バトルス @ 渋谷クラブクアトロ (1st Oct '07)
21世紀の深紅王者
いまさらだけど、すごい人気に驚く。東京は追加公演に再追加公演が出た。追加公演の渋谷クアトロもお客さんで満員だった。いろんなタイプのお客さんがいて、一見してどんな客層だかつかめない。思ったより女の人も多いし、男も年齢はやや高めだろうか。!!!(チック・チック・チック)やレディオヘッド、フジロックのTシャツが目につく。期待が充満しているところに10分くらい押して、まずデイヴ・コノプカがステージに現れる。ベースを弾き、そのフレーズをサンプリングしてループを作り、繰り返されるその音にエフェクターをかけて、さまざまな音を出している最中に残りのメンバーも現れてライヴがスタートした。
目を引くのはジョン・スタイナーによるドラムのセッティングである。シンバル一枚だけ通常ありえないほど高いポジションにある(フジロックでの写真がわかりやすい)。その迫力あって、豪放でありながら、繊細にリズムを刻むプレイは、マグマのクリスチャン・ヴァンデを思い出させた。そしてタイヨンダイ・ブラクストンは、右手でキーボードを弾くのと同時に左手でギターのフィンガーボードをタッピング奏法で弾くというトリッキーなプレイも見せる。リアルタイムで弾いた楽器のフレーズや声をサンプリングしてそのループに生演奏を被せていくのを随所に見せて、すさまじくテクニカルな世界を作り出す。そうした見た目の驚きもあるけど、それを苦労してやっています、というように映らないのが、さらに驚かせるのだ。
そんなバトルスを観て、おそらく30代中盤以上のロックファンが思うのは、「キング・クリムゾンだなぁ」ということだろう。彼らは80年代以降の「ディシプリン」クリムゾンの精密さと、70年代の「太陽と戦慄」クリムゾンの狂気と迫力がある。「機械が作るループに生演奏をかぶせていく」というのは、キング・クリムゾンのロバート・フリップが開発したフリッパトロニクスのアイディアに近いし、「踊れるプログレ」というのも80年代のキング・クリムゾンが目指していたものだ。実際"フレイム・バイ・フレイム"を思い出させる曲もある。だからといって、過去を懐かしんでいるのではなく、それぞれのキャリアを誇るメンバーが集まって探り当てたのが、この音だったのだという新鮮さ、リアルタイムな感じがある。
それは、この日のピークである"アトラス"での盛り上がりを見ればわかる。ストイックな印象のあるバトルスにしては珍しくキャッチーでズンドコしたドラムが作り出すリズムは、ゲイリー・グリッターからマリリンマンソンまで髣髴とさせてフロアを踊らせるし、「オーエーイオー」と大合唱まで湧き上がるのだ。その合唱を聞いていると豪栄道が頭に浮かんだりするのだが。それにしても、"アトラス"以外はストイックでテクニカルで圧倒的な迫力の音楽がこんなにお客さんを集めて、しかも大勢が踊るというのがなんだか面白い。キング・クリムゾンがあれだけダンサブルな曲をやっているのに、(日本の)お客さんは微動だにしないのと好対照だ。それは、プログレとかの過去のしがらみがないからだろうか? バトルスは頭で考えて作る音楽と、身体を動かして楽しむ音楽が究極的に合体したものだろう。それはロバート・フリップが見ていた夢だったのだけど、バトルスとそのお客さんたちは、それを楽々と実現してしまったような気がしてならない。
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report by nob and photos by izumikuma
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