サイプレス上野とロベルト吉野、面影ラッキーホール @ 渋谷デュオ (16th Sept. '07)
下流社会のファンク・ミュージック
この日の渋谷は金王八幡宮の祭だった。道玄坂上から神輿が下がってきたし、渋谷Duoの前も別の神輿が通り過ぎるという喧噪の中にあった。渋谷DuoはO-Eastと同じ建物の一階にある。この辺は狭い一角にライヴハウスが集中している。Duoは渋谷クアトロくらいの規模だろうか、思ったより広かった。フロアの柱がなかったらもっとよいけど、仕方がない。
まず、サイプレス上野とロベルト吉野(サ上とロ吉)が登場する。MCのサイプレス上野とDJのロベルト吉野のヒップホップ2人組で、自虐的なギャグと意表をついたネタ使いで笑わせる。ヒップホップのマッチョイズムを茶化し、「ドリームランド」や「元町」などの地名をライムに折り込んで横浜出身を全面にアピールして、おもしろうて、やがて悲しきヒップホップな日常を語る。およげ!たいやき君をサンプリングしたのも面白い。ジャパニーズ・ヒップホップをシニカルな視線で捉えて、パロディぽいところもあり、それらを笑おうとしている。
約30分後、面影ラッキーホールのメンバーが現れる。ファンキーな演奏をバックにギターが唸りを上げ、ホーン隊が高らかに鳴ると、ヴォーカルのアッキーが登場する。日焼けした上半身にジャケットだけ羽織り、ゴールドのネックレスを首から下げ、サングラスという出で立ちは、太ったDJ OZMAという感じもする。
そして、ファンクあり、ジャズあり、ヒップホップあり、ソウルバラードありとブラックミュージックの要素がたっぷりなのだけど、歌詞は昭和歌謡を突き抜けて、ヤンキー、やくざ、水商売、風俗嬢など、場末でうごめく男と女のやる瀬ない日常を描く強烈な世界なのである。人間の負の部分を笑いにまで昇華しつつ、どうしようもない生き物としての人間を冷静に直視する。例えば、多くのポピュラーミュージックはセックスを歌う。それは日本に限らず欧米でも、「メイク・ラヴしようぜ」や「あなたに抱かれたい」や「おまえを抱きたい」から、ほんのり匂わせているものまで数限りなくある。だけども、避妊もせずに勢いでセックスをした場合どんなことになるのかは、ほとんど歌われないのが実情だ。その先のことは、考えられない、考えたくないということなのだ。それは無責任なことなのではないだろうか? ラヴソングが愛を歌うのなら、自身の行為の結果をきちんと見つめることも愛だろう。
「おろしたくない」と歌詞の中で妊娠を告白する"好きな男の名前 腕にコンパスの針でかいた"、幼なじみを孕ませて駆け落ちした夫婦が実家に戻ったときの話"あんなに反対していたお義父さんにビールをつがれて"、そしてまさにタイトル通り、子供をほったらかしにしておくとこうなる"パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた...夏"と、勢いでやっちゃった後で何がやってくるのかを歌っている。ほとんどのアーティストが避けて通っている題材を取り上げ、それがちゃんとエンターテイメントになっているのだ。特に、"パチンコやってる間に産まれて間もない娘を車の中で死なせた...夏"は、アース・ウインド&ファイヤーを思わせる怒涛のファンクナンバーなのだが、それでいて「代紋(エンブレム)TAKE2」や「ミナミの帝王」というヤンキーなアイテムをちりばめ、「呑んでは殴る旦那」や「慣れない夜の仕事」から逃れるために、パチンコをやるという、どうしようもない悲惨な日常が巧みに歌われる。目の前に2時間ドラマやVシネマのような情景が浮かび上がる。実際、ある夏フェスの駐車場で、この歌のような緊迫した事態になったと聞く。これは決して他人事ではない。
話は戻って、この日のライヴはアッキーのテンションが高く、激しいナンバーではシャウトし、生活感あふれる切ないバラード"おみそしるあってめてのみなね"の身を絞るような絶唱など、みどころが多かった。本編は"俺のせいで甲子園に行けなかった"で、会場も大盛り上がり。アンコールの"東京(じゃ)ナイトクラブ(は)"では踊りまくりで締めくくったのであった。
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