Castanet 11th Anniversary "近藤智洋ワンマンライヴ"
@ 札幌 演劇専用小劇場 ブロック
スポットライトの月の下で
近藤智洋、札幌初ワンマンライヴ。2003年に初めて札幌で弾き語りをやってから4年。自分を100%みせられる場所までたどり着いた。そこには、定期的に北海道に足を運び、いいライヴを繰り返し、たくさんの人とつながりを作ってきた成果そのものがあったように思える。
このライヴを企画したのは、札幌市内にある『カスタネット』という雑貨屋さん。店長の那須さんが敷地一坪から始め、徐々に大きくし、今年めでたく11周年を迎えたお店だ。今ではサッポロ・ファクトリー向かいに店舗をかまえ、札幌はもちろんのこと、道内外の多くのファンから愛される存在となっている。那須さんはピールアウト時代からの近藤さんのファンで、交流も深い。ファースト・アルバムリリースの際はお店にCDを置き、特典バッヂも作ってしまったほど。今回のワンマンは、開店11周年の記念ライヴに近藤さんをぜひ呼びたい、場所にもこだわって、雰囲気のいいところでやって欲しい。そして、今まで近藤さんを知らなかった人にも歌を聴いて欲しい! 聴けば絶対に好きになるから! 那須さんのそういう強い思いがあって実現した企画だった。
会場となった『ブロック』は、カスタネットの裏にある演劇小屋だ。客席はひな壇になっていて、普段のライヴ会場とはひと味もふた味も違う雰囲気。場内はカスタネットの11周年を祝う人と、近藤智洋のワンマンに期待を寄せる人とでいっぱいになっていた。おめでとうと楽しみ! の気持ちがはなやぎとなって、照明よりも会場が一段階明るく見えている。
開演前に流されていた映像が止まり、スクリーンが消えると、目の前に演劇小屋らしいステージが浮かび上がった。高めの天井、広い舞台、演者を照らす白い照明。そんな空間に近藤智洋はいつもと変わらない柔らかな空気をもって現れた。いやむしろ、周囲の暖かさを吸収して、いつもより粒子の細かい、観ていて安心できるオーラを出していたかもしれない。1曲目のイントロ、ハープの音が静かに流れると、真っ暗な空間に川面に映る月明かりのようなスポットライトがぽっと灯る。外はちょうど皆既月食の真っ最中だったけれど、ここにある月は欠けることなく近藤智洋を照らしている。
"静かな世界へ"の最初の言葉が耳に入ってきたとき、明らかにいつもと違う響きを感じた。暗やみにすっと差し込む光のような、潜っていた水中から顔を出し思いっきり吸い込んだ空気のような、真っ直ぐ心の中に入ってくる響き。会場の音の良さはもちろん、充実していた北海道ツアーの最終日、大好きな札幌で気持ち良くうたえるうれしさも関係していたと思う。1曲目から、初めて近藤さんを観る人も、もう何度も観ている人の気持ちもグッとステージに引き込んだ。
ピアノセットの始まりは、"この道"と"ムーン・リヴァー"のカヴァーを。"この道"は福岡県は柳川(近藤さんの故郷)出身の北原白秋が作詞した札幌の唄。歌う人と聴く人の間にクロスするものがあるのがうれしい。"ムーン・リヴァー"ではずっと月明かりに見えているスポットライトが余計に映えて、本当に月夜の晩に夜空の下で聴いているような気分になった。映画『ティファニーで朝食を』でオードリー・ヘップバーンが歌っているというこの曲。歌詞を直訳するとかなり難解で、人によっていろいろな解釈があるようだが、近藤智洋の"ムーン・リヴァー"は、彼の歌詞によくでてくる月の夜と大事な人やものを思い出し、切なくなったり懐かしくなったりする、そういう歌になっていた。
再びアコギに戻った後半は、しっとり聴かせた前半からがらりと流れを変えていった。今年できた新曲"草原"、"Barefoot Diaries"〜"恋に落ちたままで"とアップ・テンポの曲を続けて十分に会場の温度を上げたあと、"バンビーノ・ステップ"でのコール&レスポンスが始まる。「Yeah~Yeah~YeahYeahYeahYeha~」からカスタネットをお祝いする言葉まで、ステージと客席の息がぴったり! 本当に初ワンマンなんだろうか? 札幌の人たちは暖かい。「帰りたくない〜」「また来るから〜」とうたっていたのはまぎれもない本心だった。
本編の最後はマイクをとおさずに歌う"二人の航海"。曲ができてからずっとライヴでやり続けている歌を、札幌の初ワンマンに足を運んでくれた人たち、企画してくれたカスタネットの人たちに、本物の自分の声で伝えたいという気持ちが入っていた。決して声量があるわけではないのに、不思議と客席のすみずみまで声が流れ着いていく。相手のことを優しく想うこの歌が胸の中まで届いたとき、(自分にむかって)うたって欲しい人、うたってあげたい人が各々の心に浮かんだのではないだろうか。そんなイメージを映したまま、最後の音が暗がりに吸い込まれるように消える。あとに残る余韻。一瞬の静けさ。その後におこった大きな拍手。これまでで聞いたなかで一番気持ちのこもった拍手に聞こえた。
終わった後もほっと胸の内が暖かくなる、本当にいいワンマンだった。会場に来ていたひとみんながそう言っていた。「近藤さんとカスタネットが作ってきた人望と、それぞれを慕ってきたお客さんと。いろんなものが重なってできた成功だね」。ある人が言ったこの言葉が、今日のライヴそのものだった。
set list
1. 静かな世界へ/2. Heart of Gold (※Neil Young「Harvest」)/3. 荒野を抜け、そして戻る。
4. この道 (※北原白秋/山田耕作) /5. Moon River (※Audrey Hepburn)/6. 少年/7. Baby Boo 8. 見知らぬ魂 (4〜8、ピアノセット)
9. 草原/10. BAREFOOT DIARIES/11. 恋に落ちたままで/12. BAMBINO STEP/13. 二人の航海
〜 ENCORE 〜
1. ここから
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