気持ち良さそう。ステージを左右に移動しながら、観客が振る手にアヴリルも小さく手を振って応える。いつも仏頂面のアヴリルが、はにかみながら笑顔を見せていた。これまたカワイイ。" I Always Get What I Want"を体全体を使いリズムに乗って歌ってる姿は、見ている方にも楽しさと躍動感を与えてくれる。まるで彼女は、無邪気に野原を飛び回る子犬みたい。そんな元気な少女の姿とは別に、美しく落ち着いた雰囲気を醸し出す女性の部分も持ち合わせている。目を瞑りながらじっくり丁寧に歌い、右手をヒラヒラと揺らし、まるで空気の感触をじっくり楽しんでいるように柔らかく手をうねらす。その優雅な動きがとっても印象的でハッとさせられたりする。綺麗になったなアヴリル、としみじみ思った瞬間だった。
今回は、ギター以外にアヴリルが演奏する楽器が二つある。その一つがピアノ。"Together"と"Forgotten"の弾き語りだ。ドン・ギルモアのお仕事によるこの2曲は、今までのアヴリルにはなかったヘヴィでもあり、メロディの高低が激しくかなりの声力が必要な曲だ。こういった曲は彼女の歌唱力の上達ぶりが顕著。体の深いところから力を振り絞り、自分の胸のうち、感情を吐き出す声。鋭く真っ直ぐ伸びる歌声に圧倒される。それまで飛び跳ねていた観客は動きを止め、アヴリルのエモーショナルな世界に引き込まれた。というよりは、見とれる、聞き惚れるというのが合ってるか。照明があたって淡いピンクに染まったブロンド・ヘア、彫刻のように整った顔にうっすらと寂しさを浮かべた横顔。一つ一つの言葉をしっかりと伝えてくる突き刺すような歌声。どれもが衝撃的な今までにないアヴリルだ。"I'm With You"や"Nobody's Home"でも、聴かせる曲を歌う時のアヴリルは、ものすごく寂しそうに見える。繊細でモロくて、壊れてしまいそう。そんなナイーヴな面をさらけ出す彼女に自分を重ね合わせる女性ファンも多いんだろう。
本編最後に" Sk8er Boi"で観客をリードしながら最高潮に盛り上げて、ライヴが始まった時と同じように颯爽とステージを去っていった。そして、アンコール。ここで再びブッチが登場するのだ。ブッチが登場ということは、アヴリルはどこに?と思っていると、彼女はドラマーになっていた。これが今回アヴリルが演奏する二つ目の楽器。Blurの"Song #2"。小さな体で力強くドラムを叩く姿も、またカワイイ。時折唇を噛み締めながら一生懸命叩いてる、というかんじだった。そんなアヴリルの前で、またしても自分のショウ・タイムにしてしまっているのがブッチ。この人は、ほんとに盛り上げ上手だ。ブッチからバトンタッチして、ラストは"Complecated"。観客にマイクを向けると、お決まりの「テル・ミー!」の大合唱。満面の笑みを浮かべたアヴリルは、観客に投げキッスをしてステージを後にした。
アヴリルは、そよ風のようだった。フワリとステージに姿を現し、活気に満ちた草花や空気のにおいを感じさせる清々しい風を武道館中に送り込んで、投げキッスで花を咲かせて、またフワリと姿を消していった。冬の終わりを待つ私たちに、一足早い春の訪れを感じさせてくれた。
-setlist-
He Wasn't / Happy Ending / Take Me Away / Freakout / Unwanted / I Always Get What I Want / Things I'll Never Say / Who Knows / I'm With You / Losing Grip / Together / Forgotten / Tomorrow / Nobody's Home / Mobile / Don't Tell Me / Sk8er Boi
-encore-
Song #2 / Complicated
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