近藤智洋 @ 柳川市総合保健福祉センター「水の郷」(3rd Nov '06)
水と空と夕焼け雲。イメージの一体感
ライヴ前、柳川の観光名所となっている川下りで街を眺めてみた。船頭さんが操る舟が進む速度(歩くより遅い)で時間が流れているような街。あの"まっすぐで柔らかくて強い"歌をうたっている人はここで生まれ育ったのだ。
近藤智洋、十数年の音楽活動の中で初の故郷凱旋ライヴ。会場は「智ちゃんお帰り」と書かれた高校の同級生手作りの横断幕が飾られていたりして、歓迎ムードでいっぱいだった。市民ホールといった趣の場内はもちろんのこと、親戚や同級生で埋まった客席の雰囲気も普段とは違う。暖かく見守るような視線と拍手に迎えられて、広いステージにひとり上がった近藤さんが緊張していたのも当然のことだろう。この客層の前でどんなライヴを見せるのか。期待と不安が入り交じる。だけど、1曲目の"静かな世界へ"が流れた瞬間の会場を見たら、不安を感じる必要などまったくなかったのだとわかった。生まれ育った街で、同じ空気を吸い込んで、同じ時間を過ごした人たちが集まっている。世代が違っても、近藤智洋の歌を知っていても知らなくても、いろんなことを共有してきたのだから、そこに共感が生まれぬはずはない。それでも、初めて自分のステージを観るお客さんのことを考えた選曲も用意していた。こういうところ、近藤さんらしい。「みんなも知っている曲を」とうたった"ムーン・リヴァー"は、水路が入り組む柳川に似合いすぎるくらい似合っていたし、誰もが馴染みのある、この街出身の詩人北原白秋作詞の"この道"ではそれぞれが懐かしく思う道が心に浮かんでいただろう。歌う人の思いと聴く人の気持ちが重なって、そこにはお腹の中から暖かくなる空間が出来上がっていた。
近藤智洋の歌はもともと背景に景色が見えるのだけれど、今日はそれがさらに鮮明だった。"少年"という曲の前に「この歌をうたうと、こどものころ国鉄柳川駅跡で遊んでいた時の風景を思い出す」という話しをしていた。時間が経つのも忘れて夢中で遊んだ空き地、夕方のだんだん薄くなっていく空の色、伸びっぱなしの草と土の匂い。聴く人がおのおの持っている郷愁。客席全体が、夕陽のような照明に照らされたステージにそんな絵を見ていた。今日、この場所でのライヴだからできあがったイメージの一体感。
「柳川に帰ってくると、空が広いなと思う」「変わっていくものもあるけれど、橋の上からみる夕陽とか変わらないものもあって…」と帰郷した時の印象を語ったり、母親から聞いた「人は冒険を忘れたときから老いてしまう」という言葉をきっかけに書いた曲("冬の冒険"。ライヴで何度も聴いた曲だけれど、このエピソードは初めて耳にした)を披露したり。終始、近藤さんの地元への想いが見える、いい凱旋ライヴだった。最後の曲"バンビーノ・ステップ"では、普段より自然に、当然のように手拍子が起こった。世代も距離も越えた、いいグルーヴだった。アンコールもお約束ではない、本物のアンコール。『There is a way, not the answer』と書かれたTシャツを着て近藤智洋は再度ステージに上がった。"ここから"始まった人生、この場所からまた新しい道を歩き始めて、いつか戻ってくる。そういう思いが見えるラストだった。
ライヴ後のロビーには近藤さんとひと言話しをしようという人たちが行列を作っていた。少し興奮したような紅潮した顔でひとりひとりに対する近藤智洋。いい表情をしていた。
-- Set List --
1. 静かな世界へ/2.荒野を抜け、そして戻る。/3.Moon River/4.少年/5.この道/6.Barefoot Diaries/7.冬の冒険/8.走る風のように、落ちる雨のように。/9.Bambino Step
-- Encore --
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