近藤智洋 @ 四国中央市 珈琲蔵(1st Nov '07)
愛媛の東端、ここにも歌は届いてた
四国中央市で近藤智洋がライヴをやる。しかもワンマンで、しかもチケットはソールド・アウトだという。どんなライヴになるのか、気になるではないか。気になったら、行くしかないではないか。恥ずかしながら、私は四国中央市が何県にあるのかすら知らなかった…(知っている人にはいわずもがなだが、四国中央市は愛媛県である。無知失礼)。何度も行き方を調べ、辿り着いた伊予三島駅。遠くに製紙工場が要塞のようにそびえ、にょっきり伸びた煙突が白い煙をはいているのが見える。それ以外は特に目立つもののない静かな街。こんなに小さな街にも、近藤智洋の歌に惚れ込み、ライヴを開催しようとする人たちがいる。いい音楽の伝達には、瀬戸内海も障害にはならないみたいだ。
会場となった珈琲蔵は、ちょっとしたファミレスくらいの広さがある喫茶店。床も梁もどっしりとした木造りで、天井が高く、音が良く響く。柔らかい照明と、気持ちを和ませるコーヒーの香り。そこで働く店員さんのてきぱきとした対応と、特別な夜にちょっとおしゃれをして集まってきた様々な年代のお客さんたち。いいライヴの予感がする。
「お店に入ったときに、今日はゆったりやりたいな、と思った」。そんな言葉どおり、ゆったりとしたかまえで店の角に据えられたステージに立った近藤智洋。同郷の詩人、北原白秋作詞の"この道"を名刺代わりに、ライヴをスタートさせた。会場の雰囲気とグランドピアノの音色で、柔らかい空気は流れるものの、そこはやっぱり初対面(の人が多い)同士。届けたい思いと、受け止めようとする気持ち、お互いに新鮮な緊張感がある。前半はオリジナルとカヴァーが半々だったが、つかみの1曲目以外は"自分はこんな曲をうたっていて、最近はこんな歌が気に入っているんですよ"と自己紹介をしていくような選曲。初めて訪れる土地で、初めて自分を観る人も多いことを意識してか、1曲1曲丁寧に解説を入れながらうたっていく。こうやって、ちょっとした説明を聴きながら歌に触れると、そこにイメージが浮かびやすくなるし、歌詞のひとつひとつが具体的な形になって見えてくる。それがもっともはっきり出たのが、前半最後の曲、"アバウト・ア・ボーイ"(古明地洋哉のカヴァー)だった。「この曲のサビは『君を導く星が見えますか? 一緒に見えたらいいな』というようなことを歌っているので……。今、少しヒントを与えたから」。そう話した後、すぅと息をひとつ吸い込むくらいの間、想像の扉が開く時間をあけて、イントロのハープを鳴らした。
近藤智洋の歌は、静かで優しいのに、ゆるぎのない強さがある。ときおり見せる、鋭い光を放つ目がその強さを物語っている。去年の柳川での凱旋ライヴや8月の札幌、芝居小屋でのワンマン、いろいろなお客さんの前で、さまざまな様相の会場で、あらゆる状況の中でライヴやってきた。そういう人だからこそ出せる強さなのだ。
2部構成のライヴ後半、歌のもつ力が珈琲蔵の中にきれいに浸透して、歌い手と聞き手の距離が少しづつ縮まっていった。"ムーン・リヴァー"、"アクロス・ザ・ユニヴァース"といったカヴァーは、大抵の人が耳にしたことのある曲。客席との境界線をなくすのに、有効で友好な選曲だった。そして、あっという間に来てしまった本編最後の時。限りなく薄くなったラインをもう1歩踏み越えるように、ギターのシールドを抜き、客席の中ほどまで行って生声でうたったのは"二人の航海"。高い天井を伝って、飾らない本物の声が流れるなか、客席では、近藤智洋を観るのはもちろん、もしかするとこういったライヴも初めてなのでは? と推測される年代の方が、うんうんとうなずきながら歌う姿を見つめ、足で拍子をとって一心に曲を聴いている。2007年のライヴで毎回うたわれてきたこの歌、近藤智洋が続けてきたことが、つながって、四国までやってきて、ここでもまた伝わっていた。その様子を目の当たりにし、曲が終わるまでに何度目をしばたかせたかわからない。
「このライヴをきっかけに、思い出す歌があったり、また聴き始める曲があったり。ここから何かが始まればいいなと思います」。お客さんとスタッフとみんなからの暖かいアンコールに応えてうたった"ここから"で、四国中央市、珈琲蔵でのワンマンは幕を閉じた。聞けば、珈琲蔵にアーティストを呼んで本格的なライヴをやったのは、これが初めてだったという。近藤智洋の歌は、いわずとも"ここから始まる何か"を創っていたのだ。
-set list-
〜 FIRST STAGE 〜
1. この道 (※北原白秋/山田耕作) <※piano>/2. 春風 <※piano>/3. 小さな夜を抜けて <※piano>/4. ジェネレーションズ (※kaoru「詩人は夜明けにガムを噛む」) <※piano>/5. 静かな世界へ/6. about a boy (※古明地洋哉)
〜 SECOND STAGE 〜
7. 11月の祈り <※piano>/8. Moon River (※Audrey Hepburn) <※piano>/9. Baby Boo <※piano>/10. ACROSS THE UNIVERSE (※THE BEATLES「LET IT BE」) <※piano>/11. 走る風のように、落ちる雨のように。/12. 二人の航海
〜 ENCORE 〜
1. ここから <※piano>
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【近藤智洋&ザ・バンドファミリア 東名阪ツアー】
・12月1日 名古屋クラブ・アップセット
・12月2日 梅田ハード・レイン(ワンマン)
・12月4日 下北沢クラブ・キュー(ワンマン)
詳細、その他のライヴスケジュールはオフィシャルサイトをご覧ください。
report and photos by wacchy
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