近藤智洋 @ 加古川セシル (18th July '07)
幸福感倍増。加古川ディナー・ライヴ
この日、近藤智洋は最初からリラックスしているように見えた。それを見つめるお客さんも同じような様子だった。兵庫県加古川市での"ディナーライヴ"と銘打ったワンマン。加古川という静かな街の空気や、会場となったセシルが持つ雰囲気、いつもと違う形式のライヴ。さまざまな条件がそういう空間を作る要素となっていたと思う。
ディナーライヴとはどんなものか? 簡単に説明すると、開場後お客さんが揃った頃合いを見て、ブッフェスタイルの食事がスタート。1時間ほど飲食、歓談し、デザートまで楽しんだところで近藤さん登場。と、こんな流れだった。「一緒にごはん食べながら歌ったりするのか?」という予想はハズレ。会場となった『セシル』は、音楽好きのふたりが経営するこぢんまりとした居心地のいいお店。地元の人に愛されているんだろうなぁ、というのが店構えからにじみ出ている。お食事がおいしいのは言うまでもない。以前、近藤さんがホームページでセシルを紹介する際、「おいしいものを食べると幸せになれる」と書いていたのだが、まさにその通りだった。おいしいごはんでお腹も心も満たされて、さらにこれから近藤智洋のライヴが始まる。幸せ感倍増だった。

「普段とはちょっと違うライヴにしたい」。近藤さんと主催者の方でそういう意志をもって作り上げたイヴェント。ディナーだけでも十分なのだが、変化をつけていたのはそこだけではなかった。「初めてライヴをやる場所なので、挨拶がわりに」と、同郷の詩人北原白秋作詞の"この道"を歌った後、2曲目からはリクエストコーナーへ。実はチケット予約の電話を受ける際、お客さんにやって欲しい曲を聞いていたとのこと。久々の"扉をあけて"や、オリジナルより素朴に聞こえるスガシカオの"夏陰〜なつかげ〜"……。聞きたかったあの曲は聞けただろうか? 客席とアーティストとの距離がぐんっと縮まった瞬間だった。このコーナーの締めは「東京都Kさん(自分)のリクエストで(笑)」浅香唯の"セシル"! 「今日、会場を提供してくれたセシルに捧げます」と少し照れくさそうだったけれど、近藤智洋風にアレンジされた歌は予想以上にいい感触。
終始アットホームな雰囲気で進んだライヴ、客席の中に入っていきながら歌い、「今までで一番一体感があった」と笑っていた"Bambino Step〜reprise〜"で客席との壁は完全に取り払われた。音を鳴らす側と受ける側の反応が共鳴しあうなか、マイクもギターのシールドも外して本編最後に歌われた"二人の航海"。情景、感情、この歌から感じられるものすべてがいつもよりくっきりと浮かび上がり、いつのまにか、そこにいた人全員が近藤智洋の世界の住人になっていた。一緒に笑い、泣き、月夜の道を歩いていた。
アンコールの"静かな世界へ"を聞きながら、前日に見た京都の古い建造物を思い出していた。長い年月を経て、色が変わり、苔むし、雨も風も吸収して、それでも変わらずそこに建つもの。"静かな世界へ"を初めて聞いたときは、ひたすらフジ・ロックの風景が頭に流れていた。でも、今はフジ・ロックはもちろん、去年のレコ発ツアーや柳川での凱旋公演、これまでに観てきたいろんなライヴのことが浮かんでくるようになった。この曲も歴史を刻みながら、色を変え、厚みを増し、それでもそこにある歌になるのだろう。アルバム『近藤智洋』の1曲目はアルバムの枠を越えて、より大きな存在になっている。
2回のアンコールで幕を閉じたディナーライヴは、最初から最後まで暖かい空気につつまれ、家路につくお客さんもみな、いい笑顔をしていた。
加古川は決してメジャーな都市ではないと思う。こういうところに行くと、いろんな場所があって、いろんな人が近藤さんを好きでライヴを観たいと思っていて、それに応えようとする近藤さんがいてライヴがある、ということに改めて気づかされる。そういう思いが集まって実現する企画は、気持ちがこもっていてすごくいい。「自分らしくライヴができるスペースを作りたい」近藤さんがMCでそう話していた。加古川セシルは確実にそのひとつになったと思う。打ち上げの時、すでに「次はもっとこうしたい」という話がスタッフさんの間であがっていた。ひとつのいいライヴは、また次に繋がっていく。
「僕の前に道はない、僕の後に道はできる」(高村光太郎/『道程』)。
ある本でこの言葉を観たとき、近藤智洋の姿が重なる気がした。自分の足で旅をして、自分の歌で道をつくっていく姿が。
set list
1. この道 (北原白秋/山田耕作)/2. 扉をあけて/3. 多摩蘭坂 (RCサクセション)/4. 夏陰〜なつかげ〜 (スガシカオ)/5. SAD SONG (THE ROOSTERS)/6. セシル (浅香唯)/7. Baby Boo/8. 草原/9. about a boy (古明地洋哉)/10. BAREFOOT DIARIES/11. 恋に落ちたままで/12. BAMBINO STEP 〜reprise〜/13. 二人の航海
〜 ENCORE 1 〜
1. FISHERMAN'S BLUES (THE WATERBOYS)/2. 静かな世界へ
〜 ENCORE 2 〜
1. Heart of Gold (Neil Young)
近藤智洋ライヴスケジュール
8月11日 三軒茶屋グレープ・フルーツ・ムーン
8月15日 新宿レッド・クロス
〜北海道ツアー〜
8月21日 帯広 ふた葉亭
8月22日 旭川カジノドライブ・ラウンジスペース
8月23日 小樽BBC
8月25日 函館あうん堂ホール
8月26日 札幌ホール・スピリチュアル・ラウンジ
8月27日 札幌演劇専用小劇場ブロッシュ
*詳細、その他のスケジュールはオフィシャルサイトをご覧下さい。
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