ベック @ 日本武道館 (16th April '07)
春は曙、あるいはベック
前回の武道館でベックを観たときも4月だった。ただ、そのとき満開だった桜が、今回は、ほんのわずかながら枝に残っているだけだ。調べてみると、1999年以降、夏フェス以外の来日が4月か5月なのだ。たまたまなのかもしれないけど、ベックは日本の春とよく合う。ベックは春の季語になってもいいくらいだ。
開演予定時刻から20分ほど押して、"ルーザー"のイントロが始まり、武道館中が沸き立つが、よーく見ると、ステージ中央奥にミニチュアのステージがあって、それぞれメンバーを模したあやつり人形たちが曲に合わせて演奏の当てぶりをしている。それをカメラが撮影して、ステージ背後の大きなスクリーンに映し出されているのだ。じゃあ本物は? と思ったら現れて2コーラス目から生演奏というオープニングだった。
あやつり人形たちは、途中のアコースティックセットの曲休んだだけで、ずっとステージの奥で活躍していた。ちゃんとメンバーそれぞれ動きに合わせていて、ベックがMCをしているときには、口が動いているし、ベックが振り返ってスクリーンを見れば、人形も後ろを向くという芸の細かさ。しかも、そのミニチュアステージの奥にもさらにミニチュアステージがあったり、背後のスクリーンにサイケデリックな画像を映すのだ。入れ子構造、例えばロシアの人形のマトリョーシカみたいというか、トッド・ラングレンのバンドであるユートピアのこんなアルバムのジャケットを思い出させるのだ。
もちろん、見た目は楽しいし、かわいいのであるけど、でかいスクリーンに頼る今のロックコンサートのパロディでもあるだろうし、大きな会場でのライヴはお客さんたちがみなスクリーンを見つめるという事態に「お前らはどこ見てんだよ」という皮肉を表現しているのかもしれない。こうした一筋縄でいかない、いくつも折り重なったメッセージを投げ掛けるのはベックらしいと言える。
選曲は最初の"ルーザー"を始め、"デビルズ・ヘアカット"、"ブラック・タンバリン"、"ニュー・ポリューション"などと続きヒットパレード状態だった。新しいアルバム『ジ・インフォメーション』はライヴの方が、よりロックぽくてよい感じ。途中にメンバーがに集まってのアコースティックセットを経て、ステージにテーブルが現れ、ベックを除くメンバーたちは食卓を囲み、やがて食器をパーカッションに見立てて演奏を始める。自分は観ることができなかったけど05年のフジロックでもおこなわれたこのパフォーマンス、驚いたのと笑えたのは後ろのミニチュアステージでも同じように再現されているのだ!
メンバーが去り、アンコールの声が上がる。スクリーンには、人形たちのショートフィルムが流れる。人形のベックが見た夢という設定で、巨大化したベックが、「ベックジラ」として模型とCGの東京で暴れ回る。ちなみにベックジラが噛み付いた変な形のビルは上野の不忍池近くにあるホテルだ(ホテルの営業は終って解体が決まったようだ)。
アンコールは、"セック・ロウズ"から始まり、"ホエア・イッツ・アット"、"E-PRO"。あやつり人形はミニチュアステージを出てステージの本物たちと共演する。どこまでもユーモアで飾られたステージだった。ただ、最後にひとこと。確かに最高に楽しかったけど、今まで観たライヴの中で、ベックが一番遠く感じられたのだった。別に武道館だからというのではない。以前は大きなステージでも十分感じられた素のベックが伝わりづらかった。まあ、今回の主役はベックではなく、「ベックのステージ」そのものだったのかもしれない。
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report by nob and photos by izumikuma
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