button高鈴 @ 姫路マハ (22nd Mar. '08)

『ただのポップ・ソングで終わらないワケ』

高鈴
 カメラのシャッター音、服がこすれる音、フロアに響く足音、そして呼吸音……。ステージから音が鳴り続ける間、フロアで生じるあらゆる音がノイズとなる。緊張感すら漂う静けさの中、ソファーに腰かけたオーディエンスは、まばたきすら惜しむかのようにステージ上の1点を見つめていた。視線の先にあるのは必死の表情で歌う山本高稲の姿。その隣には黙々とギターを弾く山口彰久がいる。このふたりこそ、今回紹介する高鈴(こうりん)というアーティストだ。

高鈴

 高鈴の音楽はポップ・ソングだと個人的に思っている。山本が歌う詞は日常や恋愛といった普遍的なテーマが主であり、山口のギターが奏でるメロディーは歌を際立たせる黒子的な役割を担っている。世間に溢れるよくある歌……。一度聴いただけでは、そう感じてしまう人もいるかもしれない。だが、高鈴の音楽がただのポップ・ソングの枠に収まらないものであることは、この場に集まったオーディエンスの表情が雄弁に物語っていた。ある者は目を閉じてその歌に耳を傾け、またある者は恋人に会っているかのように幸せそうな笑顔をみせている。フロアに浮かぶ豊かな表情は、高鈴の音楽にある奥深さをそのまま反映しているようだった。

高鈴

 数曲を終えたところで一度休憩をはさみ、セカンドセットへとうつる。時間の経過と共に場内の空気が濃密になっているのを感じた。ステージ上では山本が表情をくしゃくしゃにしながら歌っている。周囲からどう見られているのか、そんなことを気にした様子は微塵もない。高鈴のライブでは涙する人が多いと噂を聞いていたが、実際にこの空間に身をおくことでその理由がよく分かった。ステージとフロアで向かい合う両者は、お互いに対して共に真剣なのだ。踊り出す人もいなければ、体を揺らす人もほとんどいないが、その静けさの中には確かな心地良さが存在していた。

 原稿を書きながら、いくつかの要素があの空間を構築していたことに気がついた。愛のあるオーガナイザーチーム、その想いに応えたアーティストの演奏、それを聴きに集まったオーディエンスの存在はもちろんだが、もうひとつ欠かせないものがある。それは「時間」だ。高鈴のライブには何かストーリー性があるのだろう。じっくりと読み深めるように聴くことで本質にふれることができる。ワンマンでのライブがまだ多くないのだが、今後この日のようにゆっくりと彼らの音楽に浸れる機会が増えていくことを願っている。

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